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異世界恋愛短編

普通の貴族だと思って結婚したら、身分を隠して潜伏する王太子様でしたー!? ……離婚します!

作者: 待鳥園子
掲載日:2026/09/21

「……離婚します!」


「いやいや、ルリア。待ってくれ。その結論に至るまでに、僕の話を聞いてくれないか」


 私は勢い良く立ち上がりかけた姿勢から、椅子に腰を下ろした。


 先ほど、盛大な結婚式を経て私の夫になったばかりのエッセン伯爵アルベルトは、背が高く整った容貌を持ち群衆の中にあったとしても目を引くだろう。


 それもそのはず、金髪青目のアルベルトは直系王家の血を引いているなんて……私は結婚式が終わってから知らされたのだ。


 もちろん。婚約期間中にも、そんなことは、全く聞いた事はない。


 感情的になったことが少し恥ずかしくなった私はティーカップに口をつけて飲みながら、こんなにも美形の男性が私を選ぶなんて、本当におかしいわ……と、これまでに感じていた違和感の正体を知り、納得することができた。


 当代王は腐り切った政治を正そうと親兄弟など皆殺しにして、王位についた人物だ。


 そんな彼の息子エッセン伯爵とは仮の姿で、成人して息子が生まれ盤石になった状態で身分を明かす……そういうことになっているらしい。


「聞いていた話と違いますわ!」


「それは、そうだろう。僕もいま初めて君へ伝えたところだ」


 落ち着いた態度でアルベルトは言い、私はそんな彼を見てイラっとしてしまった。


 まさか、身分を隠してこうして結婚するなんて……逆ならわかるけれど、身分を下げて結婚するなんて、きっと彼くらいしかいない。


 私は自分で言ってしまうのも悲しいだけど、周囲から美女やらなんやらと持ち上げられるようなアルベルトのような際立った容姿を持って生まれている訳ではない。よくいる茶髪茶目で、平凡な容姿だという自覚はあった。


 ……けれど、私の実家エルトン伯爵家は裕福で知られていて、財産を狙う男性によく言い寄られていた。アルベルトと結婚する際に持ってきた持参金は、彼の領地での税収二十年分を優に上回るらしい。


 それに、大金持ちで知られるエルトン伯爵家は恨まれたり狙われることも多く、誘拐されそうになったことだって十回では足りない。


 私は単にエルトン伯爵令嬢というだけで、毎日が気の抜けない日々だったのだ。


 そんな時に私の大好きな母方の伯父、サウザント辺境伯から薦められた縁談がこのエッセン伯爵アルベルト相手のものだった。


 実際、幼いころから続く財産目当ての男性の相手をするのは、いい加減嫌になってきた……から、信頼している伯父が薦めるなら人柄には問題ないだろうと受けただけだ。


 アルベルトの顔が髭だらけでも肥満体型でも、私のほうは良かったのだ。


 美形の男性だと知り心密かに喜んだけれど……まさか、身分を隠した美形の王子様だなんて、全く思っても見なかった。


 エルトン伯爵令嬢であるという面倒から逃げようとして『面倒事』の権化のような身分を隠した王太子様と結婚することになるなんて。


 絶対に、嫌よ。私は穏やかな生活がしたくて、結婚するんだから。


「ええ……なので、結婚を決める前提条件に虚偽の事項が含まれていますわ。どうか、離婚させてください」


「……それは、無理だよ。ルリア。僕は王族なので離婚するには、それなりに確たる理由を要する。それに、僕を詐欺師と訴えることは、あまりおすすめしないね……父も君ならばと、了承した結婚だ」


 その時に微笑んだ、アルベルトの青い目。私は彼に見つめられて、自然にゾワッと鳥肌が立ってしまった。


 だって、彼の父親……現王は、王国を救うためとはいえ、縁者すべてを皆殺しにしているのだ。


 ……私一人、その死者の葬列に加わったところで、何がどうだというの。


「ですが、私はアルベルト様と離婚したいです。これは、騙されて結婚したようなもの。間違いなく信頼し合えるような、そんな関係にはなれません。お願いします。離婚してください」


