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これまでも、これからも、ずっとそばに……⑧

 ジャックさんは、胸にささったトゲを抜いた。

 血は出てないけど、モワモワがジャックさんの体にまとわりつく。ジャックさんは苦しそうに息をしていた。

 ただただ、僕はそれを見てるしかない。


 ジャックさんが杖をふる。苦しそうな声が聞こえる。

 胸をさされたんだ。本当なら死んでるくらいの大ケガのはず。それなのにジャックさんは、力をふりしぼって杖をふりあげた。


「だ、だめだよ!」


 僕は思わずさけんだ。

 ジャックさんは、魔女さんを助けようとしてる。でも、魔法は生命力と想像力から生まれるものだから、今のジャックさんが魔法を使ったら、絶対に死んじゃう。

 だけど、僕は何もできない。だって、見ている”これ”は昔の出来事で、魔女さんの悪夢だから。


(けが)れよ、依代(よりしろ)より()(たま)え」


 ジャックさんが杖をふる。杖から出てきた光の筋は、魔女さんの中に入ったモワモワを引っ張り出して、グルグルとしばった。魔女さんはパッタリとたおれてしまった。

 

 しばられた竜のモワモワは、完全に魔女さんから引っ張り出されて苦しそうにうめく。

 ジャックさんはフッとほほえんで、もう一度杖をふった。光が強くなる。


「命は世界に(かえ)るべきだ。

 僕は、愛娘をいじめた君を許さない。だから、これでおしまい。あきらめなさい」


 光の筋が、竜のモワモワをギュッと締め上げる。そして、風船が割れるみたいに、竜はパチンとはじけて、流れ星になって夜空に消えていった。

 ジャックさんは、胸のキズをおさえて、花畑の中にドシャッと倒れた。


「ジャックさん!」 


「先生!」


 僕と魔女さんは、同時にジャックさんに近寄って、ジャックさんの顔を見る。

 ジャックさんは、ぼんやりとした顔で魔女さんを見つめた。


「先生、やだ……先生、だめよ、だめ……」


 魔女さんは杖無しで魔法を使って、ジャックさんに生命力を分けてあげてるけど、ジャックさんに刺さったトゲのモワモワが、そのジャマをしてる。

 僕も杖をふってキズを治す魔法をかけたけど、昔の人にきくはずがなかった。


「シュヴァルツ」


 ジャックさんは、魔女さんを見つめる。

 魔女さんは、ジャックさんがいなくなるのが、きっと怖いんだと思う。顔をぐしゃぐしゃにして泣いてた。

 でも、ジャックさんは笑ってこう言うんだ。


「僕の愛の宝石をかくしてきた。それを探してごらん」


「先生、何言ってるの……?」


「いいね。きっと見つけておくれ」


 ジャックさんの目から光が消えて、静かにまぶたを閉じた。息も止まってしまって……すっかり、死んでしまった。


 ✩.*˚


 真っ白な部屋の中で、僕は、子供の魔女さんと向かい合ってた。

 魔女さんは顔をうつむかせて、しゃくりあげながら泣いていた。

 やっぱり魔女さんは、僕とおんなじ。大切な人が死んじゃって、どうにか生き返らせたかったんだ。


「出ていきなさい」


 魔女さんが言う。


「もう十分だろう。私の夢から出ていきなさい」


 十分じゃない。僕の目的は、魔女さんのヒミツをさぐることじゃなくて、魔女さんを助けることなんだ。


「助けなんかいらない。出ていって」


 魔女さんには考えが読まれてしまうから、僕が何か言うより前に、魔女さんにことわられてしまう。

 でも僕は、泣いてる魔女さんを見たくない。いつも通り、僕をからかって、変な笑い方をする魔女さんがいい。


「だから、出ていかない。僕は、魔女さんのこと、あきらめたくない」


 魔女さんは僕を見つめる。その目はなんだか、雨に濡れた子犬みたいに、気弱で自信がなさそうな感じだった。


「杖を手離したくないというワガママで、先生を殺してしまった。それを先生に謝れないまま。愛の宝石を見つけられてさえいない。私は、弟子失格だ」


 魔女さんは自分のことをそう言うけど、僕は首をふる。そうじゃないって思った。


「それは、だれかがそう言ったの?」


「…………」


 魔女さんが弟子失格なら、ジャックさんは愛の宝石を出せなかったと思うんだ。だって魔女さん、言ってたじゃん。意思の宝石は、強い感情を持った時にあふれたカケラだって。


「ジャックさんの愛は、宝石になるくらいに強かったんでしょ。ジャックさんが愛していたのは、魔女さんだよ」


「それは……」


「たとえ弟子失格だったとしてもだよ。魔女さんは、ジャックさんの子供だった。そうでしょ?」


「……それは……」


 魔女さんは、自信なさそうに目を泳がせてる。

 大丈夫だよ、魔女さん。僕にはわかる。だって僕は見てるんだ。ジャックさんが、愛の宝石をかくしてたところ。


「今からでも、探してみようよ」


「愛の、宝石を?」


「そう。魔女さんの魔法で探し当てるんだよ。もしかしたら、近くにあるかもしれないよ」


 僕は、愛の宝石のありかを知ってる。でも、ただ教えるだけじゃ意味がないから。魔女さん自身で見つけなきゃダメだって思うんだ。


 魔女さんは少し考えて、大きく深呼吸した。そして両目を閉じて、集中する。


「先生、どこにいますか?

 私、先生に謝りたい。だから、近くにいるなら教えてください」


 魔女さんの足元から優しい風が吹いて、黒いワンピースをなびかせる。キラキラした虹色の光が、魔女さんの周りをうず巻いて飛んでいく。

 虹色の光は風に乗って、どこかに向かって飛んでいく。僕と魔女さんは、その光を目で追いかけた。

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