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EXAct:The Origins4

 どんよりと重い雲が立ちこめた空。

 細雨が水滴のカーテンを作り出して、幾重にも世界を取り巻いていた。

 まるで水中を進んでいるかのような息苦しさを感じてしまう。

 そんな粘性を帯びた空気をかき分けて、白と青の2機のエシュリンが飛ぶ。

『天使級を光学補足』

『θ12、確認しました』

 前方。

 雨の幕の向こう側に、ぼんやりと巨大な岩山のシルエットが見えて来た。

 あそこに、魔獣がいる。

 まるで、歪な塔のような形状の岩山。

 とても自然の造形物とは思えない形だった。

 その頂。

 広がる白い翼。

 それは、神々しいとも思える光景だった。

 その翼の下で何かが動く。

 黒い塊。

 天使級魔獣だ。

 雨と雲が閉ざしたグレーの世界の中で朧に輝く赤い光が、私たちを睨み付ける。

『レーダーコンタクト。警告。天使級の周りから飛翔する物体を確認』

 プレアの警告とともに、戦域マップに赤いマークが現れる。

「なんだ……」

 ユウシロウが呟く。

『α1、あれは……!』

 ベック少尉が悲壮な声を上げた。

 私たち目掛けて急接近して来るそれは、やはり黒い体躯に赤い目をしていた。

 その姿は、まるで御伽噺に出て来るドラゴンのようだ。

「魔獣……新種の」

「ああ。……くそ、またか」

 私の呟きに、ユウシロウが忌々しそうに吐き捨てる。

『θ12、エンゲージ!』

 ベック機が加速する。

 私たちの右上空を飛ぶ青い機体が、速射砲を構えた。

「θ12、無理するな!フォーメーションで!」

 ユウシロウが先行するベック機に向かって叫ぶ。

『大丈夫、行けます!私の機体にだって、銀光波のコンデンサを装備してもらったんです!この、ノエルさんの力があれば!』

 そう叫ぶと、ベック機はさらに増速をかけた。

 接近する黒いドラゴン。

 あのライオンのような魔獣より、さらに大きい。

 軌道が交錯する。

 ベック機とドラゴン型は、一度すれ違うように飛び抜けると、互いに反転して再び交錯軌道に入った。

 76ミリが放たれる。

 銀色の火線が、再びすれ違う両者の間で炸裂した。

 ドラゴン型魔獣が引き裂かれる。巨大な黒い塊が、力を失って落下して行った。

『私にも、倒せる!』

「くっ」

 ユウシロウはベック機の背後に回るように上昇すると、近付いて来るドラゴンに砲弾を打ち込んだ。

「ベック少尉、油断するな!背後にも気を配れ」

 ベック機の機動に、ユウシロウが合わせる。

『りょ、了解!』

 白と青のエシュリンが、密着するように編隊を組み直し、互いにをフォローしながら飛翔する。

 霧雨の中を縺れるように飛ぶ2機の姿は、まるでワルツを踊っているかのように見えたかもしれない。

『目標、高熱源反応』

 ユウシロウが3体目のドラゴン型を撃墜した瞬間、プレアが警告を発した。

「θ12、ブレイクだ!」

 ユウシロウが叫び、垂直落下するように機体を反転降下させた。

 回転、下降する私たちの足下を、雨を、そして空そのものを焼き尽くすような熱線が、通過して行く。

 天使級の攻撃だ……。

 ユウシロウは加速すると、そのまま上昇。そして、真上から垂直に落下するように、天使級に向かって突撃を仕掛けた。

 天使級は未だに岩山の上。

 動いていない。

「ノエル!奴を引っ張るのに、一当てするぞ」

「了解!行けるわ!」

 私はロックオンマーカーが示す天使級を睨み付けながら、レセプターに銀光波を注ぎ込んだ。

「ロック!ファイア!」

 ユウシロウが吠える。

 銀色の光をまとった火線が、真っ直ぐに天使級の頭部に殺到する。

 しかしその全てが、見えない壁に弾かれる。魔獣本体には到達しない。

 反撃の熱線。

 ひらりとロールしながら、ユウシロウが回避する。

「やはりダメか」

「それにあれ、動かないわ」