 もしかしたら、私以外の女性であれば身分を隠した美形王子様との結婚に舞い上がり、身分隠しのことなど問題なしとするのかもしれない。


 けれど、私は普通の貴族として普通の生活をしたい。望んでいることは、ただそれだけなのだ。


 いきなり未来の王族になりますと伝えられても『それは嫌です』と答えるしかない。


 アルベルトは悲しそうな表情になると、ふうっと息をついた。


「わかった。僕も相手に嫌われながら、結婚生活を続けるのは悲しい。それでは、白い結婚でいこう。二年経って子どもがいなければ、父も納得するだろう。僕も離婚は残念だが、お互いにそのほうが後腐れなくて済む」


「わかりました……では、そういうことで」


 素っ気なく言って私は立ち上がり、私は部屋を出た。


 自分が着ている重い白い結婚衣装が、やたらと滑稽に思えた。これを選んだ時の私は、満足していた。


 幸せになれると思ったし、実家のあれこれからようやく逃げられると思ったのに。


 通常ならば、今夜は夫婦として結ばれる初夜だったけれど、白い結婚を理由に離婚するのなら、その予定もなくなってしまったわ。


 胸を高鳴らせていた自分が、なんだか馬鹿みたいだった。


 いいえ。あと二年……二年我慢すれば、私は自由になって素敵な結婚相手を見つけるのだわ。自分でいうのもなんだけど、莫大な持参金があるので、結婚相手には困らない。


 初婚ではないので、あまり条件は良い男性は望めないかもしれないけれど、その方が良いわ。


 誰にも羨まれず、狙われることのない生活がしたい……これまでの人生で、私はそれが出来なかったから。



◇◆◇




「さっき……足を引っ掛けられましたわ」


 私は形ばかりの夫たるアルベルトの腕に手をかけながら、はあっとため息をついた。


 そうだった。忘れていたけれど、女性は自分より良いものを持つ同性には、複雑な感情を持つもの。そういう生き物だった。


 夜会に共に出席すればアルベルトは、濃い金色の髪も神々しいほどにまばゆくて、誰かから注目されるべく生まれてきた男性に思えるのだ。


 それもそのはず、その正体は国民を統べる王族の直系なのだ。


 彼が『実は身分を隠した王子様でした!』とこの場で明かしたとしても、誰も疑うことなく納得するでしょう。


 誰がどう異論を唱えようが、ひと目見れば誰もを納得させてしまう。そういう確固とした王としての星の元に、生まれた男性だった。


 そんな彼と結婚することが出来た私を、誰かが妬まない筈はなく……私は名前も知らないどこかの令嬢に意地悪をされて、すんでのところでそれを回避することが出来た。


 こちらにその気はなく誰かに嫌な思いを持たれていると思えば、気分が悪いものだ。


 仕方がないとは思える。私は裕福な家の出で、アルベルトは同じ世代でも大人気だった美形な伯爵。


 けれど、誰かの悪い感情を思い切りぶつけられて、良い気分でいられるわけがない。


「怪我はなかったかい?」


 アルベルトは心配してくれて、優しく聞いた。私は小さくため息をついて、彼の質問に頷いた。


「ええ。大丈夫ですわ。まさか、こんな人の多い場所であんなことをするなんて……信じられませんわ」


「そう? それより、チョコレートでも食べなよ。気分が良くなるから」


 微笑んだアルベルトの手には、甘いチョコレート。目を瞬いた私はチョコを唇に押し当てられて、もぐもぐと食べた。包み紙はアルベルトの手の中でくしゃりと音を立てて、彼はポケットにそれをしまった。


 おそらくは、先ほどポケットの中から取り出したのだろうな……そう思った。


「美味しい?」


「……はい」


 私はアルベルトにそう聞かれ、呆気に取られたけれど悪い気はしなかった。


 公衆の面前であんなことをされると思っていなくて、ただ話を聞いて欲しいだけだった。同情してくれないかと望んでいた訳ではないけれど、内心ではそうしてくれるかなと思った。


