表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/66

誕生日の最高なプレゼント⑦

 僕は、夜が明ける前に星降堂(ほしふりどう)に走って戻った。


「アルバムを作りたい?」


 魔女さんは、僕の言葉に困り顔を浮かべた。

 僕は、日本からカメラもスマホも持ってきてなかったから、写真をとる道具を持ってない。だけど、星降堂(ほしふりどう)にならあると思ってたし、なくったって作ってしまえばいいと思ってた。

 でも、魔女さんが困ってるってことは、カメラはないのかな……


「いや、カメラはあるけどね……」


 魔女さんは、高い棚の上から木箱を取り出す。すっかりホコリをかぶって真っ白になってるフタを開けると、中にはカメラが入ってた。

 両手で抱えないと持てないくらいに大きくて、レンズは飛び出てすごく長い。その全部が灰色の半とうめいで、ガラスか水晶でできてるみたいな見た目だった。


「『”せつな”を切り取るオブスクラ』。とった写真はすぐ手元に現れるし、映し出されたものは映像のように動き出す」


 わあ、すごい! これでグリムニルさんをとったら、動いてる姿をお母さんに見てもらえるんだね!


「ただ、これは失敗作だから。あんまり使わせるのは……」


 魔女さんは首をかしげて半笑い。

 僕はそれがフシギで首をかしげた。


「写真、とれないんですか?」


「いや、機能的には問題ない。ちゃんと写真はとれる。

 うん、仕方ないね。今回だけ、空に貸そう」


 やったぁ! これがあれば、アルバムが作れるんだ!

 僕は魔女さんからカメラ……『”せつな”を切り取るオブスクラ』を受け取った。一瞬ずしんと重さを感じたけど、オブスクラはすぐに羽根みたいに軽くなった。もしかしたら、僕に重さを合わせてくれたのかも。


「じゃあ、行ってきます!」


 僕はオブスクラを抱えて、お城への道を走った。


 ✩.*˚


 玉座(ぎょくざ)の間で、グリムニルさんと王様が並んでる。王様はとてもいい笑顔をしてたけど、グリムニルさんはキンチョーした引きつり笑顔。二人の後ろには、メイドさんと執事(しつじ)さんと庭師さんと……とにかくたくさんの人が並んだ。


「はい、チーズ!」


「チーズ? それはなんのかけ声だい?」


「笑顔のおまじないです。はい、チーズ!」


 僕のかけ声にはしゃぐ王様。王子様も「チーズ!」って言いながらピースした。


 シャッターを押す。パシャリと音がして、一瞬光が飛び散った。

 次の瞬間、空中にふわりと紙が浮かび上がって、僕はそれをつかんだ。

 紙に写った写真は、声はないけど確かに動いていた。王様が「なんのかけ声だい?」って言ったところも、王子様が「チーズ!」って言ったところも、それを聞いてグリムニルさんがクスリと笑ったところも、バッチリ写ってる。


「もう一枚!」


 僕はもう一枚写真をとった。

 気が抜けたみんなが姿勢を正すところが、しっかりとれてる。どっちの写真もとてもよくて、どっちをグリムニルさんに渡すか迷うなぁ。


「グリムニルさん、王様、どっちがいいか選んでください」


 選びきれなかった僕は、グリムニルさんに近付いてそうたずねた。

 二人は、初めて見る写真、というか映像にびっくりして、笑いながら写真を見くらべた。


「ニール、こちらを母君(ははぎみ)(おく)ってあげなさい」


 王様は、最初にとった写真をグリムニルさんに差し出した。グリムニルさんはわたわたしながら、王様に向かって首をふる。


「そ、そんな。そちらの方がよい出来ではありませんか」


「だからだよ。よい方のシャシンを、母君(ははぎみ)(おく)るんだ」


 グリムニルさんは王様に深く頭を下げてお礼を言う。写真を受け取って、うれしそうに笑っていた。


「ありがとうございます」


 二枚目の写真は王様に渡す。王様は二枚目の写真もお気に入りみたい。王子様と一緒に写真を見て、声をあげて笑っていた。


「グリムニルさん、まだまだとりますよ!」


「ちょっと待って。何個とる気だい?」


「アルバムがうまるまでです。あ、あと、写真は『枚』ですよ」


 この世界には写真なんてないから、グリムニルさんは写真をとられるのが初めてで、すっかりキンチョーしてたし、すっかり僕にふり回されてた。


 集合写真をとったら、次は王様との会議の写真。機密事項(きみつじこう)の”ろうえい”ってやつを心配されたけど、写真に声は入らないって説明したら、いっぱい写真をとらせてもらえた。


 次に、王子様と天体観測してるところ。カフェオレの湯気がモワモワしてるとこも、王子様が望遠鏡をのぞいているところも、バッチリ写真に入ってる。


 そして、グリムニルさんと王子様と僕の三人で、夜の城下町に出かけたんだ――王子様の護衛(ごえい)で兵士さんが二人ついてきてたから、正しくは五人だね――

 

 そして、屋台でミートパイを買って食べてるとこを写真にとった。パイ生地で具を包んでるそれを見て「ギョウザみたい!」って僕が言ったら、王子様は「ギョウザって何?」って。

 僕が王子様にギョウザの説明をしてる間に、グリムニルさんは兵士さんにあったかい紅茶を渡してた。

 やっぱりグリムニルさんは誰にでも優しい。僕はこっそり、その様子を写真におさめた。


 そうやって写真をとるうちに、写真は五十枚くらいになっちゃった。


「こんなにとらなくても……」


「楽しくてとりすぎちゃいました」


 後々、グリムニルさんがあきれてそう言ったけど、グリムニルさんの顔はなんだかうれしそうで、僕の心もすごくあたたかくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