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おちこぼれ、のぼる。

「と、思っていた時期が俺にもありました」

あのあと二十分ほど日光が当たっている場所を選んで歩いていたのだが、たしかに森は抜けることが出来た。しかし

「これまた、すごい」

森を抜けた俺の視界に広がったのは、見渡す限りの壁、壁、壁。

 その壁は灰色に近い石を切り出した物を積み上げて作られたもののようで、ちょっとやそっとでは壊れそうにない。隙間には、青々としたこけが生えており、この壁には多くの歴史があるのだ、と言うことを示していた。高さは目測でも30m程度は軽くあり、到底のぼれる高さではない。俺にとって一つ幸いだったのは、この世界にも人間がいるのだ、ということが分かったことだ。

 などと壁の考察をしていたその時、壁の上の方から聞いたことのない言葉が聞こえてきた。その声はどこか焦っているというか、騒いでいるというかそんな声だった。その直後

「今、話している言葉がわかりますか? 私たちに敵意はありません、あなたが武装していないことは確認済みです。その場を動かないでください」

と、聞き慣れた日本語が聞こえてきた。その声はピシッと張っていて、なのにどこか安心する女の人の声だったが、俺の耳にはどこか機械的に聞こえていた。

 そこから数分たったとき、変化は起きた。壁の上から金属で作られたリフトのようなものが、何の支えも無く降りてきたのである。

「それに乗ってください。大丈夫です、落ちたりしませんから」

俺は若干の疑問を持ちつつ、言われたとおりにリフトに乗り込んだ。座面まで金属で作られているので、ズボン越しにひんやりとした感触が伝わってくる。

 それを確認したのか、リフトは上昇をはじめた。ロープもなにもくくりつけられていないのに、それが上昇するようすは少し不思議な感覚で、あまり心地よい物では無かった。どうやってやっているのかは知らないが音も出ないし、機関部も必要としない、良い方法ではあると思うのだが、やはり何か物理的なものがないと落ち着かないのが人間である。

 ゆっくりと上昇したリフトが壁の上に到着したとき、目の前には一人の女と、数人の男の姿があった。

 男は全身に重そうな金属製の鎧を着込み、腰には長めの西洋剣を帯刀している。よろいには細かい傷がいくつもついており、彼らが見た目だけのコスプレ集団ではないことを物語っている。

 それに対して女の方は茶色い髪を短く切りそろえ、頭はむき出し、目は赤茶色をしていて、顔はおそらく日本にいれば史上最大の美女として有名になったであろうほどにととのっていた。服装は赤いコートに黒いロングパンツ、少々ボリュームの足りない、と言うよりないに等しいであろうその胸には太陽の光を反射してかがやく銀色の胸当て、手にも同じような素材の手甲を装備し、腰には黒い革で作られたベルトを巻いて、そこに装飾が施された柄をもつショートソードを帯剣している。おそらく指揮官、および隊長といった身分なのだろう。

「あなたは我々と同じ国民ではありませんね? どちらの出身でしょう? この機械に向かって話せば翻訳してくれますので、母国語でどうぞ」

そういって女はこちらの世界で言うスマートホンのような機械をこちらに向けてきた。

 さて、こういった場合はどう答えれば良いのだろうか、日本といってもこちらの世界では通じないだろうし、記憶喪失だ、というのもそのうちボロがでそうな気がする。俺は数秒迷ってからこう発言することにした。

「国、というのかはわからないな。小さな村みたいなもので、そこは小さいなりに文明が発達していて、独自の食文化を持った良いところだったよ」

「ほう、集落の出身ですか、では何故こちらの国へ来たのですか? その集落で暮らしていた方が危険は少なかったのでは無いですか?」

「何かに気絶させられて森に放り込まれたみたいでな。殺気をさけてあるいてきたらここにたどり着いたんだ」

うん、俺、嘘は言ってないよ?

「なるほど、それは災難でしたね、どういたしますか? 最低限の身分証明さえしていただければ、移民としてこちらの国で受け入れることも可能ですが」

「そうしてもらえるとありがたい」

「では着いてきてください。入国審査を行う場所まで誘導します」

そういうと女は壁の反対側へ飛び降りてしまった。しかし、その体はわたげのようにふわふわと、下へ落ちていく。なんと、重そうな装備をしている周りの男さえ、同じようにして降りて言ってしまった。おれはどうすればいいんだ……。

感想など、お待ちしております。

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