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14話 初めての依頼

 2日目の冒険者ギルドは、特に何の問題もなく最初の用事を終えられた。

 まずはどれか依頼を受けてみようと、ギルドの受付嬢に駆け出しの冒険者御用達の依頼を教えてもらう。アンナと相談して、柔軟草の採取とスライムの討伐の依頼を受注した。


 柔軟草はアンナが初めて会った時に探していた薬草だ。どうやら加工すればポーションの材料になるようで、そのまま煎じれば鎮静作用のある薬茶になるらしい。

 スライムは言わずもがな最弱の魔物………というのはこの世界では少し違うようで、舐めたら痛い目にあうとの事。


 まずは柔軟草の採取だが、これは特に難しい事はない。リボンから東にある群生地で山程採取する事ができるのだ。見分けも何もなく一面に柔軟草の草原が広がっている。

 採取中に何度かシルクの森で見た角兎が襲ってきたが、全て攻撃される前に耳を掴んで捕獲し、遠くに投げ飛ばす。アンナは何か言いたそうにこちらを見ていたが、構わず採取を進めた。


 採取を終わらせてリボンの街のすぐ近くに戻り、次はスライム討伐だ。スライムを倒すついでにボクが使える『血液魔法』をアンナに見せて、その後に一般的な魔法をアンナからいくつか教えてもらう。

 討伐対象のスライムを見つけたので5mほど手前で立ち止まる。スライムはぴょんぴょん跳ねるわけではなく、のそのそとカタツムリのように動いている。

 大きさは直径60cmほどで、そこまで大きい個体ではないようだ。


「じゃ、いくよ」

「え?まだ遠くない?」

「ここからでも届くから」


 自分の指に自分の歯を突き刺し出血させ、その血に魔力をのせる。血を球体にして、銃の形を作った自分の右手の人差し指の先に留め、思い切り右手を振り上げる。

 血の弾はスライムに向かって一直線に飛んでいき、スライムの体を貫く。


 この世界のスライムは、弾力性のあるゼリーのような体を持ち、質の悪い剣では刃が通りづらい。使い手の力量が足りなくても同様だ。

 しかも、倒すにはゼリー状の体で護られた魔力核と呼ばれる内臓のようなものを損傷させる必要がある。その核は体とほぼ同色で肉眼ではほぼ見つけられない。

 ただ、基本的に核は体の中心にあるので、体の中央を攻撃できれば大抵倒せる。だが、たまに核の位置をズラしている変異個体が出現するらしい。

 昨日アンナが戦ったあのスライムは通常個体だったが、もし核の位置が違えば両断しても倒せずに、逆に体内に取り込まれてしまう。

 単独での脱出は難しく、そのまま溶かされて食べられるらしい。そうして死んだ冒険者が年に数人はいるようだ。

 まあスライムは種族的に動きが遅いため、しっかりと気をつけていれば攻撃される事はないし、パーティを組んでいれば助けてもらえるから、そこまで凶悪な魔物ではない。


 ボクの血の弾に貫かれたスライムはすぐに穴を塞いで、何事もなかったかのようにまたのそのそと動き始めた。


「無理か」


 倒せないのは想定内だ。そもそも5m先のどこにあるかいまいちわからない核を、直径2cmほどの弾で撃ち抜けるとは思っていなかった。

 銃の扱いなんてエアガンや射的をちょっと遊んだくらいなのだ。あとはゲームの中だけである。

 なぜ当たらなかったのか。ボクの腕が悪い。それはそうだが今はどうにもならない。

 ではどうするか。


 球を大きくすればいいのだ。


「ちょ、ちょっと!?」


 既に治っていた自分の指を今度は強く噛み、さっきよりも大きい血の球を作る。アンナの驚く声が聞こえたが無視して、そして同じように手を構え、振り上げる。

 直径20cmほどの紅い砲弾がスライムに向かって飛んでいく。その体積のせいか質量のせいか、普段の血の弾より弾速は明らかに遅いが、スライムの動きの遅さで避けられる遅さでもない。

 紅い砲弾はスライムの体の中心に大きな風穴を開けた。核を失ったスライムは体の形を維持できずに、粘性の水溜まりが残った。


「あ、核残ってるかな、あれ」


 スライムの討伐を証明するには、スライムの魔力核を必要とする。駆け出しの冒険者が破壊できない程度には頑丈だそうだが、あの砲弾はそれ以上の威力があるだろう。


「待って待ってシラユキちゃん」


 アンナががしっとボクの肩を掴んで正面から睨みつけてくる。


「今のって、無詠唱魔法だよね?」

「え?あー………多分、そう」

「無詠唱魔法であの威力………」


 アンナは何やら真剣な顔をして何かを考え始めた。無詠唱魔法としては威力が高かったのか、低かったのか。

 今朝はアンナも無詠唱で魔法を使っていたし、一般的なものだと思っていたがそうではないのか。


「シラユキちゃん、他に使える『血液魔法』ってある?」

「いや、あれ以外に使った事ないけど………多分やろうと思えば他の攻撃もできる」

「うーん………やってみてくれる?」

「わかった」


 再度自分の指を噛み、流れ出た血を魔力で操る。さて、何をしてみようか。銃の次は、剣にしてみるか。

 アンナが買ってくれた短剣を抜き、ボクの血を刃の周りにコーティングする。鋼鉄の色は鈍い紅色に変わり、不気味な雰囲気を醸し出す。


 軽く辺りを見てみると、少し離れた場所に、スライムがいるのが見えた。


「あ、待って!その武器じゃ………」


 『跳躍』と『疾走』をフルで使用し、一気に距離を詰め、スライムを短剣で左から右へ横薙ぎにし、後ろに飛び退る。

 アンナはすぐにボクの後を追ってきた。


「………スライムの核に届かないって言おうとしたんだけど………」


 アンナは驚いた顔をしていた。ボクの持っている短剣は刃渡り15cmほどで、直径60cmほどあったスライムの中心には届かない。

 だが、ボクが斬ったスライムは爆発四散し、核を斬れた事を証明していた。

 コーティングした血を横薙ぎの瞬間に斬撃を飛ばすイメージで弾き飛ばし、射程を伸ばしたのだ。弾き飛ばした血の斬撃はスライムの魔力核を傷つけ、スライムを倒した。

 これなら、短剣のリーチの短さも短所にならずにむしろ長所になりうる。


「なるほどね。これが『血液魔法』かぁ」

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