表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
4/29

彼女が出来たぞー!

 昼下がりの職員室。


 教員達はそれぞれ、学食に昼食を食べに行ったり、自分の机で持参して来た弁当や出前で頼んだラーメンなどを食べたりしている。

 そんな中でただ一人、どういう訳か水着一枚で椅子に腰掛け、コンビニの買い物袋から食パンを取り出そうとしている男。


 夏田譲司。

 この物語の主人公である。


 夏田は食パン一斤いっきん分、六枚スライスの袋から一枚取り出し、何も付けずにそのままムシャムシャと、美味しそうな顔で食べ始めた。

 すぐに食べ終わり、もう一枚取り出し、やはり何も付けずに口に頬張る。

「美味いなあ、食パンは。最高に美味い」

 二枚目も食べ終わり三枚目を取り出した時、


「あの……夏田先生」

 声を掛けて来たのは、夏田と同じく体育の教科担任である平野由紀恵先生だ。

 平野先生は夏田より一つ年下の二十五歳で、この学校に赴任して三年目である。

 黒髪のショートヘアに、綺麗な輪郭。瞳はぱっちりと大きく鼻は適度に高く、薄紅色の唇はとても優雅で上品だ。全体に少し日焼けしていて化粧っ気が薄いものの、とても可愛らしく、尚且つ教師らしい凛とした印象も感じさせる、そんな顔立ちだ。

 またスタイルもなかなかで、光沢のある白いジャージの上からでも、豊かな胸の膨らみや、スラリと伸びた長い脚は器量の良さを感じさせる。

 教員達だけでなく男子生徒達からも絶えず熱い視線を向けられる、ここ油ノ宮高校のマドンナ的存在、それが平野由紀恵先生だ。


「は、はい! な、何でありますか、平野先生!」

 普段から、その身なりのせいもあってか、あまり女性から話しかけられる事のない夏田は、緊張しながら返事をした。

 平野先生は優しく微笑みながらも、やや眉を寄せて、

「毎日、お昼は食パンばかりなんですね……それでお体の方は持つんですか?」

「あ……ああ、大丈夫ですよ。僕はいつもこれですから。食パン好きなんですよ」

 夏田は焦って、早口で答えた。

「夏田先生は一人暮らしなんですよね? 自炊してるんですか?」

「は、はい、あの……夜は大体コンビニの弁当ですね。たまに自分で作る時もありますけど」

 平野先生は、まあ、と言って腰に手を当て、やや前屈みになり、

「駄目ですよ、先生。ちゃんと毎日自炊して、たくさんお野菜を摂らなきゃ。今は若いから何ともないでしょうけど、年を取ってから成人病になりますよ」

 夏田は、それじゃあ君が僕と結婚して料理を作ってくれ、と言いたかったがやめておいた。


「それから、もう一つ。夏田先生」

 平野先生は真剣な顔で言った。

「どうして、いつも水着来てるんですか?」

 すると夏田は、すっと立ち上がり、

「それは」

 と言った所で、


「夏田センセーっ!」

 急に横から、甲高い声がした。

 声の主は、西山葵だった。


 葵は楽しげな表情で両手に大きな風呂敷包を持って、夏田の元へ駆けて来た。

 夏田と平野先生は驚いた顔で葵を見た。

「どうしたんだ、西山、何だその風呂敷包は!?」

 葵は輝くような笑顔いっぱいに、やや首を傾げ、その包を夏田の方に差し出した。

「はい、センセ。お弁当作って来たよ!」

「ええっ!?」

 夏田は驚いた顔で、葵の顔と風呂敷包を交互に見つめ、

「べ……弁当……俺に……?」

 そう小声で呟いて、それにゆっくりと手を伸ばし受け取った。

「いつも食パンばっかり食べてるって聞いたから」

 その包はずっしりと重く、どうやら重箱のようだ。

「まあ、夏田先生、おモテになるんですね、それじゃ失礼します」

 平野先生は笑いながらも、少しトゲのある言葉を残してその場を去った。

「えっ、い、いや、そんな……」

 夏田は平野先生の、遠ざかる背中を見ながら呟いた。女性から弁当を作ってもらうなど初めての経験なので、かなり動揺している。葵の顔を見て、

「え、えーと、じゃあ、ごちそうさま!」

 いや、違う、落ち着け譲司、と夏田は自分に心の中で言い聞かせた。いつの間にやら冷や汗が吹き出し、頬を滑り落ちる。

 葵はクスリと笑い、夏田の腕を引っ張り、

「ねえ、ここじゃなんだから、中庭で食べようよ。今日は良く晴れてて気持ちいいわよ」


 

