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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
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犯人を捕まえろ!

 校舎の裏側に周ると、すぐに鍵の所が割られた窓ガラスが見付かった。

 身を屈め、校舎の壁に張り付くようにしながら、そっと中を見る。

 その辺りには人はいないようだった。

「よし、行ってみるか」 

 夏田はその窓を開け、高さ170センチ程の窓枠に手を掛け、そこから中に入った。


「ほら、早く来いよ」

 警察官に声を掛けたが彼は窓の外で、

「おい、手を貸してくれよ」

 しょうがねえなあ、と言って夏田は警官に手を貸し、思い切り引っ張る。

 警官は頭から倒れ込みながら中に入った。

「あいたたたたたたた!」

「コラ、静かにしろよ!」

 何だか頼りない警官だな、と夏田は思った。

 

 夏田は暗く廊下を見渡したが、人影は見えない。

「うーん、どこへ行ったのかなあ……」

 そう言って、警官は懐中電灯で廊下を照らす。

「おい、やめろよ! こっちの居場所を教えるようなもんだろ!」

 あ、そうかと言って警官は懐中電灯を消した。


「しかし、忍び込んだ奴が、その怪文書を作った奴とは限らないぞ。単なる泥棒かも知れない」

 夏田は頷き、

「そうだな、でもいずれにしても捕まえなきゃ駄目だろ」

 二人はとにかく足音を忍ばせ、校舎の奥へと進んだ。

 しばらく行くと、渡り廊下へと曲がる角に着いた。

 夏田は思案して、

「うーん、ここからは二手に分かれた方がいいかも知れないな……」

「いやいや、二人一緒に行動した方がいいだろう。相手はどんな凶器を持っているかも分からない」

 確かにそうだ。夏田は仕方なく頼りなさげな警官と共に角を曲がった。

 校舎は二棟ある。取りあえず一階から順に廊下を見て行こうという考えだ。

 廊下側の窓から、中庭が見える。

 昼間は葵と一緒に弁当を食べる場所だが、今はすっかり闇に堕ち、不気味な佇まいである。


 夏田は違和感を感じていた。

 さっきから何となく体が重い。緊張しているせいだろうか。

 脚を踏み出しても、体がそれに追い付かないと言うか、前に進みづらいのだ。

 ふと、嫌な考えが頭をよぎった。

 何か、この学校にいる、霊的な物が自分の身体に取り憑いているのではなかろうか。

 学校と言えば怪談話の宝庫だし、しかも今は夜中だ。


「なあ、お巡りさん。あんたは今、体が重かったりしないか? 何か体に異変は感じないか?」

夏田はやや後ろからついて来る警官に聞いた。

「えっ、いや、本官は特に何も……」

「そうか……俺だけか……どうしちまったんだ、畜生……ん?」

 ふと振り返ると、警官の手が自分の水着をつかんでいるのが見えた。

「コラッ! 何やってんだ!」 

「えっ!?」

「人の水着掴んでんじゃねえっ!」

「だ、だって怖いんだもん!」

「早く離せっ!」 


 二人は一階の廊下を見た後、二回へと上がった。

「なあ、やっぱり本官怖いよ。戻ろうよ」

「戻りたいんなら一人で戻れよ」

「ええっ!? 一人じゃ怖いよ! 一緒に戻ろうよ!」

「あんた警官だろ!? しっかりしろ!」

 警官はしぶしぶ夏田の後を付いて来る。

「大体、本官だってなりたくて警察官なんかになったわけじゃないんだ」

「じゃあ、何でなったんだよ」

「親が、安定してるから公務員になれって……でも、国家公務員や地方公務員の試験は落ちちゃって、それで警察官に……ホントは嫌だったんだけど……」

 聞きたくもない警察官の身の上話を聞きながら夏田は歩を進めた。

 