 こちらを威嚇するように巨大な咢を開いて、口腔をこちらに向ける天使級。私はそのおぞましい姿を睨み付ける。

 エシュリンは、天使級の周りを旋回するように飛ぶ。

「だったら、これだな」

 ユウシロウがニヤリと笑うのが分かった。

「θ12、ベック少尉!合わせろ!」

『θ12、了解!』

 2機のエシュリンは、天使級の足元、塔のように細い岩山を挟み込むポジションについた。

『ポイント算定。岩山の最も脆弱な箇所をマーク』

 網膜ディスプレイの画像に、1点が示された。

「フルファイア!」

『θ12、フルファイア!』

 エシュリンの脚部、そして腰部に増設されたミサイルポッドから、一斉にクラスターミサイルが放たれた。

 もともとオルヴァロンの対空兵装だったものを無理やり装備しているから、機体とのマッチングは悪い。しかし、固定目標に対してなら問題ない筈だ。

 ミサイルの噴煙が視界を塞ぐ。その向こう。続いて、岩山から吹き上がる爆炎が見えた。

 その中へ、さらにミサイルが殺到した。もうもうと上がる土煙の中、巨大な岩塊がいくつもの落下していくのが分かった。

 完全に塔を倒すことは出来なくても、足元を不安定にさせてやれば……。

『警告。接近警報』

「来た!」

 ユウシロウはプレアの警報に従って、即座に機体を反転上昇。

 爆炎の中から、無数の触手が躍り出る。

 私たちを狙ってる!

 ユウシロウは右に左にエシュリンを回転させ、時に展開した高周波ブレードで切り裂きながら、触手を回避。そのまま上昇する。

 振り返る。

 触手に続いて、煙の中からのそりと本体が現れた。

 天使級魔獣!

「ベック少尉、誘導を開始する。続け!」

『りょ、了解!』

 私たちは再び編隊を組むと、真っ直ぐに上昇を続ける。

 熱線が迫る。

 回避。

 そして私たちは、そのまま厚い雲の中に飛び込んだ。



 視界を閉ざす雲に、圧迫感を覚えてしまう。

 はぁ……。

 深く息を吐く。

 戦闘の緊張感で蒼白になっているだろう私の顔を、至近を通過していく熱線の光がぼおっと照らし出していた。

 もう少し……。

 隣を、雲を引いて上昇するベック機の青い機体が見えた。

 雲を抜ける。

 光が溢れる。

 日の光が、私たちの機体を包み込んだ。

 私は思わず目を細める。

 そこは、見渡す限り白と青の世界だった。

 頭上には、宇宙の底が見えそうなほど深い青が広がっている。足下には、今通り抜けて来た雲の塊が、白い絨毯となって広がっていた。

「……凄い」

 ただ、綺麗だった。

 自然の色彩が。

 この惑星の息吹きが。

『間もなくポイント空域です』

「了解」

 ユウシロウとベック少尉は、機体の上昇を止めると並んで反転。雲の中に銃口を向けた。

 その重厚な雲の層をかき分けて、白い翼が現れる。

 それは、この白と青の静謐な世界に取っては不要な醜い塊。

 天使級が雲を割り、黒い体躯を晒す。

 そう。

 それはまるで、この世界に現れた黒い染みだ。

『魔獣接近』

「よし。オルヴァロン!」

『オルヴァロン、確認。インレンジ』

 戦域マップに警告表示が現れる。

 味方艦の射撃レーダー波感知。

 2機のエシュリンは、弾かれたように散開した。

『撃ち方、始めろ』

 艦長の声が響いた。

 一瞬の間を置いて。

 2条の粒子ビームが、世界を貫いた。

 引き裂かれた雲が、そこだけ穴を開けて蒸発する。

 光の矢が、真っ直ぐに天使級魔獣に突き刺さる。

 オルヴァロンの主砲の光が、天使級前面の見えない壁に弾かれて、一瞬だけ停止する。

 しかしそれは本当に一瞬。

 あっさりと、その見えない壁は突き破られる。

 魔獣本体に、光が突き刺さった。ビームが、魔獣の体に弾かれて拡散する。光の粒子がシャワーとなって周囲に広がった。

 斉射が終わる。

 天使級はバランスを崩し、回転しながら後方に吹き飛んだ。

『エネルギー飽和確認。天使級魔獣の防御フィールドが消失しました』

 よし……!