 中庭の程良く刈り込まれた芝生の上に、葵が持参して来たシートを敷き、二人は三段重ねの重箱に入ったご馳走を食べている。

 いや、正確に言えば葵が夏田に食べさせている、と言った方が正しいだろう。 

「はい、センセ、あーんして」

 夏田は葵に言われるままに口を大きく開け、箸でつまんだシューマイを受け入れた。

 それは肉感がプリプリしていて、噛めば噛むほど口の中に風味が広がり、普段食べている弁当に入ってる物とは比較にならない程美味しく、夏田は感激しながら味わった。

「どう、センセ、美味しい?」

 葵はその天使のような顔で微笑みながら聞いた。

「う、美味い! めちゃくちゃ美味い!」

 それはお世辞ではなく、本心から出た言葉だった。

 葵は小声で、良かった、と言って同じ箸でシューマイをつまみ、自分の口の中に入れた。

 そして上品に口の前に手を添えながら咀嚼そしゃくし、納得したように小さく何度か頷いた。

「うん、作ってから時間が経って冷めてしまったら、味が落ちちゃうかなと思ったんだけど、大丈夫みたい」

 シュウマイを手作りしたのか、すごいな、と夏田は思った。

「あ、そうだ。センセ、お茶持って来たから飲んで。家で緑茶を煎れて来たの。緑茶は体にいいんだよ」

 そう言って側に置いてあった水筒を手に取り、カップを外しそれに中身を注ぎ夏田に手渡した。

 夏田はそれを受け取り、一気に飲み干す。

 美味い。

 いつも飲んでるペットボトルのお茶と違い、新鮮なお茶の風味が鼻腔をくすぐり、その温かみと共に栄養が体の隅々にまで行き渡るような気がした。

 感激しながら、夏田は過去を振り返った。 

 夏田は大学の時からずっと一人暮らしで、もう八年になる。

 貧乏学生だったし、教員になってからはあまり裕福でない田舎の両親に給料の半分は仕送りしている。

 だからいつも金がなく、食事もそれなりの物しか食べてない。

 昼間の食パンだって、自分に無理矢理美味しいと言い聞かせて食べている。

 もっといい物が食べたいのだ。本音を言えば。


「はい、アーンして、アーン」

 夏田は赤子のように口を一杯に開き、中に卵焼きを受け入れ、その味を感動と共に噛み締めた。

 重箱に溢れんばかりに詰め込まれたご馳走に、それをかいがいしく口へ運んでくれる美少女。

 夏田は突如訪れた幸せを満喫していた。 


 その時、ふと気が付いた。

 何十、いや、百人以上いるかも知れない。校舎の窓から生徒達が二人を見ている。

 ここは校舎の中庭なので、周りは校舎に囲まれている。考えてみれば学校の中でこれ程目立つ場所はないのだ。

 しかも夏田は水着一枚で、女子生徒とデートみたいな事をしているのだから、注目されるのも当然かも知れない。 


「アハハハハ、センセ、私達なんだか目立ってますね」

 葵は、無邪気そうな笑顔で言った。

「これで私達、公認のカップルになれそうですね」 

 普通なら、この場所を選んだのが葵の策略だったと気付きそうだが、夏田はさっぱり気が付かない。

 生徒と先生が交際してはいけないので本当なら焦る所だが、夏田は満面の笑みで立ち上がり、周りを囲む生徒達に向かって高々と拳を突き上げ、


「みんなー! 聞いてくれー! 俺に彼女が出来たぞー!」


 声の限り叫んだ。

 殆どの生徒達は笑い、手を叩くなどしてはやし立てたが、一年D組の一部の生徒からは、

「あの先生、またやっちゃったよ……」

 という言葉が漏れた。








 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