炎より熱く 8
ユウトがポットにお湯を入れてフレイヤ達の方に戻ると、フレイヤ達は本棚やベッドの下などを探っていた。
「えーと。何しているんだ?」
ユウトがそう言うとフレイヤ達は飛びあがりそうなくらい驚いていた。
「はあ。まったく人の部屋を勝手に触るなよ。で、目当てのものは見つけたか?」
ユウトが皮肉を込めて言うと、フレイヤ達は顔を伏せた。
そんな様子を見て、
「触るなとは言わないけど、一言言ってから触れよな」
ため息まじりに言う。
ユウトは紅茶をカップに淹れ、それぞれに渡した。
「んじゃあ、作戦会議をはじめるぞ」
さっき学園長に貰った資料をテーブルの中心に置いた。
「相手のメンバーはAクラスが2人とBクラスが4人なのよね」
「ええ。こちらの方がメンバーのクラスは高いですけど…」
「わたくし達は簡単な魔法しか使えませんし」
「だけどBクラスの4人なら勝てると思うが、Aクラスの2人が問題なんだよな」
「アリスとシャガールだな」
「ねぇ、その2人はどれくらいの強さを持っているの?」
「あたしもアリスが氷属性でシャガールが土属性ってことしか知らないわ」
「そうか。俺もアリスの方はどれくらい強いのかは知らないけど、シャガールは強いぞ。特に―」
巨躯の魔斧使いの戦う姿を思い出した
彼が使う土魔法の壁は魔剣では斬ることができなく、ダメージが与えられず引き分けになった。
硬さなら学園1だろう。
(彼とは二度と戦いたくないな)
「それでユウト、シャガールの対策は考えてあるの?」
「ああ。リュッカの水剣が効くからな。それでシャガールの壁を斬ればいけるけど…」
「けど?」
レイシアが訊く。
「アリスが問題なのですね」
「ああ。氷属性だと水が凍らされて攻撃が効かないからな」
「じゃあ、あたしがアリスを倒すわ」
「あちらもそう来ると思っているだろうから無理と思う」
スティアがフレイアに向かって言う。
「うー。じゃあ、どうするのよ」
「では、わたくしの華麗な技で倒しますわ」
エレナが髪を手で払い自信満々に言う。
そんなエレナを見て、
「うるさい、金髪バカ。あんたはあたし達と同じで簡単な魔法しか使えないんだから属性で有利でない雷属性じゃあ無理よ」
馬鹿にしたようにフレイヤは言う。
「フレイヤ、またわたくしを金髪バカと言いましたわね!!」
「バカにバカって言って何が悪いのよ」
フレイヤとエレナがまた今にも取っ組みかかるような喧嘩をはじめそうになる。
「ほら、喧嘩をするな。チームの迷惑になるから止めないか」
スティアが注意した為、フレイヤとエレナは喧嘩をするのを止めた。
やはり風紀委員長をしているだけあってスティアはまとめるのがうまい。
「えーと、エレナ」
「ユウトさん。なんですの?」
「エレナには主体となってBクラスの相手をしてほしい。属性の相性と魔装具を考えると1番適していると思う」
「わかりましたわ」
残りの4人のBクラスの使う属性は水、風、火、闇で、水と風に有利な上に弱点となる属性が相手にいない。
ユウトのチームの魔装具はユウトのロングソード、エレナのレイピア、スティアのロングボウ、フレイヤのハンドガン、レイシアのロッド、リュッカのムチ。
剣系の魔装具は普通の剣と変わらなく、接近戦用の武器。
弓系の魔装具は威力がそこまで高くはないが遠くまで届くという遠距離武器。
銃系の魔装具は威力が高いがあまり遠くまで届かないという中距離武器。
鞭の魔装具は魔法を纏わせて戦うという中距離武器。
杖系の魔装具は殺傷力がないが魔法の補助をするという遠距離武器。
なので、前衛ができるのはユウトとエレナ、中衛ができるのはフレイヤとリュッカ、後衛ができるのはスティアとレイシアとなる。
