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サマー☆ティーチャー  作者: 佐藤こうじ
12/29

試合前★

             挿絵(By みてみん)

 クラスマッチ当日。


 予報は雨と出ていたが、やや曇ってはいるものの雨は降らず、予定通りクラスマッチは開催の運びとなった。

 油ノ宮高校のクラスマッチは年に一回、学年別に行われ、一年生は男女ともバレーボールで戦う。

 先に女子の試合が10クラスによるトーナメント方式で行われ、夏田譲司の受け持つ一年D組は、決勝で敗れたが、準優勝というなかなかの好成績を上げた。

 

 午後からは男子の試合が始まるが、生徒達は昼食をとる前に一旦教室に集合した。

 生徒達を前に、夏田が激を飛ばす。

「女子はよく頑張った! 出来れば優勝して欲しかったが、準優勝だからなかなかのものだ」

 一年D組の教室に、わあっと歓声が上がる。

「さあ、男子も負けてられないぞ。皆で力を合わせて、何としても優勝するぞ!」

 おうっ、という男子生徒達の気合いの入った声が教室に響く。


 室井も皆と同じく、威勢のいい声を出した。

 普段はもの静かで、運動音痴な彼だが、今回のクラスマッチにかける思いは誰よりも強い。

 元々は休むつもりでいたクラスマッチに、思わず口をついて出た嘘のせいで、中心選手として出ることになった。

 出るのが嫌でどうしよかと悩んでいたが、夏田の特訓を受けているうちに心境が変わって来た。

 この大会で活躍して、クラスのヒーローになりたい。

 そして願わくば、今隣の席に座っている高橋麻衣の彼氏になりたい。

 

 今までの自分にとっては絵空事のようだが、厳しい特訓に耐え抜いた事で、ひょっとしたらやれるんじゃないかという自信が芽生えて来た。

 ふと隣を見ると、高橋麻衣の横顔が目に入る。

 この角度から見ると、彼女の長い睫が綺麗にくるんとカールしているのがよく分かる。

 長く柔らかそうな黒髪に少し高めの鼻。そして白い陶器を思わせる滑らかな肌。

 全てが自分の宝物の様に感じる。

 室井は机の下に隠した自分の手を、ぎゅっと強く握った。

 


 午後になってからも、相変らずの曇り空だが、幸いにも雨は降っていない。

 食事を終え、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り終わる頃、生徒達がわらわらとグラウンドに集まる。

 グラウンドの隅の方にバレーボールのコートが二面あり、そこで一年生のクラスマッチが行われる。

 ちなみに二年生はサッカーで、三年生は体育館でバスケである。

 つまり、1,2年生は全員グラウンドに出ているわけで、あまり広いとは言えない油ノ宮高校のグラウンドはかなり賑わっている。


 10チームでのトーナメントになるので、1回戦からの出場が4チーム、2回戦からが6チームとなり、一年D組は抽選の結課、2回戦からの出場となった。

 つまり優勝するためには、3回続けて勝たねばならないという事だ。


 まずま1回戦の二試合が行われる。

 D組の男子生徒達は、グラウンドの空いている場所に集合し、輪をつくり軽くトスの練習を始めた。

 室井もその輪の中に入り、練習に加わる。

 昨日の特訓は深夜にまで及んだ為、全身が筋肉痛になってしまった。

 少し身体を動かすだけで、思わず顔を歪めてしまう程の痛みが走る。

 だが、今となっては弱音を吐いてなどいられない。

 自分はこのチームの中心選手として、第2セットと第3セットに出場する事に決まっているのだ。

 

 皆が自分の活躍に期待している。

 もう後戻りは出来ない。

 さいは投げられたのだ。


 室井は自分の方へ飛んできたボールを軽くトスした。

 そのボールは向かいにいる、我がクラス唯一のバレー部員、須山の方へと飛んだ。

「おっ、なかなかいいトス上げるじゃん、室井」

 須山は笑顔でそう言いながら、自分の方へ来たボールを軽く指で払うようにトスをする。

 それを見た室井は、やっぱりバレー部員はトスひとつとっても素人とは違うな、と感じた。

 このチームの浮沈は彼の活躍にかなり影響される。


 だが聞いた話では、他のクラスにはバレー部員が三人いるチームもあるという。

 そうなるといくら須山でも苦しいだろう。

 優勝するためには、2セット出場する自分がどれだけ頑張れるかだ。 


 しばらくトスの練習をした後、一旦休憩を取る事になった。

 室井はバレーボールのコートの方に眼をやった。

 まだ1回戦の試合は続いている。

 遠目にも、激しいラリーの応酬おうしゅうが見て取れた。

 周りを囲む大勢の生徒達から、続けざまに大きな歓声や悲鳴が上がる。


 もうすぐあそこで自分がプレーすると思うと、否が応でも緊張が高まって来る。

 気が付くと、両手の平にじっとりと汗をかいていた。

 それをジャージのズボンに擦り付けていると、


「室井君、調子はどう?」

 室井がビクッとしながら声のした方を見ると、そこには少し心配そうな表情を浮かべる高橋麻衣の姿があった。

 ジャージ姿の高橋を見るのは初めてだったので、室井の心臓は更に脈打つ速度を速めた。

「ああ、もちろん、バッチリだよ」

 室井はぎこちない笑顔を浮かべつつ、事実とは少し異なる返事をした。

「そうなの、良かった。何だかちょっとやつれてる様に見えたから、体調悪いのかな、と思って」 

「いやいや、全然大丈夫!」

「それじゃあ、期待してるわね!」

「任せてよ!」

 

 お互いの顔を見つめ合い、その時一瞬間が空いた。

 

 それぞれの思いが交錯した瞬間。 


 遠くで試合終了を告げる笛の音が響く。


「よーし、皆行くぞー!」

 夏田の気合いの入った声が聞こえ、一年D組の生徒達は皆駆け出した。

 




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