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12話 暴走のお詫びに

「シラユキちゃん、この度は誠に申し訳ありませんでした………」


 昨日の風呂の中でずっと体中を撫でられた後、拘束魔法を解除しないまま再びマントを着せられ、部屋までだっこで運ばれ、そのままベッドで抱き枕にされた。

 アンナが寝た後、魔法の効果が途切れたのか身動きが取れるようになったので、アンナを引き剝がしてベッドではなく床に寝た。そのはずなのに。

 朝起きたら全裸でアンナに抱きかかえられていた。マント替わりにしてた布はベッドの下に落ちていた。 いい加減イライラしながらアンナの腕から逃れようとすると、アンナは寝ぼけながら拘束魔法を発動させた。またかよ。

 そして、アンナが起きるまで再びアンナの抱き枕にされていた。


 だけならばよかった。

 トイレに行きたくなってしまったのである。

 アンナを起こそうと声をかけるも、寝ぼけていて唸るだけ。むしろ体を撫でられてさらに尿意が高まる。だがこのままではいつまでこの状態かはわからない。アンナが体を弄るからだんだん尿意に耐えられなくなってきているし、早く起こさなければ。

 懸命にアンナに声をかけるが、起きる気配はない。一際大きな声でアンナの名前を呼ぶと、それに呼応するようにアンナがボクを抱く腕に力を込めた。きゅっとお腹を絞められて、膀胱が押され。


「まさかこんな事になるとは………」


 結果、大惨事である。

 ボクは盛大に濡れたベッドのシーツをベッドから取る。しかしここからどうしようか。汚れたシーツをこのままにしておくわけにはいかないが、洗う手段がわからない。


「私がやるよ………」


 アンナがボクからシーツを受け取り、水魔法を使って洗濯機のようにシーツをぐるぐると洗い始めた。洗い終わると、今度は風魔法を使ってシーツを乾かし始めた。


「便利だな、魔法」


 ボクがそう呟くと、アンナが遠慮がちに聞いてきた。


「………シラユキちゃんは魔法使えないの?」

「………『血液魔法』っていう種族固有の魔法なら使える」

「じゃあ、他の魔法は使えない?」


 ボクが首を縦に振ると、アンナはちょっと元気を取り戻して言った。


「じゃあ、今回のお詫びに魔法を教えるよ」


 確かに魔法はできるようになっておきたい。さっきのを見る限り生活にも応用できるようだし、戦闘にも問題なく使えるだろう。

 とはいえそれだけで許せるわけではない。昨日のアンナの大暴走のせいでボクの男としてというか人としての尊厳は蹂躙されてしまったわけで。最初に会った時は優しい子だったのに、本当に同じ人なのか疑問に思うほどだった。


「それとシラユキちゃんの服も見繕うよ。いつまでもそのままにしておくわけにもいかないし」


 それならば許そう。さすがに全裸にマントは少し落ち着かないし、街に滞在する以上早く服を着たい。


「とりあえず服屋だね。その後に冒険者ギルドで依頼を受けに行こう」


 乾かし終えたシーツをベッドにもう一度取り付け、部屋を後にする。宿屋の食堂で朝食を食べた後、街へ繰り出す。昨日もそうだったが、視線を強く感じる。やはりマント一枚なのが原因だろう。靴も履いていないし、身なりは綺麗なはずだがどうにも普通の生活をしているようには見えないだろう。

 アンナに連れてこられたその場所は、かなり大きな建物だった。1階建ての服飾店を想像していたが、目の前の建物は貴族のお店というイメージが浮かぶ西洋風の3階建ての屋敷。そこにアンナは躊躇いもなく入る。

 アンナってもしかしてそういう身分の高い人だったりするのだろうか。

 カランカランと来客を知らせる鈴とともに中に入ると、2階部分まで吹き抜けにした広々とした空間が広がる。入口から見るだけでも、豪奢な物から質素な物までありとあらゆる服が展示されている。

 奥の方から誰かが近付いてくるのが見えた。その人は間延びした少しやる気のなさそうな声で店員としての挨拶をした。


「いらっしゃいませー。あれ、アンナ?」


 アンナは服屋の店員とも顔見知りらしい。やっぱりかなり交友関係が広いな。


「久しぶり、ルビー」

「久しぶりって、一昨日も会ったでしょ、冒険者用の服を新調したいって。もう破いたりした?」

「ううん、そうじゃなくて、今日はこの子の服を買いに来たの」


 アンナがボクをルビーと呼んだ彼女に紹介する。ライトブラウンの髪に黒色の目の、日本にいても違和感のない少女。年はアンナと同じくらいだろうか。


「どうしたの?その子」

「保護したの。記憶も身寄りもないんだけど、一緒に冒険者としてやっていくつもり」

「ふーん?まあ確かにその恰好じゃ奴隷と間違われかねないか」


 奴隷か。確かにぼろ布一枚羽織ってるだけだし、裸足なのもあってそう見えるかもしれない。


「じゃあ採寸するから、こっち」


 ルビーさんはアンナとボクにジェスチャーで近くの部屋に付いてくるように言った。隣の部屋も泊まっていた宿屋の部屋よりも大きく、質素ながら豪華さを感じる。


「ねぇ、アンナって貴族だったりするの?」

「ん?私は貴族じゃないよ」


 私()、という事は、貴族なのはルビーさんの方か。


「あ、ルビーも貴族じゃないからね。その手の話はあの子にはしないであげて」


 アンナの顔は真剣でだった。何かあるのだろうか。貴族に嫌がらせされるなんて物語ではよく聞く話だし、そういう類か。ちらりと見た商品のラインナップ的にも貴族が買いに来るなんて事はありそうだし、何かしらトラブルがあったのだろう。


「何してるの?二人とも」


 ルビーさんの言葉にアンナはなんでもないと誤魔化す。本当にあの話に触れさせたくなさそうだ。


「私はこの子の採寸しておくから、アンナはこの子に着せたい服を持ってきて」

「わかった!!」


 アンナは元気よく返事して服の群れに消えていった。あの様子だとまた暴走して変な事をされそうで不安だ。


「じゃあ、採寸するからそのマント?脱いで」


 言われた通りにマントを脱ぐと、ルビーさんはぎょっと目を剝く。


「なんで裸なの!?下着は!?」

「持ってない。この布だってアンナから借りたやつだし」

「………何?貴女本当に奴隷なわけ?」

「奴隷………ではないと思う。少なくともアンナが主人なわけじゃない」

「………そう、ならいいわ」


 それ以降ルビーさんがボクに話しかける事はなかった。採寸が終わった直後、アンナが数十着の服を持ってきて、ルビーさんに怒られていた。

 ボクは、ルビーさんの発言が気になっていた。彼女の言い方からすると、この世界には奴隷がいる。そして恐らく、というか当然、好まれる浸透の仕方はしていない。

 もしあそこで会っていたのがアンナでなければ。悪徳商人のような質の悪い輩に見つかっていたら。どうなっていたのだろうか。

 怒られてしょぼんとしているアンナに、ボクは苦笑いした。

前回のアンナの大暴れは夕食の際にアンナがお酒を飲んだからです。

彼女はお酒を飲んだらはっちゃけてアクセル踏み抜いてブレーキがぶっ壊れるタイプです。

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