モアイ★
迎えた第2試合、相手はJ組。
J組のバレー部員は、通称『東洋のモアイ』、白鳥一人である。
試合開始直前、ネット越しに白鳥の姿を目の当たりにした佐野は、
「ホントでかいなあ。2メートルは絶対あるよな」
別にそれは白鳥に話しかけた訳ではなく、隣にいるバレー部員の須山に対して言ったのだが、
「199センチだ!」
いきなり馬鹿でかい声が聞こえて来た。
見ると白鳥が佐野の顔を睨み、
「俺の身長は2メートルもない! 199センチだ!」
「だから大体2メートルだよね?」
「人の身長を大体で言うな! 俺の身長は断じて2メートルもない!」
どうして彼がそんなにこだわるのか佐野には理解出来なかった。
「分かった分かった。199センチだな」
「分かればいい」
審判の試合開始を告げる笛が鳴った。相手のサーブから始まる。
「気合い入れてけよ!」
白鳥が味方のサーバーに声をかけた。
おそらくこのチームは白鳥が中心となって攻撃して来るのだろうが、さっきのチームよりは苦戦するだろうと佐野は予想していた。やはりバレーボールで2メートル近い身長というのは、それだけで大きな武器だ。
佐野も須山も背は高い方だが、それでも180センチ弱である。他にD組に特別大きな選手がいる訳でもない。
白鳥のブロックの網にかからないように、注意しつつ試合を進めなければならない。
しかし早速、須山のスパイクが白鳥に止められてしまった。
白鳥が、よしっと大声で叫び、拳を突き上げる。
最初の試合では大活躍だったエースの須山がいきなり止められてしまった事で、D組に嫌な空気が流れる。
この試合は、初戦ほど簡単にはいかない。選手達だけでなく応援の生徒達も同じくそう感じた。
「ワリィ。ミスった」
須山が悔しそうな顔で言った。
「あんまりまともにいかない方がいいな」
佐野は頷き、
「そうだな、もっと攻撃に変化をつけていかないと」
しかし、その後も続け様に白鳥に止められてしまう
D組としては何とか得点を奪って、早く白鳥を後ろへ下げたい所だが、なかなかそれが出来ない。
打開策が見出せないままズルズルと得点され、8対0とリードされたところでタイムアウト。
選手達が夏田の周りに集まる。
「うーん、このままじゃまずいな……」
夏田が珍しく神妙な面持ちで、
「須山、同じバレー部なんだから、あいつの弱点か何か知らないか?」
「うーん、あいつは基本、守るだけの選手で、ブロックは出来ても、アタックは苦手なはずなんですけど……」
事実、これまでの失点は全て白鳥のブロックによるものだった。
夏田はしばらく考えた後、選手達に指示を伝えた。
皆は驚いた顔でその指示を聞く。
以外過ぎるその内容に皆戸惑っていたが、そこで試合再開を告げる笛が鳴った。
それぞれの位置に戻り、佐野が須山に
「どうする?」
「やってみよう。このままじゃ埒が開かない」
そんな彼らを、まだ前衛にいる白鳥が冷やかす。
「どうだ、何かいい作戦でも思い付いたのか? まあ、何をやっても無駄だろうけど」
だが須山も負けてはいない。
「うるせえ、モアイ。さっさとイースター島に帰れ」
「モ、モアイって言うなぁっ!」
白鳥は顔を紅潮させ、白い歯をギリギリと音が出る程に噛み鳴らした。
さっきの身長の件と言い、どうもこの白鳥という男は、自分の容姿にコンプレックスを持っているようだと佐野は感じた。
J組のサーブで試合再開。
D組の後衛の選手がレシーブし、セッターの佐野に返す。
佐野は須山に短めのトスを上げる。しかしその位置には白鳥が先回りし、須山の飛ぶタイミングに合わせてジャンプする。
しかし、ここからが違った。
須山はジャンプするような仕草を見せながらジャンプはせず、落ちて来たボールをそのまま相手に返した。
ブロックするべく飛び上がった白鳥の横を抜け、山なりのボールが相手コートに届く。