 もうこの話はこれで終わってしまった。嫌な気持ちも終わった。アルベルトが続かせなかった。話を聞いて欲しかったと思ったけれど、私はいまはその方が良かった。


 あの出来事がもうどうでも良いものと思えたからだ。


 そこで、私はふと気がついたのだけど『面倒な立場』というのなら、アルベルトほどに、面倒なことを背負わされた人はいない。


 父王は腐敗した政治の立て直しを計り、縁者全員を皆殺しにした人。そんな現王の跡継ぎという立場は、どれほどに重い何かを背負うことになるのだろうか。


 私なんかよりも、何倍も何十倍も、生きることが難しい人……けれど、それは全く見えない。


 いつも楽しそうに微笑んでいるように見えるし、纏う空気は常に穏やかだ。


 私とのことだって、すでに結婚してしまっているのだから『生意気を言うな』と、押し通してしまっても良かったのだ。


 ……けれど、離婚したいという私の希望を聞いてくれた。二年後には自由にしてくれると。


「踊ろうよ。ルリア。僕はダンスは得意でね。せっかくだから、君と一緒に踊りたい」


「はい……」


 優雅に手を引かれて私は踊った。アルベルトはダンスが上手かった。さっき起きた嫌なことなんて、すぐに忘れてしまったのだ。



◇◆◇



 結婚してから三ヶ月の間、私は夫アルベルトと上手くやっていた。


 彼は苛烈だと知られる父王とは違い人当たりの良い人で、夫婦としての必要な相談や雑談などで嫌な思いをすることはなかった。


 真正面からなかなか目を合わせられない私は、綺麗な横顔を見るたびに、アルベルトが身分を隠した王子様でなかったら……なんて、思うことがあった。


 とはいえ、私はもう面倒な身分は懲り懲りで、普通の貴族としての生活を強く望んでいた。


 アルベルトが王位を継ぐにしても、いまの政治基盤は安定しているとは言いがたい。


 ……私は彼とともに、その苦難を乗り越える覚悟が持てるのか? と言われたら、決してそうではなかった。


 アルベルトにはもっと合う女性が、どこかにいるだろうと思う。私にも、もっと合う男性がいるように。


 だから、私はアルベルトと白い結婚を続け、二年後に何事もなかったように離婚したい。それが私の希望だったし、そうなるように全ての流れは進んでいた。


 何の不満もない……ただの、肉体関係のない穏やかな結婚生活だった。


「……旦那様はどこにいるかしら?」


 私はアルベルトを探していた。領地の契約の件で、彼の署名が必要だったのだ。


 早馬に乗ってきた知らせなので、一刻も早く署名して送り返さねば。


 いまのエッセン伯爵は仮の名前だけれど、後から見せてもらった結婚証明書には彼の実名たる王家の名前で書かれていた。


 すぐ後に署名したのに、私が気がつかなかったのかと言われれば、もう何も言えない。私はそれほどまでに、実家の面倒事から逃れたかったのだ。


 結婚に対して喜びしかなかった。


「奥様。旦那様なら、いつもの遠乗りに行かれたのではないかと」


「あら……そうなのね。急ぎだから、厩舎のほうを探してみるわ」


 アルベルトの趣味は乗馬で、エッセン伯爵家には名馬と言われる馬を飼育していた。非常にお金が掛かるけれど、隠れた王族だからこそ、それができる……そういうことよね。


 ただ、アルベルトが隠れた王族であることは極秘とされていて、知る者は非常に限られるらしい。


 私も離婚をすれば誰かにいうことができるかもしれないけれど、家族は全員殺されてしまうだろう。別に脅された訳ではない。彼の父親がそういう人だから、容易に想像がついてしまうだけだ。


 私は書類を手に足早に進み、厩舎の方までアルベルトを探すことにした。


 何気無く曲がった曲がり角で何人かの武装した男たちを見て、目を見開いた。


 彼らがエッセン伯爵家の者ではないのは、ひと目見てわかった。顔を隠していたからだ。


 悲鳴をあげそうになり口に両手を当てて、私は身を隠した。


 近くには御者や騎士がいてもおかしくないのに、いない……もしかしたら、もう片付けられてしまった後なのかもしれない。


「……おい。王子はもうすぐ戻るんだな?」


「……いつもなら、近くの湖まで遠出をして帰って来る。ここになら、必ず帰ってくる」


「……直系の跡取りはいないと見せかけて、まさか貴族として身分を隠しているとはな……相当に父親が恨まれているから、仕方ないが……」


 断続的に聞こえてくる会話。


 明らかに、伯爵と身分を偽った王太子アルベルトを狙っている。私の全身は危機を感じて緊張していた。


「……あの王の天下も、もうすぐ終わりだ。直系男子はこの王子だけ。こいつさえ、殺せば……公爵が、王になれば……俺が」


 私は足音を忍ばせて、ゆっくりとその場を離れた。アルベルトは、一人での遠乗りを好んでいる。


 そんな情報を彼らが知っているということは、内部に協力者がいるのだろう。私がここで誰かに助けを求めたとする……けれど、その誰かが協力者だったとしたら?


