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4話 運動と食事

「よっ、ほっ」


 なぜ今までの戦闘で転んでいたのか、試しにに運動してみたらすぐにわかった。

 身体能力が高すぎたのだ。

 走ってみれば某最速陸上アスリート並の足の速さ。跳んでみれば1mは優に跳び超え。試しにバク宙やバク転をしてみたらむしろ勢い余って回りすぎて着地に失敗した。

 もう一度チャレンジしてみたらどちらも簡単にできてしまった。

 元の世界では後転すら満足にできなかったのに………。

 ようは身体能力は高いのに以前のように体を動かそうとしたから、その感覚の齟齬で転んでしまったのだ。


「まぁこれでだいぶ慣れたし、戦いやすくなったかも」


 軽快な動きで木に登り、しっかりとした太さの枝に腰掛ける。地上にいるよりは木の枝の上の方が安全だろう。

 近くの枝に何もいない事を確認してから呪文を唱える。


「ステータス・オープン」



 No Name レベル4

 種族 吸血鬼

 性別 女

 生命力 2142/2142

 魔力 1443/1681

 体力 2471/3844


 【スキル】

 『吸血』『血液魔法(9)』『拳法(2)』『疾走(1)』『跳躍(2)』『軽業(3)』

 【体質】

 『弱点無効』『再生』『血魔循環』



 『疾走』

 一般戦闘スキル。

 走力や、走る時の持久力が強化する。

 練度が高いほど足の速さや持久力、走る時の体幹の強さが強化する。


 『跳躍』

 一般戦闘スキル。

 跳ぶ速さや距離を強化する。

 練度が高いほど自在に跳躍を制御できる。


 『軽業』

 一般戦闘スキル。

 複雑な身体の動きを制御する。

 練度が高いほど自分の身体を正確に操り、より複雑な動きを可能にする。



 新しいスキルがいくつか増えていた。あの身体能力確認の影響だろう。

 どれも戦闘関連の補助的なスキルだ。元々運動神経は微妙だからありがたい。

 ボクは球技はできるが体操はできない。特に器械体操は、以前跳び箱の台上前転で盛大に失敗して脇腹を打ってから軽いトラウマなのだ。


「でもバク転とか戦闘でさりげなくやったらカッコ良さそうだよなぁ」


 体操が苦手だったのにバク宙やバク転に挑戦した理由はこれである。

 だって男の子だもん。格好良い事はしてみたいもんね。


「にしても、結局体力って何なんだろう?」


 『再生』のリソースである事はわかっているが、その他はほとんどわからない。ステータスを呼び出すと、常に前見た時より減っている。

 じっとしていれば回復するが、動くと減る。そのままの意味の体力を数値化した物と捉えるのが正解か。


 ステータスを閉じて軽く伸びをする。

 この森で目が覚めてからまだ何も食べていないし飲んでいない。お腹も空いてきたしそろそろ何か口に入れたい。


「お?」


 少し離れた茂みの裏に、素早く動く影を見つけた。大きさからして小動物。ゴブリンみたいな化け物でなければ食べられるかもしれない。

 木の根本の周辺を確認し、木の枝から飛び降りる。普通なら足を痛める高さだが、今の体なら何ら問題はない。

 『血液魔法』の準備をしながら影が見えた方向へ音を立てずに忍び寄る。


「いた」


 影の正体は兎だった。ただの兎ではなく、角が生えた兎だが、兎には変わりない。

 異世界ならば、角の生えた兎は初心者向けの雑魚モンスター。

 とはいえ接近戦をするつもりはない。『血液魔法』で仕留められるならそれでいい。

 というより、兎を殴り殺すのは少し抵抗がある。あんなに可愛い生物を殴り殺す選択はまだできない。


「よーく狙って………!」


 兎は走っては止まり、走っては止まりを繰り返していて、非常に狙いが付けづらい。一度外せば存在がバレて逃げられる可能性も高い。

 兎が止まった瞬間を狙い撃ち、見事に兎はの腹を血の弾が貫いた。


「よし」


 心の中でごめんねと謝りながら軽くガッツポーズをして、仕留めた兎に近付く。もし生きていた時に暴れられないように耳を掴んで持ち上げる。

 どくどくと流れる兎の血を見ていると、一つの好奇心が湧き上がる。


 兎を吸血したら、どうなるんだろう。


「物は試しだ、やってみよう」


 仮にも今ボクは吸血鬼だ。兎の物だろうと血は血だ。飲めるはずだ。兎の耳を顔の近くまで持ち上げ、兎の首筋に噛み付く。


「ん………ふっ………」


 牙から飲む、というのが何とも奇妙な感覚だ。牙を立てて傷口から血を飲む、のではなく、蚊の口吻ように牙を突き立てて吸う。

 人間にはない器官の存在に、どこか癖になる感覚を覚える。


「ぷはっ………なんだろう、不思議な感じ」


 兎の血をほとんど飲み尽くし、死体をまじまじと見つめる。

 やはりペット種よりも野兎に近い。足は長く体も細く、機動力に優れた体。そして普通の兎と違い、頭から生えるユニコーンのような角がここが異世界であると主張している。

 さて、食べるために殺したのだから最低限の責任は果たさなければならない。


「焼くか」


 吸血鬼なら生肉も食べられそうだけど、それは流石に精神的に拒否感が強い。

 近くに落ちていた木の枝を2本拾い、1本は地面に置き、もう1本は両手の掌で固定し、枝の先端を地面に置いた枝にくっつける。

 そう、サバイバルでよく見る火起こしだ。

 初心者だし知識もないから適当だ。


 火起こしに挑戦し始めてから5分、そもそも火を付ける以前の問題が発生していた。


「………………あっ」


 バキッという音が手元から聞こえる。目を細めながら自分の手元を見ると、握っているのはまたしても半ばから折れた木の枝。

 吸血鬼という人外の力に、木の枝が耐えられないのだ。かと言って、木の枝が折れないように力を抑えれば、摩擦が足りずに火を起こせない。

 最適な力加減ができるのなら火を起こせると思うが、そんな繊細な事はまだできない。

 強すぎる力の代償を初めて感じる出来事が、こんなしょうもない事になるとは。


「うーーん………あっ!」


 そうだ。

 ここは今までとは違う魔法のある世界なのだ。であれば火の魔法も存在するはず。


「あーー………」


 でもどうやって火の魔法を修得すればいいのだろうか。

 『拳法』『疾走』等のスキルの取得状況から察するに、スキルを修得するにはそのスキルに関連する行動をする必要があるのだろう。

 だが火の魔法に関連する行動って何だろうか。それこそ火起こしじゃないか。


「うあーー!!」


 もどかしさに耐えられずとりあえず適当に叫んでみる。何も解決するわけじゃないが少しスッキリした。


「………生で食べるか?」


 最後の手段。

 野生の動物の生食。

 正直キツい。日本人、というより現代人の感覚が叫んでいる。生食はダメだろと。


「んーーーーー………」


 唸りながら悩んでいると、背後から茂みをガサガサと掻き分ける音がした。

 反射的に振り返り、戦闘態勢を取る。

 すぐに姿を現した茂みの音の主は数秒固まった後に叫んだ。


「………ち、痴女だーー!!?」


 茂みから来た来訪者は、この世界で初めて会う()だった。

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