 しかし、これほどの威力のある砲撃でも、銀光波を添加していない以上、魔獣にダメージはない。

 しかし、ここからだ。 

 魔獣を倒すのは、私たちの役目だ!

「行くぞ、ノエル!プレア!」

「了解!」

『了解しました』

 態勢を崩し、落下して行く天使級に向かって、ユウシロウはフルスロットルで突撃する。

 速射砲の弾倉交換。

 私謹製の特殊弾頭を装備。

「うおおおお!」

 照準。

 射撃。

 銀色に輝くニードル弾が、天使級の翼に、体に突き刺さる。

 天使級が咆哮を上げた。

 それは、苦悶の声だったのだろうか。

『θ12、カバーします!』

 触手が伸びて来る。

 それを、ベック少尉機が迎撃して行く。

 体中に銀色のニードルを突き刺した魔獣は、再び雲の中に落下して行った。

『逃がすか!』

 ベック少尉機がそれを追尾、急降下し始めた。

「θ12、深追いはするな!不意打ちに注意しろ!」

 私たちも反転降下、追撃に移る。

 その瞬間。

 唐突に、雲の中から触手が出現した。

「しまっ……!」

 機体に衝撃が走った。

 私たちのエシュリンの足に、魔獣の触手が巻きついていた。

「くっ」

 機体が揺れる。

 引きずり込まれる! 

 落下する魔獣に、振り回されているんだ。

『警告。機体フレームに過負荷がかかっています。警告』

 プレアの警告。

『な、何よ、これ!きゃあああ!』

 ベック少尉の悲鳴。

 視界の角で、青いエシュリンも私たち同様に触手に絡め取られ、雲の中に引きずり込まれていくのが見えた。

 ユウシロウが機体を立て直し、触手を切ろうと高周波ブレードを展開した瞬間。

『警告。高熱源反応』

 厚い雲の向こうで、光が膨れ上がった。

 熱線が煌めく。

『え……』

 小さな呟きはベック少尉の声で……。

 その瞬間。

 熱線の物とは違う大きな爆光が、薄暗い雲の向こうに広がった。

 ああ……。

『θ12、シグナルロスト』

 なんで……。

 そんな、簡単に?

