おちこぼれ、かいものする。
――走れ、とにかく、振り向くな。
誰が言っているのか、誰に言っているのかもわからない。でも、俺はそれに従って走り続ける。
「おい! 坊主、早く逃げろ! もうやつらがすぐ近く……ッ!」
俺は見た、目の前で人の胸から赤い花が咲いたのを。それとほぼ同時に火薬が破裂したパンッ!という音が耳に刺さる。
「ショウ! 危ない、後ろ!」
前方から聞こえてきた声に反応し、俺は腰に付けていた手榴弾の安全ピンを引き抜いて後ろへ放り投げる。直後、爆発音と同時に飛び散る破片。そのいくつかは俺の体に傷をつけていったが気にしない。今俺がしなければいけないのはこんな――――
「ああ、くっそ、もうどうでもいい、俺なんかどうでも……」
俺はそう自虐気味につぶやきながら自室の布団に倒れ込んだ。それに伴って多量のほこりが空気中に舞い上がる。開けっ放しの窓から差し込む日光がそれに当たって、俺の心とは裏腹にキラキラと輝いていた。
名門、平原大学。その入学試験、いわゆる入試に俺は今日、失敗した。そんなもの来年またうければいいだろう、と人は言うが、あの大学は現役高校生しか受け付けないというなんとも理不尽な募集要項をかかげているのである。
「はあ、これからどうしよう」
いままで受験勉強に明け暮れてきた俺であるが、いざ失敗したとなると何もすることがない。なにせ、せいぜい中の上の高校から国の中でもトップクラスの大学に進学しようとしていたのだ、毎日勉強勉強勉強……そんな生活を送っていたので友達なんてものは、みんな離れていってしまった。ふっきれて友達と馬鹿騒ぎするなんてこともできない。
「なんかおもしろいもの、ないかなぁ」
しばらく使っておらずほこりをかぶっていたA4サイズのノートパソコンの電源をいれ、大手の通販サイトである、「精霊」を開く。このサイトにはおすすめ商品を自動でいくつかピックアップし、表示する機能がある。なんだかんだ俺も、息抜き程度にこれで紹介されていた「銃の構造まるわかり!」や「魔法のつかいかた」などの書籍を購入し、読んでいたことがあった。ふとそんなことを思い出して、このサイトを開いてみた次第である。
「ん? なんだこれ」
おすすめ商品を見ていると、やたらと記号やら太字やらで装飾され、目立つように配置された商品が目にはいった。それはいわゆるヘッドホンのような形をしていて、色はオリーブ色、その商品名は「現実から逃れたいあなたに! 異世界へ旅行へ行こう! たいむましーん3」……そう、おそらくこれはいわゆる詐欺商品ってやつだ、そもそも異世界へ旅行に行こうとうたっておいて、たいむましーん3という名前はどうなんだよとか、3ってあるけど1とか2はあるのかよとか、いろいろ突っ込みどころ満載な商品である。そのくせ値段は2万4千円と、決して安い物ではない。これつくったやつ売る気あんのか。
「……で、結局買っちゃったよ、どうすんのこれ」
二日後、俺の手には宅配便のおねえさんから渡されたダンボール。その伝票には「おもちゃ R18」の文字が書かれていたのだが、この通販会社は大手のくせにそのへんの配慮もできないのだろうか。……まあ、宅配便のおねえさんが頬を赤らめてこの荷物を差し出す様子が可愛かったのでよしとする。
一応言っておくが、俺はこの商品に2万も支払っていない、なんとタイムセールで価格が2千4百円にまでさがっていたのだ!……絶対これ0を一個多く付けちゃったパターンだな、これ。
さてと、いつまでも「おもちゃ R18」と向き合っているのは精神的にくるものがあるのでさっさと開封するとしよう。