第4話 話し合いに参加しました
「ただいま〜!!・・・・・・って、智子さんがわざわざお出迎えをしてくれるって珍しいですね。何時もこの時間帯だと部屋に籠っているはずなのに一体どうしたんですか?」
「お帰りなさい夏子さん、今日は残業が無いって言っていた割には随分遅いお帰りですね」
「は・・・はははっ・・・一応、仕事自体は定時の十七時には終わったんですけど、同僚から飲みに誘われちゃったんですよね・・・」
「なるほど、同僚の方々から誘われたのならしょうが無いですね」
「い・・・いや、何かすいませんでした」
壁に掛けられている掛け時計の針がちょうど二十二時を指したころ、ミカン荘の住人であり蜜柑とともにミカン荘の前に倒れていた零夜をミカン荘に運び入れた赤川夏子がお酒の匂いをさせながら何処か気持ちよさそうに帰って来た。
お酒の匂いをさせながらご機嫌に玄関を開けた夏子を出迎えたのはいつも他の住人達を出迎えていた蜜柑では無く、この時間帯はいつも自分の部屋に篭もり趣味である読書や書きごとに取り組んでいた智子だった。
「別に夏子さんは悪いわけじゃ無いのですから、そんなに謝る必要はありませんよ、それよりも早く玄関に上がってください。他の皆さんがリビングで待っていますよ」
「皆かリビングて待ってるって、何でですか・・・?」
「実は夏子を含めた住人の皆さんに私から大事なお話がありまして、皆さんが帰宅次第リビングに集まって貰っていたんですよ」
「な・・・なるほど、そうなんですね」
「それでは、皆さんもいい加減待ちくたびれているでしょうから、リビングに行きましょうか」
「はい、分かりました」
お酒の匂いをさせながらも気持ち良さそうに帰って来た夏子は、電話などで"遅くなる"ということを報告することなく帰宅してしまったことを目の前に居る智子に謝罪をしたが、当の本人である智子はそんなことを気にする様子を見せず、ただ"リビングで他の住人達が待っている"ことを伝えた。
夏子は智子から他の住人達がリビングで待っていることを伝えられると智子に対して"何故、他の住人達はリビングに居るのか"と聞くと、智子はまだ零夜のことを伏せながらも"住人達に大事な話があるから"と答えた。
そして、夏子は智子に連れられながらこれからの話の中心になる零夜や他の住人達が集まっているリビングに向かって行った。
「あ〜!!夏子さんやっと帰って来た!!わたしたち、帰って来てからずっとここで待たされてたんですよ!!」
「貴方のことだから、どうせ定時で仕事をあがっても"誘われたから"って言って、飲み歩いていたんでしょ」
「まぁまぁ、今まで夏子さんが仕事が終わって真っ直ぐここに帰ってくること自体が珍しいことなんですから、あまり怒らないようにしましょう」
「は・・・はははっ、本当にごめんなさい」
夏子は智子に連れられながら唯一明かりが灯っているリビングの中に入って行くと、リビングには夏子以外の住人全員が集まっており、その中にはこれから話の中心となる零夜も気配を消しながら蜜柑の隣に座っていた。
住人達は智子の手によりリビングに連れて来られた夏子を見ると、まず蜜柑の妹であり今年中学三年生に進級したばかりの梅崎林檎が椅子から立ち上がり、夏子のことを指差しながらそんな大声を上げた。
林檎がそんな大声を上げると、それに続くように県外の会社でOLとして働いている七原冬美が呆れながらそんな声を上げ、県内の女子大学に通っている石井早苗が夏子をフォローする言葉を口にした。
そして、当の本人である夏子は笑いながら謝ることしか出来なかった。
「お二人とも、夏子さん一人を責めるのはやめましょう。この話し合いは皆さんがミカン荘を出て行った後に私の独断で決めたことなので、皆さんは勿論のこと夏子さんもこの話し合いのことは知らなかったのですから」
「確かにその通りね、それでその大事な話って何かしら智子さん?私、明日は大事な会議が控えているから早く部屋に戻って明日使う書類の整理とかをしたいのだけど」
「わたしも明日の朝練が早いから、早く部屋に戻って寝たいんだけど〜」
「あっ、私は大学の講義は午後からなので遅くなっても問題は無いです」
「分かりました、最初は皆さんが混乱しないように短い世間話から始めようと思っていましたが、皆さんがそう言うのなら早速話しの本題に入りましょう」
冬美は足を組みかえ妖艶な雰囲気を醸し出しながら、智子に対して"明日は大事な会議があるから、部屋に戻って書類の整理をしたい"と言うと、それに便乗して林檎も"明日の朝練は早いから早く寝たい"と言い出したのだった。
