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最期に一目会えたなら①

 城下町を出て、広い原っぱを抜けて、僕はエルフの森にやってきた。

 

 広いと聞いてた原っぱは確かに広くて、ちっちゃいころに遊びに行った森林公園と同じくらいの広さだった。だけど原っぱには遊具が全然なくて、ほんとにただ広くて草が生えてるだけ。

 途中、ウサギやリスが原っぱを走ってたけど、大きい動物に会うことはなかったから、やっぱり地図の魔法が効いてるんだと思う。


 そして、エルフの森に入ったんだけど、僕はびっくりした。

 原っぱは太陽の光が照っていてすごく明るかったのに、森に入ったら、とたんにうす暗くなったんだ。なんだかちょっぴり怖い雰囲気で、僕はドキドキした。


「おじゃましまーす」


 誰かの家っていうわけではないけど、僕はそうつぶやいた。そしたら、葉っぱがザワザワ音を立てた。


「ひゃいっ!」


 あんまりびっくりして、変な声が出ちゃった。はずかしくなって、両手で口をふさぐ。そして、キョロキョロ周りを見回した。だれかに聞かれてたら、からかわれちゃう。

 でも、だれもいない。いるのはカラフルな小鳥だけ。そりゃそうだよね。ここは森なんだから。

 なんだかおかしくなっちゃって、僕は声に出して笑った。そしたら怖いのなんてどっかに行っちゃって、僕は鼻歌を歌いながら歩き始めた。


「あ、る、こー。あ、る、こー。

 ぼくらはー、げーんきー」


 だいぶ前、みんなでキャンプに行った時にお父さんから聞いたんだ。クマって実は怖がりだから、音を鳴らしながら歩いたらクマに会わずにすむんだって。音が出るものを持ってなかったら、歌やおしゃべりの声でもいいらしい。

 だから僕は歌いながら歩いてたんだけど、ちょっとおかしいことに気付いた。


「ん?」


 ガサガサ、ガサガサ。

 

 少し歩いて、後ろをふり返る。

 だれもいない。


 この感覚、前にもあったような。


「あるー日、森の中

 クマさんに出会った」


 ガサガサ、ガサガサ。


 もう一度ふり返る。

 だれもいない。


 ……たしか、ロイド君と一緒に夜の町を歩いた時、おんなじ気分になった。だれかに追いかけられてる感覚だ。

 その時とちがうのは、足音はペタペタじゃなくてガサガサだということ。まるで、葉っぱをかき分けてるみたいな。


「魔女さんですか?」


 僕は聞いた。返事はない。

 魔女さんなら、たずねたらちゃんと答えてくれる。ってことは、魔女さんじゃない。

 地図の魔法と歌のおかげで、クマが出てくることは多分ないはず。

 だとしたら、このガサガサはだれ?


「人間だ」


「人間がいる」


 木の上から、こそこそと声が聞こえる。

 僕のこと、わざわざ人間って呼ぶってことは、もしかして人間じゃないのかも。ここはエルフの森だから、もしかして……


「エルフさん?」


 そうたずねてみたら、木の上からシュタッてだれかがおりてきた。

 おりてきたのは二人。片方は女の人、片方は男の人。どっちも耳がとんがってて長かった。

 長いとんがり耳はエルフのチャームポイントだって魔女さんから聞いたから、まちがいない。


「俺はエルフのジャスパー」


「私はエルフのルナよ。

 人間がエルフの森に、なんの用かしら?」


 ジャスパーさんとルナさんは、つっけんどんな感じでそう言った。僕を”けいかい”してるんだと思う。

 僕はちょっとムッとした。けど、僕がなにか言い返して二人を怒らせちゃったら、多分森から追い出されちゃう。

 僕は、お客様に見せるような営業スマイルってやつで、ルナさんにこう言った。


「グリムニルさんのお母さんに、プレゼントを届けに来たんだよ」


 地図とアルバムを見せると、エルフの二人は目をまん丸にした。


「ヨルズにプレゼントだって」


「ニールのやつ、森には帰らないくせに、プレゼントはマメに送ってくるよな」


 ヨルズ? それがグリムニルさんのお母さんの名前?


「なら早く届けてあげなさい。案内してあげるわ」


 ルナさんとジャスパーさんは、僕を手まねきして森を進む。僕は、かけ足で二人を追いかけた。


 森の中は、道らしい道なんて全くない。動物が通った後にできる、草木のトンネル――けもの道って言うんだって――をズンズン進む。

 時々、石ころにつまづいて転んでしまうけど、エルフの二人は全然待ってくれなかった。

 なんだか二人とも、すごくあわててるみたい。なんでだろう?


 僕が疲れて泥だらけになったころに、けもの道は終わって村が見えてきた。

 

 まるで、森と一体になったみたいな村。

 建てられている家はどれも木でできていて、どの家にも大きな木がよりそってる。

 家の外には、シカやリスが歩き回っていたけど、リードも首輪もつけてないから、多分ペットじゃないんだろうと思う。

 村にはエルフがたくさんいたんだけど、エルフのみんなは、当たり前に杖無しで魔法を使っていた。


「エルフはみんな魔法が使えるの?」


 僕がジャスパーさんにたずねたら、ジャスパーさんは笑って答えた。


「ああ。エルフは魔法を使う。先々代を生きた先祖のたましいに呼びかけて、森にやどる生命力を分けてもらうんだ」


 せ、せん……せん……?

 な、なんかよくわかんないけど、ご先祖さまから生命力を分けてもらってるってことかな?

 あれ? ご先祖さまって死んでるんだよね?

 死んだ人から生命力を分けてもらうって、どういうこと?


「ヨルズの家は、あのオークの家に住んでるわ」


 ルナさんが指さした先を見る。けど、オークが何なのかわからない僕は、どこをさしているのかわからなくて首をかしげた。


「あ、そっか。人間には森の木々のことはわからないか。

 あの大きな木のそばにある、黒い屋根の家よ」


 その説明で、やっとわかった。

 村の奥は高台みたいな感じになってて、そこに大きな家がいくつか並んでた。だいたいの家は赤や茶色の屋根をしていたけど、一つだけ黒い屋根の家がある。

 その屋根を突き破るみたいに、太い木が生えていた。


「すごいね……」


 僕はつぶやく。

 ルナさんは僕の背中を押して言う。


「早く行ってあげて。ヨルズにはもう、時間がないから」


 その言い方が、なんだか変な感じがして、僕はルナさんを見上げた。けど、ルナさんもジャスパーさんも、「何も言わないで」と言うみたいに首をふる。

 僕は仕方なしに、黙って黒い屋根の家に向かった。

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