「くそ、くそぉぉぉぁぁ!」

 ユウシロウが絶叫する。

『か、艦長!飛行型魔獣多数!接近して来ます!』

『あれって、ド、ドラゴン?』

『何をやっている。対空迎撃!撃ち方始めぇ!艦は動けんのだ。効果はなくとも、せめて近付けさせるな!』

 呆然とする私の耳には、混沌としたオルヴァロンの通信が聞こえて来た。

 ベック少尉……。

 オルヴァロン……。

 うううっ……。

 脚部を掴まれたまま私たちのエシュリンは、天使級の質量に引っ張られ、雲の中に引きずり込まれる。

 視界が閉ざされる。

『高熱源確認。弾道予測。ユウシロウ』

「……わかっている。プレア」

 厚い雲の向こう側から迫る熱線。

 プレアの指示通り回避機動を取るユウシロウ。

「……行くぞ」

 後席から響く低い声。

 私が振り返ろうとした瞬間。

 機体が急加速を開始した。

 突撃をかける。

 敵の本体に向かって。

 雲を抜けた。

 再び細かい雨の世界に舞い戻る。

 瞬間、目の前に天使級の姿があった。

 開かれた巨大な口腔が私たちに向けられている。

 至近距離で放たれる熱線。

 溢れる光。

 放たれる光。

 機体に衝撃が走り抜けた。

 視界に立ち上がる警告表示。

 機体コンディション表示に、次々とダメージ状況が示される。

『左、ウイングバインダー被弾。パージします。重力制御不能』

 しかしユウシロウは、そんなプレアの警告など無視して、そのまま魔獣に掴みかかった。

 もつれ合うように落下していくエシュリンと天使級。

 上になり下になり、絡まり合う。

 急速に地表が近付いてくる。

 無数の触手を絡み付けてくる魔獣。

 ユウシロウはそれをものともせずに、高周波ブレードを天使級に突き立てる。

 巨大な下顎を突き刺して、口腔をこちらに向けさせない。

 苦し紛れに放たれた熱線が、明後日の方向に飛んでいく。

 魔獣の触手がエシュリンの機体を傷つけていく。

 装甲板が引き剥がされ、内部機構が侵食される。

 レッドアラートが、見る見る広がって行く。

 そして私たちは、そのまま魔獣もろとも地表に激突した。



『……告、ユウシロウ、ノエル。ユウシロウ、ノエル』

 微かに聞こえる声。

 プレア?

 体が重い。

 はぁ、はぁ、はぁ。

 息をすると、鈍い痛みが全身を走り抜ける。

 うっすらと目を開ける。

 辺りは暗闇。

 視界の中には、緑に光るインジケーターと、真っ赤に染まった機体コンディションが明滅していた。

 私たちは……。

 魔獣と一緒に地表に激突して、その衝撃で意識を失って……。

 ユウシロウ?

 私は頭を振りながら、後席を見た。

 ぐったりとした様子のユウシロウ。ヘルメットのバイザーが邪魔で、顔が見えない。

 えっと、バイタルは……大丈夫。

 ふう。

 まだ意識を失っているだけのようだった。

 私は周りを見渡した。

 ここはどこだろう。

 周囲は全て岩の壁。上方遥か高いところに、微かに光が見た。

 洞窟?

 落下の衝撃で、地下の空間に落ち込んでしまったのか?

「つっ、プレア?」

 状況を確認しようとした瞬間。

 ごそりと機体の下で何かが動くのが分かった。

 崩落した岩が堆積する中に、光が見えた。

 赤い光が!

「魔獣!ユウシロウ!」

 ユウシロウの意識は戻らない。

 私たちの機体を押し退けるように、闇よりもなお暗い塊が、這い出して来る。

 くっ!

 魔獣、まだ生きているなんて!

「プレア!機体コントロールを前席に!」

 私はレセプターではなく、コントロールグリップを握った。

『了解。ノエル。左腕が破損。稼働しません』

「りょ、了解」

 ごそりと魔獣が体を起こした。

 ダメージを負っているのだろう。あちらも、動きが鈍い。

 ならば!

「ううう、あああああ!」

 私は絶叫しながらフットペダルを踏み込んだ。

 魔獣がこちらを向く。

 その顔面に、動かない左腕から体当たりを仕掛けた。

 激しい衝撃に機体が震える。

 エシュリンと天使級は、絡み合うように再び倒れた。

 もうもうと土煙が吹き上がる。

 宇宙と同じ。

 暗闇の中で、一瞬、上も下も分からなくなる。

 しかし、再び赤い光が動き出す。

「まだぁ!」

 私はエシュリンの腕を振り上げて、76ミリの銃口を魔獣の胸部に押し当てていた。

「これで、いい加減、止まれぇぇぇ!」

 トリガーを引く。

 鈍い射撃音が響く。

 トリガーを引く。

 魔獣が咆哮を上げる。

 トリガーを引く。

 銀色に輝くニードルが、幾本も魔獣に突き刺さる。

 輝く柱が、魔獣の胸に突き立った。

「うあああぁぁっ!」

 弾倉が空になるまで。

 弾倉が空になっても、私はトリガーを引き続けた。

『ノエル、残弾0です。ノエル』

「はぁ、はぁ、はぁ」

 魔獣は……。

『天使級、沈黙しました』

 倒したのか……?

