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11話 僕の中身は思春期男子なんですが

「どう?おいしい?シラユキちゃん」

「おいしいよ」


 冒険者ギルドでの説明を受け終え、アンナに宿屋に連れてこられた。アンナはボクの分の宿泊費を払った後、そのまま宿屋の食堂にボクを案内した。

 ちなみにボクにはこの一連の流れの説明は一切なかった。なんだか会った時より強引になってる気がする。

 今ボクはアンナと一緒に夕食を食べている。シルクの森で兎を食べようとした時は、こんなに早く文化的な食事ができるとは思わなかった。

 とはいえやはり、味は物足りない。固くはないパンにあっさりとした葉物野菜のスープ、そしてなんともいえない味の焼き肉。

 日本の食に肥えたボクの舌は満足できない。


「これ、何の肉なの?」

「うーん、擬態蛙(ハイドフロッグ)かな」


 蛙か。元の世界でも食べた事ないし、味が似ているのかはわからない。

 しかし宿屋の食事で当然のように蛙が出てくるのか。やはり、食事の水準はそこまで高くないようだ。

 夕食を食べ終え、ボクとアンナはアンナが今まで泊まっていた1人部屋に入る。そう、1人部屋だった。仕切りはないし、当然ベッドも1つだ。


「あの、アンナ………」

「よし、シラユキちゃん」


 そしてアンナは、とんでもない事を言い出した。


「お風呂、一緒に入ろっか」


◆◇◆◇◆◇


 ここで一応確認しておこう。

 ボクの見た目は今、美少女である。

 だがしかし、中身は思春期真っ只中の男子高校生なのだ。


「ちょっとシラユキちゃん!逃げないでよ!お風呂入らなきゃ!ずっと森にいたんだし!」

「入るよ?入るのはいいけどアンナと一緒はやだ」

「いいじゃん!お姉ちゃんっぽい事させてよ!」

「他でもできるでしょ。風呂は恥ずかしいからやだ!」

「なんで!?最初に会った時にシラユキちゃんの裸は見たから今更だよ!」

「そっちじゃないんだよ………!」


 アンナの一緒にお風呂発言から早30分、ボクは『疾走』と『軽業』をフルに発動してアンナから逃げ続けていた。

 同級生と風呂に入れるか?無理だろ。


「止まりなさい!〝バインド〟!」


 アンナが叫ぶと同時に、ボクの体の自由が利かなくなった。詠唱からして恐らく拘束魔法か。こんな事に使う魔法じゃないだろ。


「ま、待って………ホントに………」

「行くよー」

「待って………」


 結局ボクはそのまま宿屋に併設された公衆浴場にだっこで連行された。抵抗しようと体に力を入れてもほとんど体を動かせない。感覚的には金縛りが近い。

 アンナに強制的にマントを脱がされ、拘束魔法で身動きが取れないボクの横でアンナも服を脱いで裸になる。アンナから目を逸らすも、ここは女湯の脱衣所だ。どこに視線を移しても、視界には肌色が映る。

 何も見ないように目を閉じる。確かに異性の体に興味はある。あるけどこういう風に見るのは何か違う気がする。


「もう、そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」


 そう言って、アンナがボクの手を触る。浴場の中に連れていかれると察して意味もない抵抗を続ける。腕を振り払おうとするも、ボクの体は拘束魔法で制限されていて振り払う事ができない。


「いやだ」

「もう………しょうがないな………」


 すると、腰に何かが触った後、ボクの体が浮いた。不思議に思って目を開けると、すぐ近くにアンナの顔があり、ボクと目線が合う。

 どういう状態なのか、すぐにわかった。

 だっこされてる。お互いに全裸の状態で。


「ちょっ………アンナ!」

「何?だってしょうがないじゃん。シラユキちゃんが全然入ろうとしないから」

「わかった!わかったから………!下ろして………!」

「だーめ、また逃げるでしょ?」

「逃げないから………お願い………」


 ボクがどれだけ頼んでもアンナは聞く耳を持たずに、ボクをだっこしたまま浴場の中へと入る。どんな羞恥プレイだ。周りの女の人からの微笑ましい物を見るような温かい目も耐えられない。

 こうなるのならさっさと腹をくくっていればよかった。


「………」


 真後ろから聞こえる鼻歌や周囲から絶え間なく聞こえる水の音を極力排他し、自分の背中を擦る手ぬぐいの感触だけに集中する。これも同年代の女の子に背中を洗ってもらうという思春期男子には辛すぎる状況には変わりないので考えすぎないようにする。


「にしても綺麗な髪だよね。こんな綺麗な銀髪見たことないよ」


 アンナがボクの髪を触りながら言った。されるがままに髪を自由にさせていると、ふと疑問がわいた。


「そういえば、ジュエルさんがボクの髪と目は吸血鬼の特徴って言ってたけど、吸血鬼って全然気付かれないね」

「あー、そもそも吸血鬼を見た事ない人が多いし、人間の国にいるわけないっていう先入観もあるかもね。それに銀髪も赤い目も、どっちかだけだったら人間にもわりといるしね」


 確かに赤い目の人なら冒険者ギルドで見かけた。黒髪、モノトーンの髪色の人もいた。元の世界に比べてかなりカラフルな髪色が多かったし、銀髪もそこまで珍しくはないのだろう。


「ふーん………ひっ!?」

「あ、動かないで、洗いづらいよ」


 アンナの手がボクの胸を触る。未だに拘束魔法の効果で動けず、ろくな抵抗もできないままお腹や胸を撫でられる。


「前は自分でやる………」

「いいよいいよ、お姉ちゃんがやってあげる」

「恥ずかしいから、自分でやるから………」

「やだ」

「!?」


 やだってなんだよ!!いやなのはこっちなんだけど!?


「肌すべすべで触ってて気持ちいいんだもん。もっと触らせて?」

「だからやだって………っん」


 そんな気持ち悪いおっさんみたいな事を言わないでほしいのだが。

 ボクの訴えはアンナには届かなかった。アンナは無言のままボクの体の至る所を無遠慮に撫でまわしてくる。くすぐったさに声が出そうになるのを必死に耐えながらボクは誓った。

 できる限り早く、この拘束魔法の対抗策を見つけなければ、と。

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