第6話 夏子さんと商店街を周りました
「はぁ〜、やっぱり目が覚めたら昨日あった出来事全部が夢でしたって訳には行かないよな〜」
襖の僅かな隙間から差し込まれている太陽の眩しい光を全身に浴びながら目を覚ました零夜は、布団からゆっくりと起き上がり周囲を見渡したあと、そんなことを呟きながら大の字で布団の上に倒れ込んだ。
零夜が目を覚ました部屋は、やはり慣れ親しんだ自分の部屋や仲の良い友人の部屋などではなく、昨日蜜柑に案内してもらったミカン荘のとある一室だった。
「う〜ん、まだ学校には行けないだろうし、わざわざ二度寝するのは何か時間が勿体ない気がするし・・・取り敢えず、もしかしたら誰かしらが居るかもしれないし昨日話し合いしたリビングに行ってみるかな」
再び布団の上から起き上がった零夜は、まだ学校に登校出来ないということもあり、時間を持て余していたが流石にこのまま二度寝をするのは時間が勿体ないと考え、昨日住人全員で話し合いをしたリビングに向かうために部屋を出て行ったのだった。
「お・・・おはようございます」
「おはよう、零夜。昨日は眠れた?」
「あっ、おはようございます夏子さん。昨日はぐっすりと眠ることが出来ました」
「そう、それは良かった。零夜の分もあるから冷めないうちに早く食べな」
「はい、ありがとうございます。そう言えば、他の住人の皆さんはどうしたんですか?」
「冬美と林檎は昨日言っていた通り朝早く出て行って、早苗は一度起きてきて朝食を食べてから二度寝をするために部屋に戻って、智子さんは市役所に出掛けて、蜜柑は朝から学校に用事があると言って朝食を作って直ぐに学校に登校したよ」
「なるほど、そうなんですね」
零夜は恐る恐る、挨拶をしながらリビングに入って行くと、リビングには目玉焼きに醤油を掛けてご飯と一緒に食べようとしている夏子の姿があった。
夏子に言われるがまま既に準備してある朝食に手を掛けようとした時、リビングに夏子以外の住人が居ないことに改めて気付き、夏子に"他の住人達はどうしたのか"と聞いた。
それに対して夏子は二度寝を決め込んだ早苗以外の住人はそれぞれ朝早く出掛けて行ったと答えた。
「夏子さん、もう十時になるみたいですけど、夏子さんは仕事に行かなくっても大丈夫ですか?」
「あ〜、それ何だけどね・・・あの後、部屋に戻って明日の予定をもう一回確認してみたら今日は休みだったんだよね」
「そうだったんですね」
「そうなんだよね〜、それでずっと考えてたんだけど零夜が良ければなんだけど、この後一緒に近くの商店街とか回らない?」
「はい、是非お願いします」
「よしっ!それじゃ、ご飯を食べてからそれぞれ支度を済ませて、またリビングに集合ね」
「はい、分かりました」
零夜は夏子の目の前に座り既に用意されている朝食に手を掛けていると、掛け時計の時間が十時に近付いていることを気付き、夏子に対して"仕事に行かなくっても大丈夫なのか"と聞いた。
それに対して、夏子は照れ臭そうに笑いながら"改めて予定を確認したところ、今日は休みだった"と答えると零夜は"そうなんですね"と納得し再び箸を取り朝食を食べ始めた。
再び朝食を食べ始め二人の間に長い沈黙が流れていたが、そんな沈黙を打ち破るかのように夏子が零夜に"一緒に商店街を周らないか"と誘うと、零夜は夏子のそんな誘いに乗り二人は更に食べる速度を早めて行ったのだった。
「夏子さんは、お互いに身支度を整えてから集合ねと言っていたけど、服はこの学生服しか無いし、荷物は一つも持って無いし、このままの状態で行くしかないよな」
朝食を食べ終わり身支度を整えるために、部屋に戻って来た零夜は持っている洋服は今着ている学生服しか無く、荷物も持っていないため、このままの状態で夏子と商店街を周ることを決めてリビングに向かって行った。
「あれっ、零夜着替えてないの?」
「いや、実は持ってる服はこの学生服しか無いんですよ」
「あ〜確かに、零夜はこのミカン荘で倒れてたから服なんか持ってる訳ないよね」
「はい、そうなんですよね・・・」
「まぁ、別に商店街を周るだけだから服装はどうでもいいか、それじゃ、早速行こうか」
「はい、分かりました」
着ていく洋服も無かったため、学生服姿のままリビングに向かって行くと、リビングには既に普段着から外出用の洋服に着替え終わり、軽い化粧などを済ませ終わっている夏子の姿があった。
零夜と夏子はそんな会話を交わしたあと、ミカン荘を出て商店街に向かって行った。
「はい到着、ここが商店街だよ零夜」