だけど、
「リュッカ、お前の魔装具はまだ戻って来ないのか?」
「はい。まだ戻って来ないのですが、あと少しで戻ってくると思います」
今、リュッカの魔装具はメンテナンスの為実家に送っている。
だからリュッカは魔装具なしの為後衛で戦ってもらうしかない。
「あまりいい作戦ではないけどいいか?」
「とりあえず話してみたらどう?それからみんなで決めましょう」
「ああ。俺とフレイヤでAクラスの2人を抑えて置く間にエレナ、リュッカ、スティア、レイシアがBクラスの4人を倒すという作戦だ」
「ユウ君がAクラスの2人を抑えるのはわかりますが、どうしてフレイヤが一緒に抑えるのですか?」
リュッカは首を傾げて訊く。
リュッカが訊くのは当然だろう。さっきスティアも言ったようにアリス達もフレイヤをアリスにぶつけることは考えているはずだ。
「スティアが言っていたようにアリス達もフレイヤをアリスにぶつけるのは考えるだろう」
「じゃあ、どうしてフレイヤを?」
「だからこそぶつけた方がいいんだよ。相手も当たり前のことすぎてやってこないと思っているからいけるはずだ。あとフレイヤの魔法はただの火属性じゃないしな」
「「「「「えっ?」」」」」
全員がユウトの方を見る。
「だからフレイヤの魔法はただの火属性じゃないんだって」
「ユウト。どういうこと?」
「フレイヤの使っていたあの爆炎は番外魔法の中でも特異魔法というものだよ。調べたけど、どの魔導書にも乗っていなかったし、魔法式も火属性の魔法式じゃないしな」
「あたしの魔法が特異魔法!?」
フレイヤの驚くのも無理がない、
特異魔法とは、通常の魔法と違い特殊な効果が付与された魔法だ。
使えるようになる条件や魔法式の構成は不明で、
普通の人では使うことができず、存在すら知らない人も多い。
「ああ。だから今使っている魔法とは違う魔法式で魔法を使えば、普通の火属性の魔法が使えるはずだ」
「あたしはどうしたらいいの?」
フレイヤはまっすぐとした瞳でユウトを見つめながら訊く。
「フレイヤは誰か憧れている人の炎を思いながら魔法を使えばいいよ」
「憧れている人の炎?」
「ああ。魔法は想いが大切だからな。父親とか兄弟の炎とかな」
「わかったわ」
ユウトは再び全員の顔を見る。
「それでさっきの話に戻るけど、みんなはどう思う?」
「そこまで言われたら私もその作戦でいいと思います」
「あたしもいいわ」
「私もいいぞ」
「わたくしもいいと思いますわ」
「私もいいと思うわ」
全員が賛成した為、明日の試合はユウトの作戦で行くことになった。
明日の作戦も決まったのでユウトは紅茶をゆっくり飲む。
「ユウトさん、この紅茶美味しいですわ。どこで茶葉を買いましたの?」
「普通に学園都市で買った茶葉だぞ」
「そうですの。それにしてもいい茶葉を使っていますわね」
「いや、エレナ達がいつも飲んでいるような高いのじゃなくて普通に庶民が飲むような安いのだぞ」
「そうですの?」
エレナは驚いたように紅茶の入ったカップを見る。
「ユウ君の淹れ方がいいので、普通の茶葉でも高級のものよりも美味しくなるのです」
「ユウト、あんた特別な訓練でも受けているの?」
「いや、前にも言ったように俺は家出息子だけど元は貴族の出身だからこういうことは仕込まれているんだよ」
「普通仕込まれないぞ」
「そりゃあ、みんなが女の子だからそこまで徹底して仕込まれてないだろ」
「ユウト君どういうことなの?」
レイシアが首を傾げながら訊く。
レイシアだけでなくフレイヤ達もよくわからないという表情をしていた。
「えーと、みんなは聞いたことはないかな?貴族の長男が執事をするっていう話」
「聞いたことはあるけど、そんなことしていることがあるなんて驚いたわ」
