魔法のお店がやってきた!⑥
「さて、君の世界に帰るためのドアはこわれてしまった」
どうしよう。僕、今日の宿題やってないし、夜中になったらさすがにお父さんも心配する。
でも、でもさ、僕は魔法を一つ使えたわけじゃん。じゃあ、努力と素質と杖があれば、帰るための魔法を使えるようになるんじゃないかな。
僕の考えに答えるように、魔女さんは人差し指を立ててこう言った。
「帰る方法はあるよ。ただし、カンタンじゃない」
魔女さんはもう片方の手を開いて、そこにカギをうかせた。銀色に光るカギに、虹色の宝石が取り付けられてる。カギ穴に入れる先っぽは、ハートの形みたいにぐにゃりとしてた。
このカギが、帰るために必要なの? でも、なんだかすき通ってて、本物には見えないような……
「これはあくまでイメージだよ。魔法で映像を見せているだけ。
これは『世界のカギ』といって、こわれた世界の"ことわり"を直すためのカギなんだ。これは特殊な魔法具でね。カンタンには作れない」
魔女さんはカギのイメージを消して、ポケットから青い宝石を取り出した。
写真で見るよりすき通ってる。と、同時に、なんだか鼓動みたいなのを感じる。表面が波みたいに、細かくゆれていた。それのせいか光は色んな方向にはね返ってて、普通の宝石よりもピカピカして、すごくきれいだ。
「魔女さん、これなに?」
僕がきくと、魔女さんは教えてくれた。
「これは、『意思の宝石』。ヒトが強い感情を持った時に、たましいから感情があふれて、カケラが転がり出てくるんだ。この宝石が、世界のカギの材料だ」
人の感情が宝石になるだって? そんなの見たことも聞いたこともない。なんだか、ファンタジーの連続にクラクラしてしまって、目の前がフワフワしてきた。
「いいかい。よくきくんだ。
世界のカギを作るには、"君自身"が意思の宝石を集めなきゃいけない。そして、集めるにはかなり時間がかかるんだ」
時間がかかるって……
「どのくらい?」
「私のお師匠様が作った時には、たしか一年かかってたよ」
「い……!」
一年だって?
「そのくらい時間がかかるものなんだ。そして、作るには魔法の力が必要」
魔女さんは僕をじっくり見る。また「値踏み」だ。魔女さんの赤い目が僕の青い目を見つめてきて、僕はドギマギしてしまう。
魔女さんは「よしっ」と、覚悟をするかのような声を出した。
「世界のカギを作り終えるまで、君を私の弟子にしよう」
僕はあんぐりと口をあけた。
今、魔女さんは、僕を弟子にするって言った。
「魔法を教えてくれるの?」
「そうしないと、君は帰れないだろう?」
魔女さんはあきれて言う。でも僕は、本物の魔女から魔法を教えてもらえることが、すごくうれしかった。ガッツポーズをしてその場で回って、声をあげてよろこんだ。
魔女さんから魔法を教えてもらえば、お母さんに会うための魔法も使えるようになるかもしれない。異世界転移をしちゃうっていうハプニングはあったけど、結果オーライだ!
「ああ、でも、君は私の弟子だから。言葉づかいは直してもらうよ」
魔女さんは僕に近付いて、僕の口を指さした。
「まず、私には敬語を使うこと」
魔女さんの指から、星形の光が散る。
「魔導書にはむずかしい言葉もある。辞書を渡すから、覚えるように」
僕の目の前に、分厚い辞書が現れた。広辞苑っていう辞書と、同じくらいの厚さ。僕は重いそれを両手で受け取った。
「わからないことがあったら、すぐたずねること。わからないままにしないこと。ただし、敬語でね。わかったかい?」
僕は笑って返事した。
「うん、わかった! じゃなくて、わかりました!」
そんなにむずかしいことじゃない。なれるまでには時間がかかるかもしれないけど、弟子になるってことは、先生を尊敬して、先生に従うってことだ。多分。
これから、今この瞬間から僕は、星降堂の魔女の弟子だ。魔法の勉強、がんばるぞ! 僕はもう一度ガッツポースをして、ニンマリと笑ったのだった。
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『魔法のお店がやってきた!』