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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
18/29

優勝しないと★

     挿絵(By みてみん)


「これじゃあ、ただの無茶ぶりだよ!」

 と文句を言ったところで、ボールは勝手に落ちて来る。

 室井は一旦重心を落としてから思い切りジャンプし、ボールを打った。

 しかしボールのやや下側を叩いたせいで、逆ドライブの回転がかかり、まるで飛び立つ飛行機のような角度で進んでいく。

 そのボールが着地したのは、相手チームの応援の人垣の遥か先だった。


 皆がボールの行方を見届けた後、室井の方へ視線を移す。

 これまでの活躍が見事だっただけに、急に失敗を重ね出した室井に注目が集まる。


 室井は思わず両手で頭を抱えた。

「ああ……やっちゃった……」

 サーブ、レシーブに続きアタックでも失敗。せっかく活躍して来たのに、この第5セットに入って一気にボロが出てしまった。

 付け焼刃なだけに、一旦悪い流れになってしまえば、なかなかそれを止められない。

「やっぱり駄目だ……たった2日練習したぐらいじゃ、そんなに上手くなるワケないよな……」

 弱気な言葉が口から漏れる。


「ほら、室井、落ち込んでんじゃない! まだゲームは続いてるぞ、集中!」

 聞こえて来たのは夏田の声。 

「せ、先生、俺……」

「しっかりしろ、室井! ほら、高橋が心配そうにしてるぞ! これじゃ付き合ってもらえないぞ!」

 室井はぎょっとして夏田の顔と高橋麻衣の顔を交互に見た。

 高橋は、驚いた顔で夏田の方を見た後、室井の方に視線を移した。

「わーっ! ダ、ダメだよ先生、それ言っちゃ!」

 夏田は眼を丸くして、

「えっ、ダメって? あ、ひょっとしてクラスマッチで活躍して、あわよくば高橋の彼氏になりたいって思ってるって事は言っちゃ駄目だったのか!?」


 室井は唇をわなわなと震わせ、

「せ、せ、先生……そんな……モロに言わなくても……」

「あーっ、こりゃ悪かった! 室井が高橋の事が好きだって事は、皆知らないんだ! 高橋本人も!」

「ああ……先生……そんなベラベラと……最悪だ……」 

 夏田は決して悪気があって言った訳ではないのだが、室井にとっては思わぬハプニングになった。

 何しろクラスのほぼ全員がその会話を耳にしてしまったのだから、こんな恥ずかしい事はない。


 バレーボールのコートを囲んで応援していたD組の生徒達がざわつき始める。

「室井が高橋の事好きだって……!?」

「それでこのクラスマッチで活躍していいとこ見せようとしてるって事……?」

 高橋麻衣は、艶やかな頬をほんのりと染め、驚いたような恥ずかしいような、複雑な感情が入り混じった表情を浮かべつつ、身体をモジモジさせている。

 そして室井は両手で頭を抱えたまま、その場にしゃがみ込み、

「うわあ……まさか、こんな……」


 そこへ体育委員の佐野雄一が、嬉しそうな顔をしながら室井に近づく。

「そうか、そうか、大体事情は分かった」

 うなだれる室井の肩をポンと叩き、

「それじゃあ、この試合、絶対勝たなきゃいけねえな。そうだろう、室井」

 室井は顔を上げ、しばらく佐野の顔を見つめた後、すっと立ち上がった。

「佐野……」

「ここで負けたんじゃカッコつかねえよな。やっぱ優勝しないと」

 佐野は他の選手達を見回し、握り拳を突き出し、

「聞いただろう、皆。絶対優勝して、室井を男にしてやろうぜ!」

「おおっ!」

 須山をはじめ、他の選手達も一斉に声を上げた。

 周りの生徒達も、手を叩き歓声を上げる。

 

 大きな拍手の中、試合再開の笛が響く。さっきまでとは違い、D組サイドは異様なまでの興奮に包まれている。

 成り行きですっかり試合の中心になった室井は、多少緊張しながらも気を引き締め直した。

『ありがとう、佐野』 

 心の中で礼を言った。

 夏田は嬉しそうな顔で、うんうんと頷き、

「なかなかいい展開になって来たな。やっぱこのぐらい盛り上がらないとな」

 結果論ではあるが、夏田の軽率な発言から、D組の士気を高める事に繋がった。

 

 今度は室井が前衛に回り、須山、佐野は後衛にいる。

 J組のサーブで始まり、佐野が綺麗なレシーブをセッターに返す。

 上がったトスを、須山が強烈なバックアタックで敵に打ち込む。

 ボールは白鳥の脇を抜け、相手のバックの選手の間で跳ねた。

 このセット初めて、D組が得点を上げた。

 

 抱き合うD組の選手達。

 興奮した夏田は思わずコートになだれ込み、一緒に抱き合った。

 線審に注意され外に出されたが、嬉しくて仕方なさそうな顔をしている。


 一方、J組の白鳥は悔しそうに、チッと舌打ちし、

「クソッ、須山の野郎、後ろから打ってくるとは……!」

「頑張って、ユキポン!」

 末広の応援の声に、

「うん、ノンノン。俺、頑張る!」

 締まりのない笑顔で答える。

 夏田はよっぽど

『どう見てもユキポンって顔じゃないだろう。言うんだったらゴリポンかモアポンだろう』

 と言ってやりたかったが、自分の教員としての立場を考慮して言わなかった。


 D組は、応援の人達も含めて妙な盛り上がりを見せ始め、少しづつJ組を追い上げ、6対5となったところで再び室井のサーブが回って来た。

「室井頼むぞーっ!」

「一発決めてくれーっ!」

「愛のサーブで高橋のハートを打ち抜け!」

 何だか変な声援も混じっているが、皆が室井のサーブに期待を寄せている。

 室井はちらりと高橋麻衣の方へ視線を向けた。

 両手を胸の前辺りで組み、祈る様な表情で自分の方を見つめている。


 だがそれは、見ようによっては不安を感じている様にも見える。

 自分が失敗ばかりしているからだろうか。


『畜生、俺のせいで……』 


 一度地面でバウンドさせてから、ボールをつかんだ。  


 これまで見せなかったような鋭い目で、J組の選手達を睨み付ける。

 

『あいつらを、ぶっ潰す……!』

 

 左手に軽く添えたボールを、手首を曲げないように注意しつつ、高々と宙に上げる。


 舞い上がったボールは、錯覚であろうが、いつもよりもゆっくりとしたスピードで落ちて来る。


 ボールの表面のラインまでもが、くっきりと見える。


 室井は高く飛び上がり、落ちて来たボールを全力で打ち抜いた。


 しかしボールは、室井が狙ったよりも高い軌道で進んで行く。


『しまった! また高く打ち過ぎた……!』

 

 誰もが一瞬バックアウトになるだろうと思ったそのボールは、ネットを越えた辺りで急激に落下し、そのまま誰の手に触れる事無く相手コート内の地面に落ちた。


 審判の笛が鳴り、D組の応援の生徒達から、わあっと声援が上がる。


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