フレイヤが驚くのは無理もない。
自分の家を継ぐ長男を執事にしても、貴族的な態度を学ばせることができるのかもしれないが、ほとんど無駄が多くなってしまうからだ。
「でも、それだとユウトは長男なのだが家を飛び出しても問題なかったのか?」
「ああ。優秀な妹がいたからな。こんな駄目な俺がいてもいなくても変わらなかっただろうし、あのまま家にいてもリュッカの家に婿として行っていただろうし、いいだろ」
「っ、そうか…」
スティアは地雷を踏んでしまったような表情で言う。
「あと、この黒髪に東方風の顔つきだからな」
「ねえ、ユウト君。ユウト君の両親はどうやって出会ったの?」
話題を変えようとレイシアが訊く。
東方人とのハーフは全くいないというわけではないが、東方人と結婚しようとする人は少ない。
「政略結婚らしいよ」
「政略結婚…」
「ああ。母さんはそう言っていたし、愛してなく他人みたいな態度であいつに接していたし、まあよくあることだろ?」
「それはそうだけど…」
レイシアまで地雷を踏んだような表情をする。
「まっ、別に俺はあいつが俺の存在を好ましく思ってなくも気にしてないけどな」
「そ、そう。あんたも苦労しているのね」
「こんなの苦労でもないよ」
ユウトはフレイヤ達に微笑んだ。
「ん?」
さっきから座っている絨毯を見つめていたスティアが何かを見つけたようだ。
「どうした?カシャの毛でも落ちていたか?」
「いや、これが落ちていた」
スティアが1本の青い髪の毛を見せてきた。
「スティアの髪の毛じゃないのか?」
「いや。私の髪の毛は水色でこんなにも青くないぞ」
「青い髪の毛ですわね」
「青いわね」
「青ね」
全員の視線がリュッカに集まる。
「確かに私の髪の毛です」
「あー、たぶん前来た時に落としたんだよ」
「「「「え?」」」」
今度はユウトに視線が集まった。
「どういうことなの?」
「説明を求めますわ」
「そうだ」
「きっちり話してもらうわよ」
それぞれが身を乗り出して、ものすごい剣幕で見てくる。
「別に買い物を手伝ってもらってそのお礼でお茶を飲んでもらっただけだって」
「買い物。ユウトさんが誘ったのですの?」
「いや。この部屋に引っ越したばかりだから必要なものとか買いに行こうとしたら、たまたま校門のところで出会っただけだよ」
「「「「たまたま、ね」」」」
フレイヤ達は嘘臭そうな表情でユウトを見る。
「そうです。たまたまです。私が狙ってユウ君に合わせて校門に着かないとできません」
「ということだからな。でもおかげでいい店を知ることができたな」
「ユウ君があの店を気に入ってくれて嬉しいです」
リュッカは微笑みながら言う。
「「「「じーー」」」」
フレイヤ達がジト目でユウトとリュッカを見る。
「どうした?」
「別にー。仲がいいわねと思っただけよ」
レイシアは頬を膨らませて言う。
「そうだ。君はリュッカと仲が良すぎる。それくらい私と仲良くしてくれればいいのに…」
それからの後が小さすぎて聞こえなかったが、レイシアと同じように頬を膨らませて言う。
「そうですわ」
「そうよ」
エレナとフレイヤも頬を膨らませて言う。
「まあ、付き合いが長いからな。自然と仲良くなるさ。俺はお前らとももっと仲良くなりたいと思っているぞ」
「「「「え?」」」」
「だから、お前らとももっと仲良くなりたいって言ったんだよ。せっかくチームを組んだんだから」
ユウトが何事もないかのように言うとフレイヤ達は赤くなって指を絡めて自分の座っている絨毯を見つめる。
「そ、そうよね。チームだもんね」
フレイヤがそう言うと他の4人も頷く。
「まっ、とりあえず明日の試合は頑張ろうぜ」




