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第三話

「冒険者をクビになったんだって。おめでとう。これで職を失うのも通算十回目だな。節目の記念だ。良かったな」

開口一番、席に着いた私は友人であるフィアにそう言って迎えられた。


なぜクビになったのを知っている?

そう思わなくもなかったが追及すると余計面倒な事になりそうだったのであえて何も言わなかった。すると、

「うん。メア。おめでとう」

続いて、フィアよりも控えめな声が一つ。ユウだ。相変わらず眠そう。というか既に目が閉じかけている。しかし、フィアと同様になぜだか祝福してくる。

全くユウまで。別に無理に乗っからなくても良いのに。

何故か二人は私の方を見て祝福ムード。本当に縁起でもない。こっちは散々な一日を過ごしたというのに。


私から見て右側にいるのがこの街の騎士団に所属しているフィア。そして、左が同じくこの街の魔法団に所属しているユウだ。机の上に置いてあるジョッキを見るにフィアはもうお酒が入っているのか私を見てニヤニヤと。ユウはいつも通り。相変わらず表情が乏しい。


あー。この様子は。なんとなく分かった。きっと二人とも面白がってるな。


長年の勘がそう伝えている。しかしまぁ来てそうそう、何だろうコレ。二人ともどこからそんな情報を仕入れたのだろう。やっぱり帰りたい。けれど、来てしまったからにはしょうがない。だから、私は反抗の意味を込めて、あえて何も言わなかった。

そして、そんな私の雰囲気を感じ取ったか知らないが、あからさまにフィアは話し始めた。


「今までの記録は何だ。料理人、配達、清掃なんかもあったか?」

フィアにそう問われる。挙げられたのは見事に私が今までこなしてきた仕事だった。でも、ほんの一部。しかし、よく覚えているなと感心する。当の本人である私ですら忘れていたのに、いや、忘れたかったのに。けれど、私は認めたくなくて「うん」とだけぶっきらぼうに答える。

「レストランの仕事は?」

と今度はユウ。

「皿を沢山割るから、いらないって言われた」

「ちなみに何日で?」

今度はフィア。

「三日」


「清掃の仕事は?」

「バケツの水をよくひっくり返して、清掃の邪魔だから何もしないでって言われてそれっきり」

そう答えると二人共何か察した様子。

「本当に使えないんだな」

「メア、おめでとう」

「さっきから何!? 私まだ何も言ってないんだけど!」

それに、その二つは二人とも何で辞めさせられたか知っているだろうに。わざわざ蒸し返してきた。全く意地が悪いというか性格が悪い!


そしてそのまま机に突っ伏して泣き崩れる私。そんな私とは対称的に「メアも来たことだし」と改めて乾杯をしている私の親友二人。私は当然、お金は持ち合わせていないので自分の目の前に運ばれてきた水の入ったグラスに口を付ける。


「でも、何で知っているの?」

たまらず私は突っ伏したまま疑問を口にした。

「ああ、あいつらが教えてくれたぞ」

目を向ければ、フィアの眺める方に男が二人。私の方を見てフィアと同じくニヤニヤと。先ほど、私の姿を見た時に噂をしていた奴らだ。きっと朝にギルドにいた冒険者の中にいたのだろう。そして、フィアはそのまま話し続ける。

「それに、騎士団の中でも噂をされてたぞ。偽勇者がまた追放されたってな」

何だろう、そいつら。ぶん殴りたい。

そして、ユウも。

「魔法団の間でも有名。偽勇者が使えないって」

魔法団の間でもか。面識すらないのに。


「もう、二人ともうるさい」

そうして私はまた机と机と向かい合った。

「でも、今回は長かったんじゃないか」

「全然、長くないよ。一カ月だよ」

「十分、長いじゃないか。いつもどんなに長くても二週間くらいだろ」

先程から恐ろしい程に当たっている。よく覚えているな、コイツ。

「そうだけど、そうだけど。でも、今回は自信あったの。きちんと試験を受けて採用されたし」

「それ、いつも聞いている気がするぞ」

「うん。毎回言ってる」

そういえば、私が何処かを辞めさせられる度にこうしてこの二人とご飯に来ている気がする。思い返せばそんな気が。なぜか毎回、狙いすましたようなタイミングで誘われる。

「でもまぁ、憧れの冒険者を少しでも体験出来て良かったじゃないか」

体験って。いや、まぁ試用期間だし考えてみれば間違ってないのかもしれない。いや、そうじゃなくて。

「全然、良くないよ!」

危ない。流される所だった。気を付けないと。


「で、今回はなんで辞めさせられたんだ?」

「確かな理由は告げられてない。今日の朝、いつものようにギルドで待ってたら私のお世話になっているパーティーのリーダーにそう言われた」

「そりゃ、お前が使えないからだろ」

さも当然かのようにフィアが言う。

「異論なし」

「もう、辛辣。二人とも少しは慰めてよ」

「そうはいっても流石に十回目ともなるとなぁ。流石に慰めようがないというか」

「うん。もう飽きた」

「もう! ひどいよ!」

慰めようというか過去にもこういう時慰めてもらったことなどないような気がするが。


どうやら二人とも慰めてくれる気はさらさらないらしい。まぁ、私だって慣れている。私は顔を上げ二人と向かい合う。改めて、私は吹っ切れて事の顛末、もとい愚痴を言い始める。