「はぁ、はぁ、はぁ」

 私がグリップの上で固まってしまった手を引き剥がそうとした瞬間。

 くわっと、天使級の口が開いた。

 光が溢れる。

 それは、私たちを狙った熱線ではなかった。

 天使級の最後のあがき。

 ただ口から漏れ出したような無照準な熱線の光が、洞窟の中を撫でて行く。

 溶解する岩肌。

 どろりと溶け出し、周囲の岩壁が崩落し始める。

 やがて熱線はだんだんと弱くなり、そして、消えた。

 魔獣は動かない。

 今度こそ……。

 洞窟が崩落し始める。

 しかし私は、ただ呆然とその光景を見つめていることしか出来なかった。

 もう、力が入らない。

 もう……。

 不意に、私のヘルメットが、コツっと叩かれる。

 振り返ると、ユウシロウが苦しそうにわき腹を抑えながら、それでも笑っていた。

「脱出するぞ」

 掠れたユウシロウの声。

 私は、はっとする。

「……ええ」

 そして、ユウシロウに向かって頷いた。

「プレア」

『了解。ユウシロウ』

 ユウシロウが再びシートについた。

 エシュリンが飛翔する。

 飛行制御を司る翼の片方を失ったため、いつもの優雅な機動とは程遠い動きで、エシュリンは地下空間の出口を目指した。

 機体が壁面に激突する。

 落下する岩に当たって、墜落しそうになる。

 それでも、外を、光を目指して飛んでいく。

 そして。

 世界に飛び出す。

 溢れる陽光。

 雨は、いつの間にか止んでいた。



 地下空間から脱出したエシュリンは、そこで限界を迎えた。

 飛行不能になった機体は、そのまま近くの岩山に墜落した。まるで岩山にもたれ掛かるように落着した機体。駆動系、飛行制御系はもちろんの事、主機のパワーダウンも致命的だった。

 ここまでだ。

 私たちは、この美しい純白の機体を放棄する事にした。

 ダメージ率は限界を超えている。

 オルヴァロンまでたどり着くことは、もはや出来なかった。

『ユウシロウ』

「すまないな、プレア」

『いえ。あなたと戦えたことは、当機の誇りです』

 しんみりと言葉を交わす2人に、私ははぁとわざとらしく溜め息を吐いて見せた。

「プレア。あなたも行くの。あなたを端末に移すから、準備しなさい」

 私は笑った。

「3人で行こう。この新しい世界に」

 私はユウシロウを見た。

 ユウシロウが頷く。

 プレアが呟く。

『ノエル、お願いが』

「何?」

『私は、ユウシロウの端末が良いです』

 ……。

 何だか力が抜けた。

 後ろでユウシロウがはははと笑っていた。

 私たちは煤け、ひしゃげ、片翼になった機体を後にした。

 自分たちの足で大地を歩き、あの新型の魔獣を警戒しながらも野宿して、世界を行く。

 この先、この惑星がどうなるのか。

 私たちがどうなるのか。

 今のところは分からない。

 でも、ユウシロウとプレアと一緒に、私は歩んで行きたいと思う。

 この、新しい世界で。

 うん。

 きっと。

 きっと、大丈夫だと、今はそう思える。





 巨大な岩石の崩落によって閉ざされた地下空間は、エシュリンクラスの機体で入り込む事は出来ないが、人間サイズであれは何とか侵入する事が出来た。

 あの戦いから数か月。

 天使級魔獣が、α1によって仕留められたこの場所に、ゆらゆらと揺れる光が3つあった。

「ハンダー大尉。こちらはクリアです。まだ降りられます」

「よし。慎重にな。ユウシロウたちが天使級を仕留めて以来魔獣の活動は下火だが、完全にいなくなった訳じゃないからな」

「了解」

 周囲を警戒しながら穴の底へ底へと降りて行く3人は、いずれも黒尽くめの恰好だった。

 BDUの上からタクティカルベストを身につけ、小銃を構えている。

 その中の1人、ハンダー大尉は、ペッと煙草を吐き捨てた。

 魔獣は倒した筈なのに、地下の熱源が消えていない。微弱だがまだ残っていやがる。魔獣め。しぶとく生きていやがるのか?

