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EXAct:Prologue

EXAct:桜花2と同時更新です

 眩しい日差しが差し込む早朝。

 まだ涼しい初夏の朝。夜に冷やされた爽やかな風が、開け放った窓から吹き込んで来る。

 けれども、我先にと輝く木々の緑と既に鳴き始めた蝉の声が、既に暑くなる今日の1日を予感させていた。

 この今日が、特別な1日になる予感が、確かに少女にはあった。

 お屋敷の一室。

 少女は、特殊な繊維で編まれた白と緑のコートを纏い、その上から装飾が施されたブレスプレートとガントレットを身に付ける。片刃の長剣を腰の剣帯に吊して、輝くような銀髪を黒いリボンで縛れば出来上がり。

 鎧に身を包んだ銀髪の少女は、姿見の前でくるりと回って見せた。

「どうだ、ユナ」

 鈴の音のような声が、軽やかに響く。

「良くお似合いですよ」

 少女の武装を手伝っていたメイドの女性が、にこりと笑って頷いた。

「よし。では行って来る。でも……」

 銀髪の少女の形の良い眉が、しゅんと下がった。

「大丈夫でございます。リリアンナさまにはあたしから言っておきますから」

 ニヤリと悪戯っぽく笑うメイド。

 まるで事態を面白がっているような気がしたが、少女はうんと小さく頷いた。

 なんといっても今日は大切な日。

 今日ばかりは、怖いリリアンナや母上、父上の命と言えども聞くことは出来ない。

 躊躇ってはいられない。

 少女は拳をきつく握りしめ、決意を新たにする。

「わかった。ではユナ。よろしく頼む。母上と父上にも、心配なきようにと」

「心得ました」

 銀髪の少女は頷くと、部屋の扉に手を掛けた。

 そして、一息吐いてからドアを押し開く。

 廊下に出た少女は、腰の剣に手を当てて勢い良く走り出した。

 コートの裾を翻して角を曲がり、飛び降りんばかりに階段を下りて行く。

 その度に結わえた銀髪がふわりと揺れて、弧を描き、舞い躍る。

 正面玄関の扉を突き飛ばすように開くと、少女は勢い良く外に飛び出した。

 朝にして既に眩しい日差しに、一瞬目が眩む。

 濃い緑の匂いに包まれる。

 夏の香。

 朝の香

 少女はしかし、その全てが楽しくてたまらないといったように微笑みを浮かべながら、お屋敷の前の並木道を駆け抜けて行った。

「お、お嬢じゃねぇか。早いな」

 警備巡回中だったのか、巨漢の年配の騎士が庭園の小径から出て来た。

「おはよう、シュバルツ!訓練だ。私は朝練中だ!」

 少女は立ち止まらず、騎士の脇を駆け抜けて行く。

 朝日に影を落とす巨大な行政府を抜けて、城門へ。

 城門前には兵士や警備の騎士が常駐していたが、朝のこの時間は混雑していた。行政府に登庁する者が、次々とインベルストの街からやって来るからだ。

 少女はその人混みにすっと紛れ込むと、ベテラン騎士がいる側ではなく、新米兵士の前を通過して城門を通り過ぎた。

 特に咎められずに街に出た少女は、あまりの計画の順調ぶりに、ふふっと1人で微笑んだ。

 そこからはゆっくりとした足取りで、大聖堂前まで歩いて行く。

 この時間で既に賑やかな大聖堂前広場で、少女はキョロキョロと辺りを窺った。

 果たして、目的の人物は直ぐに見つかった。

 広場の端。

 2頭の馬を引いた青年が、少女の方に手を振っていた。

 短く刈った黒髪に、年季の入った金属鎧。それに大剣を背負った青年の姿は、新米騎士というより冒険者の出で立ちだった。

 少女は顔を輝かせて少年のもとへ駆け寄る。

「待たせたな、ヒビキ」

 ヒビキと言われた青年は人好きのする笑みを浮かべると、少女の銀髪をぽんぽん叩いた。

 これが青年の親愛の挨拶だった。

「ああ、待ってたぜ、サクラ」

 青年の手を払い、少女、サクラは勝気な笑みを浮かべる。

「よし、準備は万端だ。早速出発だ」

 サクラは、さっさっ馬に乗ろうと身を翻した。しかしその手をヒビキが引っ張る。

「あー、なんだ。剣の腕が確かなお前が同行してくれるのは嬉しいが、いいのか?」

 ヒビキは眉をひそめた。

「仮にも次期公爵さまが俺なんかに付き合って、こんな危険をおかして、さ」

 それを聞いたサクラが、心外だと言わんばかりに仏頂面をすると、腰に手を当てた。

「あのな。ヒビキは大事な私のパートナーだ。そのパートナーが、大事な大事な冒険者資格認定試験に挑もうとしているんだ。全力でそれを助けるのが、私の務めだろう」

 どうだとばかりに言い切るサクラに、ヒビキは目を丸くする。

 そしてくくくっと笑い出すと、ぽんぽんとサクラの頭を叩き出した。

「うっ。や、やめろ」

 その手をサクラが払いに掛かる。

「わかった。聞いた俺が悪かったな。よろしく頼むぜ、相棒」

 ヒビキの言葉に、サクラが顔を輝かせた。

「ああ。行こう、ヒビキ!」

 2人は頷き合うと、ひらりと馬に跨った。

 雲一つない晴天の下。

 銀色の少女と大剣の青年が走り出す。

 インベルストの街を出て、草原を越え、森に分け入って。

 輝く光の中、世界へと向かって。

 彼らの行く先には、きっと幾多の出会いと別れが待ち構えている。

 そんな長い長い物語。

 少女と青年の旅が始まる。

 今日、この日から。

 明日へと向かって。

 雪色エトランゼ~ファリネ~を読んでいただき、ありがとうございました。

 このお話にここまでお付き合いいただいた方々に感謝を。

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― 新着の感想 ―
はあ、ついに終わってしまうんですね…… 本当に美しい物語でした。でも、ファリネが最後までカナデの一人称視点で描かれていないのが、少し悲しかったです……。なんと言えばいいのか、カナデが私たちからどんどん…
[良い点] 言葉で言い表せない程温かく、清々しく、素晴らしい物語でした。 [一言] 本編の方でも書かせて頂きましたが、心が満たされて幸せな気分になりました。 SF的な部分もなるほど!とさらに深く世界観…
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