 ドクドクと心臓が大きな音を立てて鳴っていた。


 ……ああ。いけないわ。このままだと、彼が殺されてしまう。


 まだまだ長い時間ではないけれど、アルベルトと過ごした日々が頭をかすめた。優しかった穏やかだった。良い感情を持つには十分過ぎた。


 私はここで彼を見殺しにすれば、独身に戻れるし二年を待つこともない。それは、頭では計算できるけれど、アルベルトがなす術もなく殺されてしまうなんて、絶対に嫌だった。


 厩舎で待ち構えているので、私は馬は使えない。この二本の足で、走って行くしかない。


 伝えなきゃ……私は、アルベルトが遠出の行き先に選ぶ湖に向かって走りはじめた。


 エッセン伯爵邸は王都の郊外にあって、湖はすぐそこだ。一度連れて行ってもらったことがあるので、私は道を辿って迷わずに走った。


 アルベルトに伝えないと……彼が邸に戻れば、数人が一斉に襲いかかり彼は殺されてしまうだろう。


 すれ違ったら、どうしようと思った。いつもは道を辿るだろうけれど、道を辿らなくても帰れるのだから……もしかして、今日に限ってそんな気分になったら。


「……アルベルト!」


 走っていた私は前から駆けてくる馬を見て、彼の名前を叫んだ。


 アルベルトは険しい表情だ。私の傍に来て、すぐに馬から飛び降りた。


「アルベルト! アルベルト……! 私っ……そのっ」


 息が上がって、なかなか話ができない。走るなんて子どもの頃振りだったのだから、それは仕方ない。


「ルリア。下がって。わかってる。僕に危機を教えてくれようとしたんだね」


 ……え……どうして? 私は不思議に思った。アルベルトは私がここに居る理由を、どうしてわかったのだろうと……。


 そして、彼が私を背に庇って、すぐにその理由が見えた。


 馬に乗った……あの、顔を隠した何人もの男たち。アルベルトの命を狙っていた、あの男たちだったのだ。


「ご案内。ご苦労様です。奥様」


「必死で走っていましたね……まさか、夫を殺す道案内をしてくれていたとは思いませんでしたが」


「まさか……素人の足音を聞き逃すとでも?」


 彼らはくくくと嫌な笑いをして、私はあまりのことに目を見開いた。なんてこと! アルベルトの元へ向かうので必死で、後をつけられているなんて思わなかった!


「黙れ。妻を侮辱することは許さない」


 アルベルトは静かに腰から剣を抜き、馬を降りた彼らと対峙した。


 戦いが始まるのは、すぐだった。カンカンと金属音が響き、私が驚いたのは守られる王子様であるはずのアルベルトの強さだった。


 顔を隠した彼らは、訓練された暗殺者だろう。それが何人もいる。けれど、アルベルトは彼らを逆に圧倒するかのように、一人一人地に沈めて行った。


 私が驚きつつ彼らを見つめていたら、いきなり首をぐっと絞められて、後ろから野太い声がした。


「おいおい! この大事な妻が殺されてもいいのかぁ!?」


「……やめろ。武器は捨てる」


 あと、暗殺者を二人まで追い込んでいたアルベルトは、呆気なく手に持っていた剣を捨てて両手をあげた。


 私は手を口に当てられていて、何も言えなかった。


 このままだと、二人とも殺されてしまう……計算すれば、簡単なことのはずだ。二人で死ぬべきではない。替えのきくただの貴族の私なんかを見捨てて、王族の血を引く彼が生き残るべきなのだと。