 先行する部下に続きながら、ハンダー大尉は面白くもない自分の推測に、顔をしかめる。

 どれくらい進んだだろうか。

 3人はやがて、最奥部かと思われる広い空間に到達した。

 そこには、異様な光景が広がっていた。

 岩石が降り積もった広場のその真ん中に、幾本もの光る柱が突き立っていた。

 日の光が届かない地下にあって、柱はおぼろに輝いていた。

 銀色に。

 それは、幻想的な光景でもあった。

「こりゃ、ノエル嬢ちゃんの銀光波か?あの時のエシュリンのニードル弾が、まだ光を失ってねぇのか」

 ハンダー大尉はゆっくりと柱に近付くと、そっと手を差し出した。

 温かな感触が伝わって来る。

 あの金髪の少女の力。

 ハンダー大尉は振り返る。

「恐らく天使級はこの下だ。測定器を設置しろ。オルヴァロンとの回線は確保しているな?」

「クリアです、隊長」

「よし……」

 ハンダー大尉は作業を始めた部下たちから、再び銀色の柱に向き直った。

 もしや、このニードルが魔獣の活動を阻害しているだけなのか?

 最も望まない想定が脳裏を過る。

 それだけなのか?

 ちっ。

 ハンダー大尉は舌打ちをしながら煙草を取り出し、咥えた。

 そして火をつけようとした瞬間。

 異変が起きた。

 足首を何者かに掴まれたような感触。

 続いて、何かがぞろりと這い上がって来る感触に、背中に冷たいものが走る。

 違和感が、膝へ、腰へ、胸へ、喉へ。

「ぐうっ、な、なんだ!」

 ライターを投げ捨て、その場から飛び退いた大尉は、小銃を足元に向けた。

 しかし、そこには何もない。

 やがて、体が痺れ始める。

 手足が言うことを聞かない。

 ただ、体の奥底から膨れ上がる悪寒に、異常な程全身が震え始めた。

 小銃を取り落とす。

 目の前が真っ暗になる。

「ハンダー大尉?」

 その異変に気がついた部下が、慌て大尉のもとに駆け寄って来た。

「うわぁぁぁ、が、かか、ガガガガガッ!」

 響き渡る絶叫。

 その瞬間。

 唖然とする部下の前で、ハンダー大尉の体は、漆黒の鎧に包まれてしまった。

 頭からつま先まで、まるで中世の騎士の鎧の様な、黒の塊に。

「た、大尉?」

 後退りする部下。

 そちらに、大尉だったそれは、ゆっくりと顔を向けた。

 面防の向こうで、赤い目がぼうっと輝く。

 全身漆黒の鎧に包まれた大尉の手には、いつの間にか赤い剣が握られていた。

 真紅の刃が翻る。

 両断された部下が倒れた。

「う、うわぁぁぁ!」

 もう一人の部下は、大尉だったそれに銃口を向けた。

 しかし発砲するよりも早く、一瞬で迫って来た黒鎧に首を跳ねられる。

 黒鎧の騎士は、人を切ったその感触を確かめるように手を握った。

 そして、銀色の柱に歩み寄ると、そっとその手を差し出した。

 銀の光に触れた瞬間。

 黒鎧の手は、眩いスパークと共に弾かれてしまった。

「……フン。忌々シイ事ヨ」

 歪な声が、地下空間に響き渡る。

 黒騎士は、赤い目で銀の柱を睨みつける。そして、踵を返すと、ゆっくりと歩き出した。

 外の世界に向かって。

 ジャンルが違ったThe Origins編も一応終了です。

 普段とは違う雰囲気に、書くのも楽しかったです。

 長くなってしまいましたが、読んでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
少しは予想していたけれど、まさか起始の物語がこんなに壮大なスケールだったとは……。本編とは全く違った規模だけど、それでもとても魅力的な世界観とキャラクターですね。 やっぱり『片翼の女神』の起始物語にふ…
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