「へぇ〜、商店街って意外に賑わってるんですね」
「これでも普段よりは空いてる方だよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「まぁ、今は中途半端な時間だから人が少ないだけでお昼や夕方とかになればもっと人は増えていくと思うけどね」
ミカン荘を出て数十分。
二人は目的地である商店街に到着していた。
零夜は自分自身が想像していたよりも商店街が賑わってるのを見て、率直な感想を口にした。
そして二人はそんな会話を交わしたあと、商店街の中に入って行った。
「おっ、夏子ちゃん今日は休みかい?」
「そう、今日は珍しく平日休みなんだよね」
「それで、隣の坊主は夏子ちゃんの新しい彼氏かい?」
「何言ってんの裕次郎さん、零夜はまだ蜜柑と同い歳なんだから手を出したら仕事を首になっちゃうよ、零夜は彼氏とかじゃなくって昨日からミカン荘に住むことになった住人だよ」
「おー、そうなのか。俺は見ての通り、ここで肉屋をやってる源田裕次郎って者だ。これから、よろしくな坊主」
「はい、よろしくお願いします裕次郎さん」
「この年齢じゃ珍しくしっかりと挨拶が出来るいい子じゃないか、ほれ坊主サービスのコロッケだ」
「あっ、ありがとうございます」
「え〜、私にはないの裕次郎さん?」
「もちろん、夏子ちゃんの分もあるよ」
「やった〜、ありがとう裕次郎さん」
商店街に入ってしばらく歩き続けていると、肉屋の店主である六十代ぐらいの男が夏子に声を掛けた。
夏子と肉屋の店主は親しそうにそんな会話を交わしたあと、肉屋の店主は夏子の後ろに居る零夜に挨拶をし、しっかりと零夜も挨拶を交わすと、それを気に入った肉屋の店主は揚げたてのコロッケを零夜と夏子に手渡したのだった。
そして、二人は肉屋の店主から貰ったコロッケを食べながら肉屋の店主に別れを告げ、歩いて行った。
「この、コロッケ凄い美味しいですね!!」
「裕次郎さんがやってる肉屋のコロッケは凄い美味しいんだよね、因みにこのコロッケは冷めてても美味しんだよ」
「へぇ〜、そうなんですね。それじゃ、他におすすめの商品とかはあるんですか?」
「う〜ん、裕次郎さんのお店にある商品は全部美味しいから選ぶのは難しいけど、強いて言うならメンチカツかな」
「メンチカツですね、今度買ってみます」
「あら、夏子ちゃんじゃない」
二人は肉屋の店主である裕次郎からサービスで貰ったコロッケを食べながら、コロッケの味に関する会話を交わし商店街を歩き続けていると、今度は八百屋の店主らしき六十代ぐらいの女性か夏子に声を掛けた。
「あっ、加奈子さん」
「今日はお仕事はお休みなの?」
「はい、今日は珍しく平日休みなんです」
「そうなのね、それで夏子ちゃんの後ろに居る子は新しいミカン荘の住人さん?」
「あっ・・・はい、昨日からミカン荘の住人になった黒崎零夜です、よろしくお願いします」
「あら、しっかりと挨拶が出来るいい子じゃない。ほら、二人ともサービスの林檎だよ」
「あ・・・ありがとうございます」
「加奈子さん、ありがとう〜」
夏子に声を掛けた八百屋の店主である加奈子は裕次郎と同じように夏子とそんな会話を交わしたあと、後ろに居る零夜の存在に気が付くと、今度は零夜自身が加奈子に対して自己紹介をした。
すると、裕次郎と同じくしっかりと挨拶を出来た零夜を気に入った加奈子は商品棚から林檎を二つ取ると、零夜と加奈子に手渡しのだった。
「商店街の皆さんは本当に優しい方々ばかりですね」
「でしょ、あそこの商店街は他の商店街のように味や品質を売りにせずに人柄を売りにしてやっているところだからね」
「そうなんですね、でも野菜や魚はまだ住人の皆で食べることが出来ますけど、本や洋服なんかは本当に俺が貰ったりして大丈夫なんですかね?」
「洋服に関してはその学生服しかないし、本は暇潰しにちょうどいいし良いんじゃない?」
「確かにそうですね、せっかく貰ったものなので大事に使って行きたいと思います」
「うんうん、それがいいと思う。それじゃ、手荷物も沢山できたことだし一度ミカン荘に戻ろうか」
「はい、分かりました」
商店街に入ってから三十分が経つと、二人の手には裕次郎や加奈子から貰ったコロッケや林檎の他に様々な魚や野菜、本や洋服などを両手一杯に溢れかえっていた。
二人はお互いにそんな会話を交わしながら、一度両手一杯に溢れかえっている貰い物をミカン荘に置きに行くため、商店街を出てミカン荘に向かって行った。