「妻の命だけは……助けてやるよ」


「はああ……驚いた。まじかよ。皆殺されてるじゃん。王子様ってこんなに強いのかよ」


 暗殺者たちはアルベルトの強さを目の当たりにして、呆れるように言った。足元にあった剣を遠くへと蹴ると、アルベルトの喉を持って顔を近づけた。


「ふん。こうして見ると、あの国王にそっくりだな。首を持ち帰れと言われているから、喉をかき切るか」


 彼は黒いナイフをアルベルトの首に押し当てたので、私は目の前にあった手を噛んだ。


「いてぇ!! 何すんだ。この女!」


「逃げて! 早く逃げて……! アルベルト!!」


 私は必死で叫んだけれど、アルベルトは優しく微笑んだ。


「……? なんだ?」


 彼はすぐ傍にあったナイフを持っている手首を掴み、ボキッと生々しい嫌な音がした。骨を折ってしまったのだ。その場にいるアルベルト以外は、あまりの驚きに動けなかった。


「……わ! 嘘だ……っ」


 目の前の男の腹を蹴り上げて、地に沈めるとアルベルトは私の後ろにいた男にナイフを投げた。


 肩に命中して捕まえていた力が緩んだので、私は慌てて逃げ出した。


「アルベルト!」


「……ごめん。ルリアを守って死ぬのならいいかと、そう思ってしまった」


「良くないわよ!」


 その時に、アルベルトの馬は先に戻っていたので、エッセン伯爵家から人がやって来た。


 何人もの人が来て、アルベルトは何があったかという事情を説明していた。捕らえられた男たちは、縄に縛られていく。


 そんな光景を見て待っていた私はゆっくりとした足取りで帰ってきた彼を見上げ、思わず涙目になってしまった。


「……死なないで。お願いだから。面倒な立場から逃げたい気持ちは、私にもわかるけど……生きていると何かいい事あると思うもの」


 それを言った私の顔を見て、アルベルトは目を見開いた。


「……わかった。けど、僕は面倒な立場で隠された王子でね。なかなか幸せには、なれそうもないよ。望んで結婚した妻には、王子だからすぐに離婚したいと言われる始末でね」


 どこか、諦めた表情だった。悲しそうに見える。聞き逃せない情報に、私は目を瞬いた。


「待って。アルベルト……私を妻にと、望んだの?」


 それは、初耳でこれまでに聞いていない情報だった。思わず唖然としてしまった私に、アルベルトは苦笑していた。


「言えないよ。王子の身分を明かせば、離婚しますの一点張りだから……条件で結婚したくないと言われてしまえば、何も言える訳もない。嘘をついていたと言われれば、その通りだ。僕ならば身分を明かして納得してもらい、愛を告げなければ意味はない」


「それは……その」


 それは、申し訳ない事をしてしまったと思った。私はただちょうど良い莫大な持参金付きの貴族令嬢なだけで、面倒な立場に選ばれたと思っていた。


 ……そういえば、結婚したあの夜。


 離婚するという結論に至るまでに自分の話を聞いてほしいと、アルベルトは何度か訴えていたような……ああ。もしかして、愛しているから結婚して欲しいと、あの時に伝えようと?


「うん。まあ、あの……父を持つ王子でね。しかも次期国王だ。無理をしなくていい……君との結婚には、折り合いはつけているつもりだから」


 全てを諦めたような表情。私は思わず声をあげていた。


「待って! 待ってください。その……そうです。もちろん、条件が大事なことは変わりありません! けど……」


 ……そうよ。たとえ困難すぎる道だとしても、愛し愛されているのなら……それは、それで話が変わってくるのでは?


「僕は知っての通り、君が大嫌いな『面倒な』王子だけど、良いの?」


 アルベルトは肩を抱いて私の顔を覗き込んだ。近い。なんだか恥ずかしい。視線を外しながら、私は答えた。


「わかっています……その、少し考えても良いですか?」


 いま知ったいろんな情報が、あまりにも多すぎて……そうよ。私もちゃんと考えなければ、目の前にいて静かに微笑む王子様との未来とか。


 ……私もこの人のこと『面倒事』を飛び越えても、好きになれるかどうかとか。



Fin



どうもお読み頂きありがとうございました。

もし良かったら、最後に評価していただけましたら幸いです。


また、別の作品でもお会いできたら嬉しいです。


待鳥園子

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― 新着の感想 ―
いや、いくらなんでも結婚後に「実は・・・」って言われるのはキツすぎるぐらいでかい秘密なんだよなぁ 普通に考えてあまりに信用できなくなりそうな行いをされてるから、面倒ごとを飛び越えられるかとかこれから夫…
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