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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
13/29

開戦★

挿絵(By みてみん)


「いいか、F組にはバレー部員が一人だけいるらしい。だから条件的にはうちのクラスと同じだ」


 夏田は、周りを囲む生徒達に作戦を説明した。

 普段はおちゃらけた生徒の多い一年D組だが、今は真剣に指示を聞いている。

「だが、見た所他に目立つ選手はいない。ほとんど彼に打たせて来るだろう。実際昨日の昼休みのF組の練習ではそうだった」


 なんと夏田は他のクラスの練習を偵察していたのだ。

 普通クラスマッチでそこまでするだろうか。やはり夏田は他の先生とは一味違う。

「彼だけマークしとけばいいわけだ。こっちはまず、サーブレシーブからしっかり入ろう。それから、声を出すように!」

 男子生徒達は、おう、と大きく声を上げた。

 

 主審から指示があり、まず第1セットに出場する六人がコートに駆け出す。

 それを他の生徒達が大きな声援と拍手で送り出す。

 第2セットから出場の室井は、少しずつ緊張が増していくのを感じながら、選手達を見送った。

 さっきまで感じていた体の痛みが、今はあまり感じなくなっている。

 徐々に増していく気持ちの昂ぶりが、苦痛を凌駕し始めているのを室井は悟った。 


 主審の笛が鳴り、まずF組の選手がサーブを打つ。

 ごく普通、いやむしろ弱いサーブのように室井の眼には映った。


 緩やかな放物線を描きつつ落ちて来るボールを味方の選手が受け、セッターにつなげる。

 セッターはライトにいるバレー部の須山にトスを上げる……と思いきや、逆方向にいる佐野の方に低いトスを上げた。

 須山がフェイントのジャンプをしていたので、相手のブロックは追い付かない。

 フリーになった佐野は、クイックで来たトスを、思い切り打ちこむ。


 ズバン、と激しい音が響き、反応すら出来ない相手の後衛の選手の間でボールが跳ねた。

 その瞬間、D組の応援の生徒達から、わあっと歓声が上がる。

 夏田はガッツポーズをつくり、よしっと叫ぶ。

 ただ一人のバレー部員をおとりに使った攻撃は、見事に決まった。

「っしゃあっっ!」

「おおっっ!」

 D組の選手達は互いにハイタッチしながら声を駆け合う。


 予想してなかった攻撃に、F組の選手達は明らかに動揺している。

 F組の選手が、同じチームのバレー部員に、今アタックを決めた人はバレー部なのかと尋ねた。

 聞かれた選手が首を横に振ると、選手達は互いに困惑した表情で顔を見合わせる。

 

「いいぞ佐野ー!」

「佐野君カッコいいっ!」

 声援に笑顔で答える佐野。

 普段は女子にモテモテの佐野を少しばかりねたんでいる男子生徒も、今日ばかりは関係なしに応援している。


 次はこちらのサーブ。

 サーバーは、意外にも下からサーブを打った。

 これは室井にとっては意外だった。普通サーブは上から打つものだと思っていたからだ。

 宙高く舞い上がったボールは、上空で風にあおられ、軌道を変化させつつ落下する。

 相手選手が、誰が受けるのかはっきり決め切れないうちにボールが落ちて来た。 

 慌てて受けに行った選手がレシーブし損ない、弱いボールが直接D組の右サイドへ向かって来る。

 それを須山がダイレクトでアタック。

 またもや敵は反応出来ず、見事に決まった。


 体育館ではなく、屋外でやっている事を計算に入れた攻撃で、これは事前に須山が指示を出していた。

 再びD組の応援から大きな声援が上がり、抱き合って喜ぶ女子生徒もいる。

 絶好のスタートを切ったD組は、更に続けて得点を重ねる。


 特に体育委員の佐野は、須山に負けないぐらいの活躍を見せ、それを見た室井は考えさせられた。

 これなら、自分じゃなくて、佐野がダブって出場すべきだったのではないか。

 出場選手を最終的に決め、事前に委員会にメンバー表を提出するのは各クラスの体育委員の仕事である。

 思うに、体育委員の佐野は、自分で自分を推す事をはばかったのではないか。

 本当は、誰かが気を利かせて彼を推してあげるべきだった。

 大会が始まってしまった今となっては、もうそんな事を悔やんでもしょうがないのだが。 

 

 F組は、夏田の言った通り、バレー部の選手にばかりボールを集めている。

 彼のワンマンチームなのだろう。

 後衛に回った時も、彼がバックアタックを仕掛けて来る。

 これだけ単純な攻撃をしていたら、こちらとしても守りやすい。

 須山と佐野が前衛にいる時は、確実にブロック網に掛けてしまう。


 そんな状態が続き、結局D組は25対12の大差で第1セットを奪った。


 選手達を歓喜の輪が迎え入れる。

 夏田は子供のように、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

 だが、室井だけは気が気ではなかった。いよいよ自分の出番である。

 次の第2セットは、須山も佐野もいない。

 自分がエース格として出場するのだ。

「おーい、頼むぞ室井! 特訓の成果を見せてやれ!」

 室井は上擦った声で、はい、と返事をした。

 自分の声で、自分がどれだけ余裕がないのかを思い知らされる。 


 体がブルブル震えるのは、武者震いなどではなく、単に緊張からだった。

 ふわふわと足が地に着かないような感覚で白線を越える。

 

 ネット際に立ち、味方の選手達を見回す。

 それぞれ、不安げな顔や、真剣な顔で自分の方を見ている。

 彼らは皆、この六人の中心になるのは室井だという認識を持っている。

 

 自分が皆を引っ張らなければならない。

 

 室井は胸を張り、大きく息を吸い込み、

 皆、気合い入れていくぞ!」

 自らの不安や恐怖を振り払うべく、声の限り叫んだ。

「おおっ!」

 周りの選手達が、それに呼応して声を上げた。


 今度はD組のサーブから始まる。

 放ったサーブは相手コートの一番奥を襲う。

 F組の選手は上手くレシーブ出来ず、直接D組の方へ緩いボールが返って来た。

 チャンスボールをD組の選手が味方のセッターにつなぎ、室井の頭上に綺麗なトスが上がる。


 室井は全身をビクッと反応させてから、高く飛び上がり、落ちて来たボールを打つ。

 しかし、室井の打ったボールは相手コートを高々と飛び越えて行く。

 相手コートの後ろで見ている人達の頭上までをも、超えて飛んで行ってしまった。

 室井の頭から、一瞬で血の気が引いた。


 いきなりやってしまった、大きなミス。

 恐れていた事が現実になる。

 室井は、周りの景色がぐらぐらと揺れているような錯覚を覚えた。

 ぼやけた頭に浮かぶのは、落胆する味方の選手達の顔。自分を野次り、罵る声。

 中学時代の忌まわしい記憶が蘇る。


「ドンマイ、室井ー!」

 すぐ側から、大きな夏田の声が響き、室井ははっと我に返る。

「いいから、今ぐらい思い切って打っていけ! 失敗を恐れるな!」


 横を見ると、夏田をはじめ、高橋麻衣やその他のクラスメート達が自分に声援を送っている。

「室井君、しっかりーっ!」

 高橋は両手をメガホンのように口に当て、自分を励ましている。

 

 室井は視線を相手のサーバーに移し、ぎゅっと拳を握りしめた。


『やってやる……絶対にやってやるぞ……!』


 心の中で呟き、敵ののサーブに備え身構えた。 


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