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誕生日の最高なプレゼント⑧

 全部で十ページのアルバムは、写真の分だけ分厚くなった。一ページ三枚ずつ。全部で三十枚の写真。その写真一枚ずつに、グリムニルさんと王様、王子様からコメントが書かれていた。

 グリムニルさんは楽しそうにアルバムを作っていたし、僕も楽しかった。


 二日かけて作ったアルバムは、僕がグリムニルさんのお母さんへ配達することになってる。


「じゃあ、たのんだよ」


 星降堂(ほしふりどう)に来たグリムニルさんは、僕にアルバムと地図を差し出した。僕はそれを受け取ってうなずく。


「シュヴァルツ、今回の代金を……」


 グリムニルさんは、魔女さんを名前で呼んで小さい巾着袋を渡した。魔女さんはちらりと僕を見る。


「いや、空がもう報酬(ほうしゅう)をもらっているはずだ。そうだね?」


 魔女さんに言われて、僕はまたもうなずいた。


「はい。もらってます。前払いで」


「……はは。意思の宝石かい?」


 グリムニルさんは照れ臭そうに笑った。


「私から、何の宝石が転がり出たんだい?」


 グリムニルさんは、意思の宝石が転がり出てきたことに気づいてなかったみたい。だから僕は、グリムニルさんに教えてあげた。


「優しさです」


「優しさ?」


 グリムニルさんは驚いて、やっぱりはずかしそうに笑ってる。グリムニルさんが確認するように魔女さんを見ると、魔女さんもうなずいてこう言った。


「君は優しいよ。自分では気づいていないかもだけど」


「何を言うんだ。母を放ったらかしにしてるというのに」


「丸っきり放ったらかしじゃないだろう。お母様に毎年プレゼントを用意して、頻繁(ひんぱん)に手紙を送ってる。三百年間、毎年ね。そんなこと、並のエルフでもめんどくさがってやろうとしないのに」


「……だって、帰れないからね」


 グリムニルさんは少しだけさびしそうな表情を浮かべた。

 帰れない……それは、仕事が忙しいから……?


「とにかく、勝手に転がり出た意思の宝石じゃ、私は代金として納得できないから。これは渡しておくよ」


「そう? じゃあ遠慮(えんりょ)なく……」


 そんなやり取りがあって、魔女さんはグリムニルさんから巾着袋を受け取った。魔女さんが中のものを取り出すと、それは親指くらいの大きさの、金のかたまりだった。

 

「エルフの村は、森の中にある。その地図には猛獣(もうじゅう)()けの魔法をかけたからきっと大丈夫だろうけど、くれぐれも気をつけて」


 グリムニルさんから受け取った地図を見る。

 確かに、地図はうっすら光っていた。魔法使いじゃないと見逃しちゃうくらいのうっすらした光だ。でも、強い魔法がかかってることは、はっきりとわかった。


「じゃあ、私は仕事に戻るよ。またね」


 グリムニルさんは星降堂(ほしふりどう)を出ていく。僕と魔女さんは、手を振ってグリムニルさんを見送った。


「……さて」


 しばらくして、魔女さんが僕に声をかける。


「まさか五十枚もとるとはね」


 ギクリ。僕は肩をびくっとさせた。


「おかげで、また五十年魔力のチャージをしなきゃならなくなったんだけど」


 魔女さんは僕をからかうようにそう言った。

 そう言われたってさ、仕方ないじゃん。


「写真一枚に一年の魔力チャージが必要なんて、聞いてなかったです」


 そう。

 魔女さんが、”せつな”を切り取るオブスクラを使わせたくなかった理由はこれ。動く写真を一枚とるために、一年間魔女さんの魔力をチャージする必要があったんだ。

 オブスクラは、魔女さんが見習いのころに作った失敗作って、魔女さんは言ってた。お客様に売れるものじゃないから、棚の奥にしまいこんでたんだって。


「……まあいいさ。ニールがあんなによろこんでたんだ。今回はよしとしようじゃないか」


 僕はホッとしてため息をつく。あんまりネチネチ言われたら、僕落ち込んでたかもしれない。


「で、どうする? すぐに行くかい?」


 魔女さんに聞かれた。


 僕は窓の外を見る。

 夜が明けて、空は青くなっていた。いつもならお店を閉めて寝る準備をするところだけど、僕はちっとも眠くなかったから、魔女さんにこう言った。


「はい、すぐ行きます」


 ショルダーバッグには、星くずのランタンと魔法のマッチ。それから、お弁当のサンドイッチと、あずかったアルバム。ベルトには杖をねじ込んで、片手には森の地図を持った。


 星降堂(ほしふりどう)のドアを開ける。

 町を出て原っぱを突き抜けたら、エルフの森が見えてくるらしい。

 僕はワクワクが止まらなかった。


「行ってきます!」


「気をつけるんだよ」


 僕は、魔女さんに手を振った。


 ☆*。

『誕生日の最高なプレゼント』

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