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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
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期末テスト突破作戦!! その五

 生徒たちが入ってみると、そこはやはりごく普通のアパートだった。


 玄関から入るとすぐ台所で左手に流しがあり、右手に洗面所に入るドアが見える。その奥にバス、トイレがあるようだ。台所の奥が六畳ほどの居間になっており、その奥の開いたカーテンの向こうにベランダが見えている。


「普通じゃん……」


 佐野は思わずポツリとつぶやく。さっきまで豪邸だと期待していた自分がバカらしく思えるほどのありふれたつくりのアパートだった。


「おおっ!! みんなよく来たな!! さあ、上がれ上がれ!!」


 夏田は悪びれた素振りも見せず、約三十人ほどの生徒たちを招き入れる。


「よしっ、全員入ったか!」


 狭い家の中にどうにか生徒らは全員入ったが、座る事すらできないほどにぎゅうぎゅう詰めになっている。満員電車のように互いの身体が密着し身動きが取りづらく、ベランダへと押し出されてしまった者もいるようだ。


「わあ! 先生! なにコレ!?」


 ベランダに出た女子生徒が騒いでいる。


「パンツがいっぱい……あ、これ水着だ!」


 水着しか着ない夏田の物干しには当然水着しか掛かっていない。


「こんなにいっぱい……いつも同じの着てるんだと思ったたら、たくさんあったんですね!」


「ああ、全部で二十枚ぐらい持ってるぞ!」


「全部紺色の……?」


「もちろん!」


 何故もちろんなのか生徒たちには到底理解できなかった。水着しか着ないにしても、せめて色違いのやつを着ればいいのにと皆思った。


「あの……先生……今さらだけど」


 佐野が神妙な顔で聞いた。


「なんでいつも水着着てんの?」


「はっはっは! 野暮なこと聞くんじゃないよ! さあ、勉強、勉強!!」


 なぜこれが野暮なことなのか、やはりさっぱり分からない。取りあえず生徒たちは鞄から教科書などを取り出した。


「しかし、これじゃあ狭すぎるなあ」


「横の人と肘が当たっちゃうよ。大体机がないと」


 とても勉強がやれるような環境ではなさそうだ。


「先生、何の授業やるの?」


 勉強会というからには夏田がなにか教えてくれるのだろうと生徒たちは思っている。


「……うーん、俺は体育しか出来ないからなあ」


 生徒たちは夏田をじっと見たまま固まっている。


「……え? 先生が何か教えてくれるんじゃないんですか……? 体育なら、保健体育とか……」


「いや、俺は保健とか全然知らない。テストの問題は他の先生が作るし」


 なにか当たり前のように言う夏田にみな呆れている。


「ちょっと待ってくださいよ。先生何も教えないってことですか? それじゃあ、私たちこれから何をやれば……」


「……やっぱ、自習かな」


 生徒たちは唖然としている。自習なら普通に家で勉強してればいいではないか。わざわざ先生の家まで来て、危険な階段をどうにか上り切って、そうまでしてやって来たのにまさか自習とは。


「じゃ、じゃあ、こうしましょう!」


 西山葵が立ち上がった。何故か夏田に一目惚れして彼女になった奇特な生徒である。


「それぞれ好きな科目を自習して、分からないところが出て来たら分かる人に聞くっていうのはどう? これだけ人数がいるんだから、お互い助けあいましょう!」


 彼女の建設的な意見にみな賛同した。


「ちょっと手狭だけど、みんな我慢してね! あ、それじゃあ何か飲み物でも……先生。冷蔵庫開けていい?」


「オッケー! カモン!」


 西山葵にしてみれば初めて彼氏の家に来たことになる。どんな暮らしぶりなのか興味があった。


「うわあ、可愛い冷蔵庫……」


 胸の高さぐらいの比較的コンパクトな冷蔵庫を恐る恐る開くと、中には卵と牛乳だけしか入っていなかった。せめて麦茶か何かあるだろうと思っていたのだが期待外れだった。


「先生、食事はいつもどうしてるの? 朝とかは……?」


「朝は食パンと、牛乳、卵と決めてるんだ!」


 しかし冷蔵庫の中にはジャムもバターもマーガリンもない。いつも食パンをそのまま食べているようだ。


「ふーん……」


 せっかくの機会なので葵は流し台など、じっくり観察した。コップは綺麗に洗えているか、コンロ周りの汚れ具合はどうかなど注意深く見ておいた。


「まあ、他に彼女なんているワケないか……」


 そもそも年中水着一枚しか着ない男と付き合う女など滅多にいるはずがない。


 その点は心配しなくて大丈夫だな、と葵は思った。



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