誕生日の最高なプレゼント⑦
僕は、夜が明ける前に星降堂に走って戻った。
「アルバムを作りたい?」
魔女さんは、僕の言葉に困り顔を浮かべた。
僕は、日本からカメラもスマホも持ってきてなかったから、写真をとる道具を持ってない。だけど、星降堂にならあると思ってたし、なくったって作ってしまえばいいと思ってた。
でも、魔女さんが困ってるってことは、カメラはないのかな……
「いや、カメラはあるけどね……」
魔女さんは、高い棚の上から木箱を取り出す。すっかりホコリをかぶって真っ白になってるフタを開けると、中にはカメラが入ってた。
両手で抱えないと持てないくらいに大きくて、レンズは飛び出てすごく長い。その全部が灰色の半とうめいで、ガラスか水晶でできてるみたいな見た目だった。
「『”せつな”を切り取るオブスクラ』。とった写真はすぐ手元に現れるし、映し出されたものは映像のように動き出す」
わあ、すごい! これでグリムニルさんをとったら、動いてる姿をお母さんに見てもらえるんだね!
「ただ、これは失敗作だから。あんまり使わせるのは……」
魔女さんは首をかしげて半笑い。
僕はそれがフシギで首をかしげた。
「写真、とれないんですか?」
「いや、機能的には問題ない。ちゃんと写真はとれる。
うん、仕方ないね。今回だけ、空に貸そう」
やったぁ! これがあれば、アルバムが作れるんだ!
僕は魔女さんからカメラ……『”せつな”を切り取るオブスクラ』を受け取った。一瞬ずしんと重さを感じたけど、オブスクラはすぐに羽根みたいに軽くなった。もしかしたら、僕に重さを合わせてくれたのかも。
「じゃあ、行ってきます!」
僕はオブスクラを抱えて、お城への道を走った。
✩.*˚
玉座の間で、グリムニルさんと王様が並んでる。王様はとてもいい笑顔をしてたけど、グリムニルさんはキンチョーした引きつり笑顔。二人の後ろには、メイドさんと執事さんと庭師さんと……とにかくたくさんの人が並んだ。
「はい、チーズ!」
「チーズ? それはなんのかけ声だい?」
「笑顔のおまじないです。はい、チーズ!」
僕のかけ声にはしゃぐ王様。王子様も「チーズ!」って言いながらピースした。
シャッターを押す。パシャリと音がして、一瞬光が飛び散った。
次の瞬間、空中にふわりと紙が浮かび上がって、僕はそれをつかんだ。
紙に写った写真は、声はないけど確かに動いていた。王様が「なんのかけ声だい?」って言ったところも、王子様が「チーズ!」って言ったところも、それを聞いてグリムニルさんがクスリと笑ったところも、バッチリ写ってる。
「もう一枚!」
僕はもう一枚写真をとった。
気が抜けたみんなが姿勢を正すところが、しっかりとれてる。どっちの写真もとてもよくて、どっちをグリムニルさんに渡すか迷うなぁ。
「グリムニルさん、王様、どっちがいいか選んでください」
選びきれなかった僕は、グリムニルさんに近付いてそうたずねた。
二人は、初めて見る写真、というか映像にびっくりして、笑いながら写真を見くらべた。
「ニール、こちらを母君に贈ってあげなさい」
王様は、最初にとった写真をグリムニルさんに差し出した。グリムニルさんはわたわたしながら、王様に向かって首をふる。
「そ、そんな。そちらの方がよい出来ではありませんか」
「だからだよ。よい方のシャシンを、母君に贈るんだ」
グリムニルさんは王様に深く頭を下げてお礼を言う。写真を受け取って、うれしそうに笑っていた。
「ありがとうございます」
二枚目の写真は王様に渡す。王様は二枚目の写真もお気に入りみたい。王子様と一緒に写真を見て、声をあげて笑っていた。
「グリムニルさん、まだまだとりますよ!」
「ちょっと待って。何個とる気だい?」
「アルバムがうまるまでです。あ、あと、写真は『枚』ですよ」
この世界には写真なんてないから、グリムニルさんは写真をとられるのが初めてで、すっかりキンチョーしてたし、すっかり僕にふり回されてた。
集合写真をとったら、次は王様との会議の写真。機密事項の”ろうえい”ってやつを心配されたけど、写真に声は入らないって説明したら、いっぱい写真をとらせてもらえた。
次に、王子様と天体観測してるところ。カフェオレの湯気がモワモワしてるとこも、王子様が望遠鏡をのぞいているところも、バッチリ写真に入ってる。
そして、グリムニルさんと王子様と僕の三人で、夜の城下町に出かけたんだ――王子様の護衛で兵士さんが二人ついてきてたから、正しくは五人だね――
そして、屋台でミートパイを買って食べてるとこを写真にとった。パイ生地で具を包んでるそれを見て「ギョウザみたい!」って僕が言ったら、王子様は「ギョウザって何?」って。
僕が王子様にギョウザの説明をしてる間に、グリムニルさんは兵士さんにあったかい紅茶を渡してた。
やっぱりグリムニルさんは誰にでも優しい。僕はこっそり、その様子を写真におさめた。
そうやって写真をとるうちに、写真は五十枚くらいになっちゃった。
「こんなにとらなくても……」
「楽しくてとりすぎちゃいました」
後々、グリムニルさんがあきれてそう言ったけど、グリムニルさんの顔はなんだかうれしそうで、僕の心もすごくあたたかくなった。