 ふとその時、どこからか微かに口笛のような音が聞こえた。警官は体をビクッと反応させ、

「うわあああああ。なんだこの音」

 夏田の身体にしがみ付いた。

「やばいよ。やっぱり帰ろうよ」

「放せよ!歩きにくいだろ!」

 その音は止むことなく、どこからかずっと聞こえて来る。これには夏田も恐怖を感じたが、

「ここまで来て引き返せるかよ。行くぞ!」

 自らを奮い立たせ、前へと進んだ。何としても犯人を捕まえて、葵の身の潔白を証明せねばならない。

 その強い意志が、夏田にそうさせた。


「この辺から聞こえるな……」

 夏田は足を止めた。一年生の教室の前である。身を屈め、ドアに手を掛ける。

 音が出ないように、ゆっくりとドアを開く。

 教室の中は暗く、はっきりとは見えないが、一見人影は見えない。

「なあ、懐中電灯つけてくれよ」

 懐中電灯で中を照らしたが、誰もいない。

「ここじゃねえな……」

 しかし依然口笛のような音は、微かではあるが聞こえて来る。夏田は耳を澄まして、その音が聞こえる方を確かめた。

「隣の教室かも知れねえな」

 警官も同じ意見らしく、小さく頷いた。


 二人は隣の教室の前まで移動し、夏田が入口のドアに耳を当てた。

「やっぱりここだな、間違いない」

 夏田は息を潜め、そっとドアを開け中を覗いた。

 中はやはり暗く見えにくいが、音は明らかに大きくなった。ここで間違いなさそうだ。

 よく目を凝らして見ると、奥の方にぼんやりと影のような物が見える。

 それは大人と同じぐらいの大きさで、音もやはりそこからしているようだ。

 警官は夏田の水着を掴み、

「や、やばいって、これ、見ちゃいけないやつだって」

 大きく眼を開き、震える声でそう言った。

 二人は一旦、ドアの影に隠れた。

「やばいな。ひょっとしたら、本当にアレかも知れん」

 夏田は自分の頬を、すうっと汗が伝うのを感じた。手の平で額を触ると、いつの間にかじっとりと汗をかいているのが分かった。  

「なあ、やっぱり応援を呼んだ方が……」

「いや、あれがもし犯人だったら、その間に逃げてしまうかも知れない」


 夏田はすうっと大きく息を吸い込み、吐き出した。


 そしてもう一度中を覗き、音を立てないように中へと入る。


 警官も夏田の背中に張り付くようにして、ついて来る。


 夏田は壁にある、教室の電気を付けた。


 目に映ったのは、黒い長袖のシャツを着た、男の背中だった。

 明らかに人間である。

 二人は言葉を失い、ただじっとその男の背中を見ていた。

 するとおもむろに、その男は二人の方に躰を向けた。眼鏡をかけた、七三分けの一見真面目そうな男である。なぜか、笛を口に含んでいる。含んでいるが、吹いてはいない。

 しばらく沈黙が続いた後、笛の男が切り出した。


 笛を口から放し、笑顔を浮かべ、

「やあどうも。見回りご苦労様です」

 警官は、ややうろたえながら、

「ど、どうも。あの……ここで何をされてるんですか?」

 男は落ち着いた表情で、

「私、この学校に楽器類を納入している業者の者です。実はこの学校に納入している、このアルトリコーダーに不備があるとのクレームが来たので、チェックしているところなんです」  


 警官は頭を掻き、笑いながら

「ああ! なんだ、そうだったんですか。いやてっきり幽霊か泥棒かなんかだと思いました!」

 男も笑いながら、

「申し訳ない。こっちも忙しいもので。こんな夜中にお邪魔させて頂きました」

 そして傍らに置いてあった大きなカバンを手に取り、

「でも、もう済みました。帰ります。ではお仕事頑張って下さい」

 そう言って、二人の横を通り過ぎる。

 その時、その大きなカバンの口が開いており、たくさんの笛がぎゅうぎゅう詰めになっているのが夏田の眼に入った。


「ちょっと待てよ」


 教室から出ようとした男の背中を、夏田の声が捕まえた。


 男は立ち止まり、身体は前を向いたまま、夏田の方を振り返った。


「何でしょう?」


「あんた、本当に業者さん?」


 次の瞬間、男はカバンを投げ出し、猛ダッシュで駆け出した。


「ああっ! 業者さん! カバン!」

 警官が男を呼び止めようとする。

「バカッ! あれは泥棒だっ!」

「ええっ!?」

 夏田は逃げ出した男を追いかけた。警官はかなり遅れをとりながらそれに付いて行く。


「むおおおおおおおおおお!」

 夏田は猛烈な速さで駆け、すぐに男に追い付いた。

 あと一メートルもないぐらいに追い付き、そこで男の腰に飛び付く。


「サマー・タッコウッ!」

 夏田は自分のタックルを、サマー・タックルと名付けている。ちなみにラグビーの経験はなく、日常生活で人にタックルをする機会など滅多にないのだが。


「うわあああああああっ!」

 男は倒れ込み、そこへ夏田が覆いかぶさった。

「もう逃げられねえぞ! 観念しろ!」

 夏田の気迫に押されたのか、男はさほど抵抗はしなかった。

 そこへ警官が追い付き、窃盗の現行犯で逮捕した。


 その後、警察署で取り調べを行い、男が女子高生の縦笛や上履き、体操服などを盗む常習犯である事が分かった。西山葵の件とは関係ないらしい。 


 そして夏田は逮捕に協力したとして感謝状を贈られ、校長や先生方、生徒達からも賛美を浴びたが、その後『でも、どうして夏田は夜中に学校に来てたのだろう』という疑問が湧き上がり、結局『夜中に女子生徒の笛を舐めていた夏田が、偶然出くわした笛泥棒を捕まえた』という事にされてしまった。



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