「な、何だとぉっ!」
白鳥の驚きの声が響く。
これが夏田の考えた作戦で、敢えてアタックはせずに相手に返そうというのだ。
常識外れの作戦のようだが、とにかく白鳥にブロックだけはさせまいという考えである。
J組の後衛の選手が慌ててレシーブし、セッターに返す。
セッターはぎこちない動きながら何とか白鳥にトスを上げる。
白鳥としては、着地してすぐさまその位置からジャンプしなければ間に合わない。
不十分な体制から打ったアタックは、須山、佐野の二枚ブロックに阻まれる。
ブロックされたボールは、白鳥の胸に当たり、地面に跳ねた。
主審の笛が鳴り、D組の方へ手を上げる。
この試合初めての得点である。
「ようし、いいぞっ!」
夏田の声と共に、D組の応援の生徒達が一気に湧き上がり、選手達はハイタッチで喜びを分かち合う。
見事に夏田の作戦がはまった。
D組の生徒達の視線が、夏田に集まる。
『やっぱりスゴい先生だ。これでちゃんと服さえ着てくれればなあ……』
それがD組の生徒達の偽らざる心境である。
「い……今のはまぐれだ! おい、いいからどんどん俺にボールを廻せ!」
次はD組のサーブ。
J組は指示通り、白鳥にトスを上げる。
しかし、彼の打ったアタックは直接ネットへ。やはりアタックは苦手なようだ。
まだ6点もリードしているのに、J組に嫌なムードが漂い始める。
「だ…大丈夫だ! おち、落ち着けっ!」
言ってる本人がかなり動揺しており、周りはそれを敏感に察知する。
さっきのF組と同じで、やはりただ一人のバレー部員の白鳥のワンマンチームらしく、その選手が活躍してればいいが、うまくいかなくなると一気に雰囲気が悪くなる。
更にD組は須山、佐野コンビの活躍で得点を重ねる。
ただ、この二人が後衛に回った時はD組は攻撃力に乏しく、相手に得点を許してしまう。
そんな両チームの攻防を、室井は固唾を飲んで見守っている。
『何とか、このセットを奪ってくれ……!』
自分の出る第2セットは、やはり第1セットのチームと比べて戦力が劣る。
さっきの試合は何とかなったが、この試合はどうなるか分からない。
D組がリードして迎えたマッチポイント。
須山が最後はバレー部としての意地を見せ、白鳥のブロックを強烈なスパイクで打ち抜いた。
「よぉおしっ!」
須山は拳を突き上げ、雄叫びを上げる。
結局第1セットは25対20でD組が奪った。
大きな拍手の渦が六人を迎え入れる。
「いやあ、よくやった! よくやった!」
夏田は弾けるような笑顔で、またもピョンピョンと子供のように飛び跳ねている。
「先生の作戦のおかげだよ」
「そうかな、いやいや、皆が頑張ったからさ! さあ、次のセットも取ろう! もうあのデカいのは居ないんだからな!」
夏田の言う通り、J組は男子生徒が多いので、ダブって出場する選手はいない。
第1セットに出ていた白鳥は、続く第2、第3セットには出て来ない。
ただ、もし試合が第4セット以降にもつれるようであれば、そこからは自由に選手が出れるので、当然白鳥は出て来るだろう。
今度は向こうも何か策を講じて来るかも知れない。
D組としては、やはりストレートで勝ちたいところだ。
けれども、そんなD組の思惑通りにはいかず、第2セットを落としてしまう。
続く第3セットはD組が取り、これでセットカウントはD組が2対1でリード。
試合は第4セットにもつれ込み、J組は再び白鳥の登場となった。
しかし、まだ第1セットを落としてしまったショックを引きずっているのか、見るからに表情に覇気がない。
これなら、須山、佐野、室井の出るD組の方が有利だろうと思われた。
だが、この第4セットに思いもよらない、眼を疑うような出来事が待っていた。
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