冬美と林檎がそんなことを言っている中、早苗だけは"大学の講義は午後からだから"と言う理由で一人だけ話し合いに参加する姿勢を取っていた。
冬美と林檎のそんな訴えを聞いた智子は、最初に場を和ませるために話す予定だった世間話を辞めて、早速話し合いの本題に入ることにした。
「どうせ、智子さんが私達に話したいことって、私達がリビングに来る前から蜜柑の隣に一言も喋らず座ってるその子のことでしょ?」
「えっ、まさかお姉ちゃんに初めての彼氏が出来たからその彼氏をわたし達に紹介するためにこの話し合いをしようと思った訳じゃないよねおばあちゃん!?」
「く・・・黒崎君とはそんな関係じゃ無いわよ!!急に何を言い出してるのよ林檎!!」
「おっ、遂に蜜柑にも彼氏が出来たのか!!・・・・・・ってか、君は今朝の子じゃん!!」
「えっ、なになに!?夏子さんその人と知り合いなんですか!?」
「う〜ん、知り合いってわけじゃ無いけどミカン荘の前で倒れていたその子を私と蜜柑で運び入れたんだよね。それにしても、あの彼氏どころか恋愛自体に興味が無かった蜜柑をたった一日で落とすなんって、顔に似合わずプレイボーイね君も」
「だ〜か〜ら、夏子さんも違うって言ってるんじゃないですか!!私と黒崎君はまだそこまでの関係じゃありません!!」
「ふ〜ん、それは本当かな〜」
「本当です!!それよりも早く話を本題に戻しますよ!!」
智子が話の本題に入る前に、冬美が足を組んだままの状態で、蜜柑の隣に座り今まで一言も言葉を発していない零夜のことを指差しながらそう言った。
すると林檎が椅子から立ち上がると、突然そんなことを言い出すと、それに夏子が悪ノリをしながら乗っかって来ると、蜜柑は顔を赤くしながら椅子から立ち上がり、大声で零夜との関係を否定したのだった。
「蜜柑の言う通り、一度話を戻しますよ。冬美さんの言う通りこの話し合いを突然決めた理由は蜜柑の隣に座っている黒崎零夜君について皆さんに話したいことがあるからです」
「やっぱりね、それで智子さんその子をミカン荘に住まわせるつもりじゃ無いですよね?」
「えっ、何それ本当なのおばあちゃん!!」
「やはり、冬美さんが居ると話が早いですね。冬美さんの言う通り黒崎君をこのミカン荘に住まわせるか・住まわせないかを多数決で決めるためにこの話し合いをすることにしたのです」
「えっ、多数決?話し合いじゃ無いんだ」
「話し合いだと時間が掛かると思いまして今回は多数決にして見ました。それでは、早速ですが黒崎君をミカン荘に住まわせることに賛成の方は挙手を・・・はい、ありがとうございます。では、反対の方は挙手をお願いします・・・はい、ありがとうございます」
夏子の悪ノリのせいで、話し合いの内容が変な方向に逸れそうになっていたが、智子のそんな一言のお陰で話し合いの内容は元に戻ったのだった。
冬美のそんな核心の着いた質問に林檎が大きな声を上げながら驚いている中、智子は零夜をこのミカン荘に住まわせるか・住まわせないかを多数決で決めると言ったのだった。
そして智子は零夜をこのミカン荘に住まわせるか・住まわせないかの多数決を取り始めた。
「賛成は蜜柑、夏子さん、早苗さんの三人で反対は冬美さんと林檎の二人ということですね。結果は賛成三人、反対二人ということで黒崎君をこのミカン荘に住まわせることは決定ということでよろしいですね」
「多数決で決まったことですからこれ以上反対はしませんよ。ただし、私の部屋には絶対に入らないようにしてくださいね」
「男と同じ屋根の下に住むのは嫌だけど、わたしの部屋に入らないようにするのなら別にいいよ」
「私は男の子と一緒に住むのは別に嫌じゃ無いので別に大丈夫ですよ」
「あたしも、この子は面白そうだから一緒に住むことは賛成だよ!」
「勿論、私も賛成です」
「えーと、とゆう事は俺はここに住んでも大丈夫ってことですか?」
「はい、多数決の結果賛成派の方が多かったのでこのミカン荘に住んでも問題は無いですよ」
「本当に良かったわね黒崎君」
「あ・・・ああ」
多数決は賛成派は蜜柑・夏子・早苗の三人、反対派は冬美・林檎の二人となり、結果は賛成三人・反対二人と言うことで零夜がこのミカン荘に住むことは決定した。
反対派の二人は零夜が一緒に住むことに対して嫌悪感を表しながらも、それぞれ零夜を自分達の部屋に入れさせないことを条件に零夜が一緒に住むことを渋々了承し、賛成派の三人は零夜が一緒に住むことに対して嬉しそうな言動を取っていた。
そして当の本人である零夜は意外にも簡単にミカン荘に住むことが決定し唖然としていたのだった。