13話 初めての装備
「似合うよぉ、シラユキちゃん!」
少しねっとりしたアンナの誉め言葉に少々複雑な思いを抱く。
ボクが今着ているのは裾にフリルのついた紺色のフードパーカーに、薄いクリーム色のショートパンツ。最初はスカートを持ってこられたが断固拒否したため動きやすい短いパンツを履いている。
もう少し丈は欲しかったのだが、アンナとルビーさんの謎の押しに負け、せめてものショートパンツにしてもらった。
目の前のアンナの様子を見て、少し後悔してきているが。
「とりあえずそれは冒険用にするとして、私服も欲しいでしょ。冒険用でないなら丈の長いズボンでも大丈夫だし」
その後もアンナが色々な服を持ってきて着せ替え人形にされる。一応スカートは持ってこないでくれているが、ノースリーブやヒラヒラの服などいかにも女の子な服ばかり着せられる。
ただの全裸よりも女装の方が恥ずかしく感じるのはなぜなんだろう。
女子っぽさを強く感じる服は拒否して中性的な雰囲気の服を3着ほど選ぶ。どれも質素ではあれどディテールは綺麗だし相当なブランド物な気がする。
「ねえアンナ、お金は大丈夫なの?」
「平気平気、結構持ってるから」
アンナは薬草採取の時に使っていたポーチからジャラジャラと金属性の何かを近くの机に出した。冒険者用の服に着替えつつ机を覗き込んでみると銀色の円形の金属が散らばっている。この世界の貨幣だ。
「ルビー、これで足りる?」
「いつも雑なのよ、貴女は」
ルビーさんは商品の値段を確認した後、アンナが出したお金を受け取り、別の貨幣をアンナに手渡した。銅色の貨幣だ。それぞれ銀貨と銅貨だろう。
「はい、これお釣り。他にお客さんがいるみたいだから、貴女達はそっちの裏口から出て」
「え?ああ、あの人ね。大丈夫なの?」
「………いい人なのはわかってる。単に私が割り切れてないだけだから」
そう言うルビーさんは悔しそうな悲しそうな、そんな表情をした。後悔や怒りが混じった複雑な顔。
「無理はしないでね」
アンナはそれだけルビーさんに言うと、ボクを連れて服屋を後にする。最後に見せたルビーさんの表情は、なぜか強く目に焼き付いた。
「さて、次は装具屋に行こう!シラユキちゃんはどんな武器がいい?」
武器か。勿論、元いた世界は武器を取る必要があるような環境ではなかった。触ったことがあるといえば、学校の体育の授業で剣道をやった事があるくらいだ。とはいえ竹刀と真剣では全く扱いは違うだろうが。
そもそもこの世界にどんな武器があるのかを知らない。冒険者ギルドでは剣、斧、槍を持っている人がいたが、よくわからない武器を持っている人も何人かいたな。
しばらく街を歩き、アンナに装具屋に連れてこられた。建物の見た目は煙突のついた工房といった感じだ。
「たのもー!」
アンナは元気よく叫びながらドアを開けて装具屋に突入する。
「もうちょっと静かに入れねえか」
店の奥のカウンターから呆れたような男性の声が聞こえた。声の主は少し燻ぶった茶色の髪に鋭い目つきの鈍色の目を持つ、鍛冶師のイメージにぴったりないぶし銀の男性。
「マークさん、この子に合う武器ください!」
「いきなりだな、相変わらず。んで、その嬢ちゃんか」
鍛冶師としてしっかり筋肉のついた体躯は、支部長と遜色ないほどに大きい。
「ふむ………嬢ちゃんの体格なら、そうだな………」
ぼそぼそと呟きながらマークさんは店頭に掛けてある数種類の武器をカウンターの上に置いた。並べられたのは、短めの直剣、短剣、細剣、そして先端に白色の石のついた木の杖。
「重い武器やリーチの長い武器は扱いづらいだろうからな」
「この杖は?」
「魔法の威力を上げる武器だ。後衛の魔法使いになるんだったら有用な武器だな」
どの武器が最適だろうか。一番無難な選択は直剣を選ぶ事だろう。だが小柄な体型を活かすには軽量な短剣もありだし、ヒットアンドアウェイがやりやすい細剣も悪くない。杖に関しては、魔法について知らなすぎるからどう評価していいかわからない。
「なんなら素振りでもしてみるか。触った方が判断しやすいだろう」
マークさんがボクに直剣を手渡す。真剣だというのに手に持つ感覚は異様に軽い。やはり吸血鬼の膂力は人並外れている。
直剣、短剣、細剣をそれぞれ思うように振ってみる。当然剣術の心得なんてないので、適当に振っているだけだ。
「杖はまぁ、ここじゃ試せないが………どうだ?どの武器が一番使いやすかった?」
どれも大して変わらなかったが、強いて言うとするなら。
「短剣」
細剣は突きが主体で武器を持った事がない人間には少し扱いづらい。突きの動作は日常生活では使わないから体の動かし方がわからなかった。直剣も悪くはなかったが、取り回しとして短剣の方が扱いやすかった。そしてなぜか、短剣を使っている時が、一番体が軽かった。
「ふむ、短剣か。その中じゃ一番攻撃を受けやすい戦い方をする事になるだろうが、いいのか?」
「いい」
即座に答える。シルクの森での狼の攻撃は思い出すと血の気が引くが、同格程度の相手ならば生命力の削りあいで負けることはないはずだ。死ななければ勝ちだ。
「武器はそれでいいとして、次は防具だな」
防具に関しては何もわからないので、マークさんに任せると、アンナと同じレザーアーマーを選んでくれた。アンナは非常にご満悦だった。
ここのお金もアンナが払ってくれた。見た限り銀貨2枚で買っていた。数枚銅貨でお釣りがあったが、どれほどのお金を使ってくれているのかがわからないからなんともいえない焦燥がある。
武器屋での買い物を終え、ボク達は一度宿に戻り、先程買ったボクの私服をアンナの部屋に置いておく。次の目的地は冒険者ギルドだ。この前みたいな問題が起こるかもしれないから荷物を置いていく。
ボクの見た目からしても舐められるのはわかる。だが昨日不本意ながら一発かましたわけだし、今日は変に絡まれる事がないよう祈っておく。




