期末テスト突破作戦!! その二
「先生、試験の件は別として、いい加減でその格好やめた方がいいよ!」
「そうそう。まさか爺さんになっても水着だけで過ごすつもりじゃないよね?」
生徒達からそんな声が上がった。
「いやいや、先生は死ぬまでこのスタイルでいくつもりだぞ」
夏田は胸を張ってそう言い切った。
「そんな……先生……」
皆、呆れ顔で夏田の顔を見つめている。
さすがにシワだらけの年寄りがピチッとした水着一枚で街をうろつく姿を想像すると、おぞましいものがある。
「まあ……確かにテストの成績が学年でビリってのも情けないものがあるな……」
D組の男子のリーダー格、佐野雄一が言った。
春のクラスマッチではバレー部員顔負けの活躍を見せた生徒である。
「先生、もし俺たちがビリにならなかったら水着やめるってのはどう?」
「それじゃあ、どっちにしたって水着やめる事になるだろっ!!」
「あ、気づいた?」
教室にどっと笑い声が響く。
「と、とにかく、今日から試験対策として、放課後補習授業をやろうと思う!!」
「ええっ!? 補習っ!?」
夏田の予想外の発言に皆どよめく。
油ノ宮高校では試験の一週間前から部活は禁止になるので、出れない事はないのだが、それにしてもいきなり今日からとは。
「補習と言っても自主参加だからな。無理に出る必要はない」
「ほ、補習って、誰が教えるの?」
「もちろん俺だ。俺が勝手に決めたんだから」
「夏田先生が……!?」
夏田は体育の教師である。
生徒達は不安げな表情に変わった。
そして放課後。
約30人ほどの生徒達が、教室に残っている。
「おおっ! 結構大勢いるな! そうか、やっぱり皆、俺に水着を着続けて欲しいんだな! よーし、張り切っていこう!!」
夏田は満足げな笑顔で頷いている。
もちろんそう思っている生徒などいる筈もなく、かと言って夏田の授業に期待している訳でもなく、一体どんな授業になるのかと興味本位だったり怖いもの見たさだったりで残った者ばかりである。
「よーし、じゃあまず皆の質問を受けよう! どんな科目でもいいぞ! 授業で分からなかった所があったら先生が教えてやる!!」
どんな科目でもいいなんて言っている。
なんという大風呂敷だろうか。
一人の女子生徒が少し不安げに手を上げた。
「あ、あの……私、不定詞の所がよく分からなかったんで、教えて欲しいんですけど……」
「おおっ! フテイシ! よーし任せろ!!」
夏田は黒板に大きく『不貞死』と書いた。
「これは……多分あれだな。夫婦のどっちかが浮気して、それが見つかって、怒った相棒に殺されるって意味だな」
まさかの答えに生徒達は、それぞれ深いため息をついたり、悲しげに眉を寄せたりしている。
英語の質問なのに、夏田は科目から間違えてしまった。
「せ、先生……英語の質問……」
夏田の恋人、西山葵が慌ててフォローする。
「えっ!? あ、ああ、そうかそうか!! 先生うっかりしてた!! 悪い悪い!! えーと、それじゃあ……」
しばらく黒板に書いた字を見つめた後、喋り出す。
「ア、アイ……ファック、アナザー、パーソン……アンド……キル、ド……」
「先生、私が代わりに説明します!」
見かねた高橋麻衣が手を上げた。
彼女はクラスで一番の美少女で、しかも成績優秀である。
高橋に片思いしている室井が、彼女にいい所を見せるべくバレーボールの特訓をしてクラスマッチで大活躍したが、その後二人に進展はあったのだろうか。
「お、おお! 高橋! 頼む!」
「不定詞というのは、他の品詞の働きをする準動詞の一種で……」
高橋は理路整然と不定詞について説明した。
生徒達の多くが、納得したように頷いている。
夏田は手を叩き、
「すげえな、高橋! もう俺じゃなくて高橋が先生やった方がいいぐらいだ!!」
と言った。
まさにその通りである。
いや、マジでそうした方がいいと誰もが思った。
「あ、そ、それじゃあ先生……そ、そうだ! 国語! 国語の授業をお願いします!」
高橋がそう言ったのは、国語は母国語なのだから、いくら夏田でもそれなりの授業になると踏んだからである。
夏田は生徒が気を遣って言ってくれてる事に気づきもせず、「オーケー! カモン!!」と威勢よく叫んで現代文のテキストを広げる。
「ええっと、そうだな……どうしようか……あっ、これでいい! 四字熟語をやろう!!」
小学生の時、国語のテストで四字熟語の問題で正解した事があったのを思い出したので、それに決めた。
「☐の中を埋めよ。☐朝☐夕……ふむふむ」
夏田はしばらく考え込んだ後、「分かった!!」と叫び、黒板に大きな字で『毎朝寝夕』と書いた。
生徒達は皆、眼を丸くする。
正解はもちろん『一朝一夕』である。
「毎朝、寝た!! 毎日、二度寝したって意味だな!!」
午後の教室に重い沈黙が落ちる。
期末テストまで、あと一週間を切っていた。




