1話 夢か現か、異世界転移
小説家になろう、初小説です!
「………ここ、どこ!?」
目が覚めたら、どこか知らない森の中。ファンタジーゲームが好きな人なら、一度は想像した事がある物語の導入。
ボクは今、その只中にいます。
とにかく周りの状況を知ろうと辺りを見渡す。しかし、見渡す限り見えるのは所々を木漏れ日が照らす神秘的な森の風景。
まるでプロの描いた風景画のようなその光景に思わず見惚れてしまうが、そんな場合ではないと思い直す。
そしてなんとはなしに下を向くと、予想外の光景が目に入る。
視界の上半分に映るのは瑞々しい草花の緑。下半分に映るのはこれまた瑞々しい肌色。そしてちらちらと映る銀髪の細い線。
そう、なんと今のボクは、何も服を着ていないのである。
そしてそれ以上に、ボクの胸は少し膨らんでいて、股間にはアレがない。
一旦状況を整理しましょう。
ボクは真白祐希。どこにでもいるような平凡な男子高校生である。
ここに来る前の記憶といえば、いつものように学校から帰り、いつものようにお気に入りのRPGゲームをして、いつものように風呂に入り、いつものようにベッドで眠った。
うん。いつも通りでしかない。
帰り道にトラックに轢かれたりしたわけでもないし、何かいつもと違う事をした記憶もない。ただいつものように生活していただけである。
であれば。
「………夢か!」
そう結論付けたボクは、立ち上がり改めて辺りを見渡す。さっき見渡した通り、周りは木々に囲まれていて、まるでゲームの世界のような神秘的な森の中だ。
「お?」
立ち上がった事で先程よりも視点が高くなっているため、少し遠くにあった水場が目に入る。どうやら見た目が変わっていそうだし、自分の姿を確認したい。
見つけた水場に歩いて近づく。何も着ていないから勿論裸足だ。足を進めるたび、小石や草が足をくすぐる。
「むぅ、靴が欲しい………」
微妙なくすぐったさに耐えながら水場に到着し、上から水面を鏡に自分の姿を覗く。
「おお………」
端的に表すのなら、可憐である。ぱっちりと大きく開いた赤い瞳に細い眉、鼻と口は小さく、ほとんどの人がかわいいと称する童顔だろう。
髪は銀髪で肩までのストレート、胸はなくはない程度で、全体的にスレンダーな体型。傍目には15よりも幼く見える。
むかつくのは、顔に関しては実際のボクの顔と似たような顔だという事だ。髪を黒に変えて短くすればボクの顔と変わらない。
そんなボクは、女装をすれば口を揃えて似合うと言われ、男子の格好でもたまに女子と間違えられる。
しかし今一度言おう。
ボクは男子高校生である。
だがこうして見てみると、自分がどれだけ女顔で童顔なのかという事実をこれでもかと突きつけられた。
「ハハ………」
少し悲しくなるが、ここは夢の中なのだ。ならば夢でしかできない事を堪能する方がお得だろう。
女体ならではの体験は、夢でもないとできない。現実でもできない事はないだろうが、そんなバカらしい理由で性転換手術を受けるほどバカじゃない。
「……………よし」
謎に意気込んで、自分の胸を触る決意をする。別に夢の中だし自分の体だし何をしてもいいんだろうが、少し躊躇いがある。
これは現実でのそういう女性経験の少なさが原因なんだろうなぁ。
彼女がいた事はある。キスくらいまでならした事もある。しかしそれ以上の性交渉の経験はない。
最初の彼女と別れて以来、彼女は作らなかった。作る気にもならなかったのだ。女々しいとは思う。実って落ちた初恋を未だに引きずっているのだから。
再び感傷で抜けていった決意を無理やり叩き起こし、自分の体に意識を向ける。
初めて意識して触る異性の体が夢の中の自分の体だなんてだいぶ気持ち悪い話だが、そんな事は些細な事である。男子高校生の性欲を舐めるんじゃねえ。
グルルル………
「え?」
自分の胸に触る直前、どこからか唸り声が聞こえた。近所で飼われていた大型犬を思わせる低く不穏な唸り声。
ここは森の中だ。野生動物がいてもなんら不思議じゃない。むしろいない方が不自然だ。でも夢の中ならこのタイミングで邪魔しなくてもいいじゃないか。
周りを見てみても特に変な物はない。少し待ってみても唸り声はもう聞こえてこないし空耳だったのだろうか。
「なんだよ、ビビらせやがって………」
すぐにやられる三下のような発言をして、目線を前に向ける。向けた瞬間、呑気な思考は消えた。
目の前に、体長2mはあろうかという、大きな狼がいる。唸り声は聞こえないが、その目はボクを強く睨みつけている。
紛う事なき捕食者の目。そして被食者はどう考えても自分。食われるかもしれないという恐怖に、じりじりと後ずさる。
数秒の睨み合いの後、何の前触れもなしに、狼が動いた。
「っ」
ボクは咄嗟に後ろを向いて逃げ出そうとしたが、体が自分のものではないような妙な感覚に、足を躓いて転んでしまう。
すぐに立ち上がろうとしたが、そんな隙を逃すはずもなく、狼はボクの足に噛みついた。
「痛っっ………!!」
狼のするどい牙が、ボクの右足に強く刺さる。足に噛みつかれているという恐怖と痛みで、ボクは半狂乱になりながらもう片方の足で狼を蹴る。
「うあぁっ………!」
狼は蹴られた事で動揺したのか、ボクの右足から口を離した。
しかし右足からはダラダラと血が流れているし、痛みも消えない。恐怖で震えて体にはほとんど力が入らない。
「………やめろっ………来るな………!」
しかしそんな言葉が狼に通じるはずもなく、狼は再びボクに飛びついてくる。咄嗟に左腕でガードし、激痛が走る。
「う………ぐ………らぁっ!」
無我夢中で狼の頭を右手で殴る。それが予想以上の威力を発揮し、狼は大きく吹き飛ばされた。
………ボクの左腕と一緒に。
「あ………ああぁぁぁあぁ!?」
左腕は関節から上が無惨に千切れていて、ボタボタと大量の血が流れる。
右足の痛みとは比較にならない、壮絶な激痛が襲ってくる。一切の情け容赦ない激痛に意識を失う最中、ボクは認識を改めた。
夢の中にしては、意識が鮮明すぎる。
夢の中にしては、感覚が鋭敏すぎる。
夢の中にしては、苦痛が激烈すぎる。
ただの悪夢であれば、いいのだけれど。
そんな希望は捨てた方が良い。
ここは夢の中なんかじゃない。
紛れもない現実だ。
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