静かなる思い 6
ユウトとリュッカは服を着て、洞窟の外に出て川沿いに歩いていた。
「リュッカ、こっちでいいんだよな」
「はい」
洞窟を出てからというもののリュッカは簡単な返事しかしない。
そんな様子を見てユウトは小さくため息をついて歩いていた。
ガサガサ
茂みが揺れる音がした。
近くが森なので、動物が動いて茂みを揺らしたのだろう。
ガサガサ
違う茂みが揺れた。
1回なら偶然かもしれないが、2回は偶然ではなく何かの要因があるはず。
しかも1回目と2回目では2回目の方が近くで揺れている。
野生動物が人間の方に向かってくるなんて普通ではありえない。
(俺達を餌として見ている?いや―)
普通の動物は、魔法を使う人を恐れて近くに寄って来ない。
なのに、こちらに向かってくる。
ということはユウト達よりも恐ろしいものがこの森の中にいる。
(そうなると、魔獣か?それとも、強大な捕食者か?)
どちらにしても、ここにいたら面倒なことになる
「リュッカ。ここから急いで離れるぞ!!」
「どうしてでしょうか?」
リュッカは首を傾げる。
「話している暇はないからあとで話す」
ガサガサ
茂みをかき分けて熊が出てきた。
「く、熊?」
リュッカは熊を見て驚いていた。
熊はユウトとリュッカを無視して、逃げようとしていた。
「に、逃げていきます?」
全くわからないという様子でリュッカは見ていた。
「まずいな」
ユウトが言った瞬間、
ブンブンブン
羽音が聞こえてきた。
(姿は見えないけど、この音の大きさだとかなりの大きさの生き物だよな)
考えている間にも羽音がどんどん近づいてきて、とうとうその音を出している物の姿が見えた。
見た目は蜻蛉のように見えるが、尾に針が付いている、羽が8枚あるといったところに違いが有るが1番の特徴は大きさだ。
さっきの熊よりもさらに大きく、楽に熊を食べれるような巨大なあご。
「ユウ君、あれは蜻蛉?」
「いや、あれは魔蟲だな。しかも合成したやつだな」
魔蟲は魔獣の虫版で、ほとんどが虫と変わらなく無害のものばかりだ。
(でも、魔蟲の大きさは普通の虫と変わらないはず)
だからこの大きさは何か改造されているはず。
(何が混ざっている?)
ユウトは蜻蛉を見た。
身体のベースは蜻蛉だが、尾に針があるから蜂、羽は蜻蛉の羽だろう。
キェェェ
蜻蛉が叫ぶ。
ユウトとリュッカは耳を塞いだ。
「リュッカ逃げるぞ」
「はい」
ユウトとリュッカは蜻蛉と反対の方に逃げようとしたが、
蜻蛉はさっきまで熊を追いかけていたのにユウトとリュッカを見つけたことで目標を変更して、ユウトとリュッカの方に向かって羽を羽ばたかせた。
「リュッカ伏せろ!!」
ユウトが叫ぶとリュッカは身体を低くした。
身体を低くした瞬間、リュッカの前の木が切り倒された。
「風撃刃ですか?」
「ああ。」
ソニックブームとは風属性の第3階梯で風の刃を飛ばすという魔法だ。
羽から出たところを見ると、通常の蜻蛉の羽より4枚多いのは攻撃用の羽なのだろう。
(どうする。逃げるにも遠距離攻撃してくるから、かわしながらは、辛いか)
ユウトは魔剣を抜いて蜻蛉の前に立った。
「リュッカ、先に行って、フレイヤ達と合流してくれ」
ユウトがそう言うと、リュッカはユウトの隣に立ち、
「嫌です。怪我をしているユウ君を置いては行けません」
リュッカはそう言い鞭を取り出した。
ユウトはリュッカの顔を見て、軽くため息をついて、
「わかったよ。俺が奴の気を引くからその間に奴の羽を切ってくれ」
「わかりました」
ユウトは蜻蛉に向かって魔力を込めた石を投げた。
「キェェェ」
蜻蛉は狙い通りユウトの方に向かってきた。
ユウトは注意を引きながらリュッカから離れる。
「キェェェ」
蜻蛉が羽を動かした。
(来る)
ユウトは両手で魔剣を構え、蜻蛉に向かってまっすぐ剣先を向けた。
ソニックブームが辺りの枝を切り落としながらユウトの方に飛ぶ。
「はああああ」
ユウトはソニックブームを魔剣で掬い上げて上に方向を変えた。
(ソニックブームが見えていなくても、これだけ枝があればどこにあるかわかるな)
「いきます」
リュッカは水を纏わせた鞭を蜻蛉に向かって振りかぶった。
鞭は狙い通り蜻蛉の羽に当たったが、傷1つついていなかった。
「無傷ですか…」
リュッカは驚いていた。
「キェェェ」
蜻蛉が叫び、羽を動かし始めた。
(さっきまでの動かし方と違う?)
蜻蛉の羽から不快な音が鳴り響く。
「くそ」
ユウトとリュッカは耳を手で塞ぐ。
蜻蛉は不快な音を出しながらリュッカに近づいていく。
「おおおおお」
ユウトは蜻蛉の顔を殴った。
蜻蛉は頭から木にぶつかり、倒れた。
その衝撃で木は折れ、砂埃が舞った。
「―!!」
リュッカが何か叫んでいるが、聞こえない。
ユウトは耳の辺りを触った。
(血?って、ことは鼓膜が破れたか)
「リュッカ、鼓膜が破れたみたいだから、何も聞こえない」
「―!!」
何か叫んでいるがまったく聞こえない。
砂埃を吹き飛ばして、蜻蛉が現れた。
蜻蛉も鳴いているがユウトには聞こえない。
ユウトが殴ったぐらいでは蜻蛉にダメージは入っていないようだ。
(流石に腕力だけじゃあ無理か。魔力は温存しておきたいんだがな)
折れた腕で殴ったため、左腕が使い物にならなくなってしまった。
蜻蛉がまたソニックブームを放ってきた。
「おおおおお」
ユウトは片手で魔剣を握りソニックブームを弾くが、片手では力が足りなく弾ききれず、斬り裂かれる。
「くっ」
ユウトの右腕から鮮血が飛び散る




