イチゴ姫
近世オランダのあるお城に、苺が大好きなお姫様がおりました。
ある時、側近に言いました。
「世界で一番、美味しい苺が食べたーい」
それはまだ8歳で幼いお姫様の無邪気な望みでした。
それを聞いた王様は、家臣たちを選んでこう言いました。
「予の最愛のひとり娘が、世界一の苺を望みだ。大至急、集めてくれ」
春から初夏にかけてが、苺の実る季節です。
まずは領内の美味しい苺が、お姫様に献上されました。
「美味しい。これが世界一の苺なの?」
「いいえ、お姫様、これは領内で一番の苺です。世界はもっと広いのです」
仕事を任された宰相は正直に答えました。
「来年の春には、もっと美味しい苺をお届けいたします」
ある家臣は北欧に、ある家臣は東欧に、苺を求めて探検に出ました。
船でアメリカ大陸にまで渡った勇気ある家臣は、各地で苺の苗と市場の珍しい野菜(ジャガイモ等)を持ち帰りました。
翌年の春、数種類の苺が実りました。
給仕に運ばれて来たのを、さっそく試食するお姫様は9歳。
「これは小さくて赤いのね、うん、甘酸っぱい。こっちは白くて大きいのね、まだ若いけど甘いわ」
「最初につまんだのは、バージニアイチゴ。次が、チリイチゴです」
宰相が説明してくれました。
「甘酸っぱくて、もっと大きい苺が食べたい」
お姫様は、そのような感想を述べました。
またある忠実なる家臣は、農園に品種改良をお願いしました。
「株分けでなくて、花粉を交配して、種から育ててみます」
翌年の春、10歳になったお姫様は、苺農園に行きました。
農園には、たくさんの種類の苺が育っています。
では、さっそくのつまみ食いです。
「お姫様、お毒見を」と侍女に注意されますが、
「毒見はよい。赤くて大きくて甘くて、美味しいわ」
農園の苺を頬張って、満面の笑みのお姫様です。
「これじゃ、これこれ、とても美味しい」
お姫様はついに自分好みで世界一の苺を見つけました。
そしてこの苺は「プリンセス」と呼ばれるようになりました。
のちに北欧の食糧危機を救ったのが、スペイン産でなく、あの時のジャガイモだったとか。それは別のお話。