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3話 『血液魔法』

 レベル上げと人探しのためにボクは森の中を宛もなく徘徊していた。歩き回って10分は経ったが、人はおろか他の動物も見当たらない。


「あの狼に襲われたのって、偶然だったのかな」


 だが今は何でもいいから他の動物を見つけたい。あの狼を倒してレベルが上がったのだから、敵を倒せばレベルは上がる。

 吸血鬼といえど不死身ではないようだし、早めに自分の戦闘力は上げておきたい。

 しかし現状、何とも出会えずただ歩いているだけである。

 生命力はもう完全に回復してしまった。想像していたよりも『再生』の回復速度は早かった。


「うーん、『血液魔法』使ってみるか」


 そこら辺に落ちていた木の枝で自分の指を少し斬り、木の枝は捨てる。

 そして滲み出てきた血に、自分の中の何かを流し込む。すると滲み出る程度だった血がかなりの勢いで飛び出してきた。


「うわっ!?え、えーと、止まれ!」


 ボクがそう叫ぶと、とめどなく溢れていた血がぴたりと止まり、手のひらの上で球体になって静止する。

 ステータスを開いて見てみると、魔力が10秒に1のペースで減少していく。この程度であればあと3時間は維持できるという事だ。

 生命力は少し削れたがすぐに回復していた。斬り傷ももうない。


「こう………かな」


 右手で銃をかたどり、人差し指の先に血の球をセットする。そしてその簡易的な銃を、すぐそばにあった木に向けて構え、右手を振り上げる。

 バシュッという小気味いい音とともに血の弾が発射され、木に直径10cmほどの穴を開けた。


「これは………人に向けて撃っちゃだめなやつだね」


 木に撃ってこれだけ簡単に風穴が開くのだ。普通の人間に撃ったら同じように風穴が開く。

 それは動物に当てたって同じだ。


 茂みをガサガサと鳴らして出て来た、この世界に来て二匹目の動物と相対する。緑色で毛のはいていない薄汚い肌で、手足が長く胴の短い人間の6歳程度の大きさの人型の異形異形。

 ゴブリンだ。


「やっぱ異世界と来たらゴブリンだよねぇ」


 鋭くとがった自分の犬歯で自分の指を噛み、『血液魔法』の準備をする。

 当たれば一撃死させられるだろうが、手数は多い方がいい。集中して血を操り、大きさを小さくして、六個の血の球を自分の周囲に浮遊させておく。


「一応聞くけど、意思疎通できる?」


 油断はせずにゴブリンに言葉をなげかける。ゴブリンといえどももしかしたら話ができるかもしれない。

 しかしゴブリンはそれに何の反応も示さず、ボクに向かって走り出した。

 ボクはすぐに手で銃を作り、狙いを定めてゴブリンに血の弾丸を撃ち出す。

 実際の実銃よりも弾速は遅いものの、それでも近距離で避けるには早すぎる。ゴブリンは心臓部分を貫かれ、あっさりと絶命する。


「うへぇ、気持ち悪………」


 中途半端に人間に近い緑の肌の人型の異形。しかも顔は猿より遙かに醜い。生理的嫌悪が強かった。

 ゴブリンから意識を逸らすためステータスを呼び出す。


「お、レベル上がってる」


 レベルは3になり、各種ステータスも上がっている。

 そして『血液魔法』の横の数字は0ではなく6になっていた。やはりこの数字は練度なのだろう。

 想像よりも練度の上昇量が大きい。血の銃は2回しか使っていない。『血液魔法』は練度が上昇しやすいのだろうか。


 あれこれ考察していると、急に体の横から衝撃を受け、踏ん張りきれずに倒れる。


「え?」


 ステータスに夢中になっていたボクは気付かなかった。さっき倒したゴブリンの仲間が周りに潜んでいたのだ。


「クッソミスった………!」


 クリアリングをしないなどゲーマーの名折れだ。特に戦闘の後は漁夫の利を狙う敵が多いというのに。

 大抵のゲームや物語でも、ゴブリンは群れをなすというのに。

 まずは落ちついて、ゴブリンを押し退けようとしながら、冷静な状況判断に頭を切り替える。

 今ボクに抱きつき、動きを封じているのが1匹。正面の木の上に1匹。左右の茂みに隠れて1匹ずつ。そして正面に姿を現した最後の1匹。計5匹だ。


 これなら、今展開している血の球で血の銃を撃てば全員殺せる。


「ひっ!?」


 抱きついていたゴブリンが、ボクの腰を舐める。ぞわぞわと今までにない悪寒で背中が粟立つ。

 ゴブリンが人間に襲う理由。それは食物にするか、慰み物にするかだ。そしてボクは今可憐な女の子で全裸なのだ。


 嫌だ。食われる以上に童貞なのに化け物に処女を捧げるとか最悪にもほどかある。


「死ね!!」


 ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべながら抱きついているゴブリンを思い切り殴り飛ばす。

 すぐに立ち上がって正面のゴブリンに狙いを澄ませて血の銃を発射。眉間を撃ち抜き、ゴブリンの体は衝撃で飛ぶ。


 残ったゴブリンが真上左右から一斉に飛びかかってくる。

 ボクはバックステップをしてかわし、両の手で銃の形を作る。それぞれを左右から飛び出してきたゴブリンに向けて、発射する。

 右手の血の弾は右のゴブリンの頭を貫通したが、左手の血の弾は左のゴブリンの右腕にかすっただけだった。

 もう一歩後ろに飛んだボクは、着地に失敗して背中から地面に倒れ込んだ。


「痛った………」


 ゴブリン2匹は転んで無防備なままのボクに襲いかからず様子を見ている。マウントを取られている所からゴブリンを殴り飛ばしたボクを警戒しているのだろう。


「距離を詰めてこないのはありがたいね」


 ボクは起き上がりながら再び自分の指に噛みつき、丁寧に血の球を2つ作る。

 右手で銃をかたどって、ゴブリンに狙いをつけ、発射する。ゴブリンは避ける事もせずに頭を撃ち抜かれ絶命する。


「グギャアァァ!」


 最後の1匹のゴブリンは雄叫びをあげて飛びかかってくるが、冷静に頭を狙い、血の弾を撃つ。狙い通りに頭を撃ち抜き、最後のゴブリンも死んだ。

 周りを見渡し、他に動物がいない事を確認し、息をつく。


「………ふぅ」


 現状、ボクは常に死と隣り合わせだ。

 今のゴブリン戦だって、相手がこちらを殺す事を最優先で動いていたら、ボクはきっと為す術なく殺されていた。


 一つ気になるのは、狼の時もさっきのゴブリンの時も、体をうまく動かせずに転んだ事だ。

 いくら引きこもり気味といっても、走り出せば転ぶほど虚弱だった覚えはない。

 身体能力についても、検証しておくべきだな。

ほのぼのし始めるのは他の登場人物が出てきてからになります。

まあ魔物が出てくる場所に一人でいてほのぼのできるわけがないよね。

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