「それに、追放されたら普通は険悪で終わるじゃない。でも、逆なの。逆にお前の頑張りは認めるって慰められた」

「そ、それは何とも言えないというか掛ける言葉もないというか」

「うん。かわいそう」

うん。二人ともどっちの心配をしているんだろう。私の方だよな。


「で、今日はそのまま何をしてたんだ? もう朝の内に辞めさせられたんだろ。その後はもう次の仕事でも探してたのか」

「え、辛くて街の広場のベンチでそのまま寝てたけど」

そう答えるとフィアはまったくというような呆れたような素振りを見せる。

「だってしょうがないじゃん。今回ばかりはショックが大きかったんだから」

いわゆるふて寝と言う奴だ。どうしようもなく辛い時は寝るに限る。

「まぁ、それもあるが、お前、よく何もされなかったな」

「それは危ない」

危ないんだ。そうなのかな。別に今までもこんな事良くあったけど。


私のそんな様子を見てか、

「お前、今まで、どうやって生きて来たんだ?」

唐突にフィアからそんな事を聞かれる。そういえば学院時代は目の前の事に精一杯で自分の身の上を明かしたことはなかった。今振り返っても不思議なほどに。

「うーんと、物乞いをしたり優しいおじさんとハグしてお金を貰ったり?」

基本的に路上でその日暮らしという事が多かっただろうか。

そういうと二人の顔が引き攣る。

「その後は、何かされなかったのか?」

そうフィアにただならぬ様子で聞かれる。その様子に少したじろぎながら、

「え、うん。特に何もされてないけど」

「そうか。良かった」

「安心した」

「いや、ホントに良い人だったんだって。おじさんに抱き着いてくれればお金を上げるって言われて、抱き着いたら本当にくれたんだから」

「いや、それ、お前・・」

「うん。ダメ。メアは気づいてない」

さっきから何だろう。気づく気づかないって。良く分からない。

でも、今振り返って見れば生活が一変したのは学院に入学出来ると決まった時だろうか。


「二人はどうやって学院に入ったの?」

話の流れ的にというかなんとなく気になった。

「え、私達はなぁ。家柄的に入れって言われたから」

そうして目を合わせるフィアとユウ。どうやら二人共同じ理由らしい。でも、そうか。学院って普通そうだもんね。この街の学院に通う人は大抵、家柄も優秀でお金持ちが多い。その中で私は異端だ。

「そういうメアは?」

「え、私は勇者に似ているからどうかって言われてそのままトントン拍子で入学出来た。それに学費も免除された」

「流石、偽勇者だな」

「うん。ずるい」

ずるいって。別に私は勇者だと自称してない。周りが勝手に勇者に似ているからもてはやすだけ。それに、私だって実技は免除されたけど学科は皆と同じように受けたんだ。


まぁ、勇者に似ているおかげで助かっているから何も言えないんだけどさ。

あのまま過ごしていたら今頃、路上で野垂れ死んでいたかもしれないし。


でも、学院入学後は大変だった。もてはやされて入学出来たは良いものの期待外れだと失望されて挙句、勇者のニセモノ呼ばわりだし。学費の免除が止められなかったのは唯一の救いだった。けれど、学院ではどちらかというと辛い思い出の方が多かった。後ろ指を指される事が多かったし。


それでも、今目の前にいる二人。フィアとユウだけは周りの空気に流されず私と仲良くしてくれたんだよな。そして、卒業後の今でもこうして机を囲んでいる訳だけど。


・・・


「でもなぁ、今回こそはって思ったのになぁ」

ダメだった。慣れてはいるけれどやっぱり落ち込んでしまう。


私の居場所ってないのかなぁ。


これだけダメってことは。

ぼんやりとそう思う。改めて自覚すると辛いものがある。

思い返せば今までどんな事をしてもダメだった。今回のように気づいたら追い出された。

いくら努力をしてもそうだった。もう涙は流石に止まったけど、どうしても下を向いてしまう。

それに明日からどう生きていこうかも、今は分からない。

その日暮らしの路上生活をするにしても、久しぶりだしそれに学院時代はいつも二人が一緒だったから。

これからは一人で生活をするのは過去よりももっと過酷かもしれない。体の面でも心の面においても。


そんな私の様子を見て二人が「フッ」と笑う。

「私がこんなに悩んでるのに、二人とも笑って」

「悪い、悪い。別にいじめたいわけじゃないんだ」

「うん。元気出して」

まぁ、二人共なんだかんだこうして毎回、ご飯に誘うのは二人なりに気を使ってくれているんだろう。

「まぁ今日はおごってやるから。飲んで忘れちゃえ。どーせお金ないんだろ」

バレてたか。

「そう。大人しく飲むべき」


じゃあ、今日ぐらいは甘えても良いだろうか。

そう言われて私は迷った末、目の前のお酒の入ったジョッキを勢いよく飲み干した。



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