誕生日の最高なプレゼント⑥
王子との星座観察は一時間で終わり。別れ際片手をふる王子様に、僕は両手をふり返す。
これから王子様は寝る時間。だけど、夜の生活になれてた僕は、全然眠くならなくてあくびさえ出てこない。
グリムニルさんは、あくびをガマンしながら僕にこう言った。
「結界の調整に行こうか」
「けっかい?」
結界って言うと、アニメでよく見るバリアみたいなやつ?
「城下町を守る結界だよ。敵国が攻めて来れないように、町を守っているんだ」
「グリムニルさんが、結界をしてるの?」
「結界を張ったのは、魔女の師匠だ。私はそれを引き継いでいるだけ」
グリムニルさんの案内で、僕はお城の外に出る。お城の中庭の隅。花に囲まれて石版が立っていた。
グリムニルさんにすすめられて石版を見るけれど、何て書いてあるかさっぱりわからない。書かれているのは異世界語だ。
「手をかざして、念じる。すると、ほら」
ブンッと音がして、僕らを囲むように青白い球体が現れた。まるで僕らが、風船の中に閉じ込められたみたい。
「これが、結界のミニチュアだ。こわれているところがあれば確認できるし、ここで直すこともできる」
僕は結界を見回す。つるんとした球体にヒビを見つけた。ほんの一ミリ、あるかないかの大きさ。僕はそれを指さした。
「グリムニルさん、ここ、ヒビが入ってます」
「ああ、この大きさは多分、森に住むクマの仕業だろうね。よくあるんだ」
グリムニルさんは杖でヒビをなぞる。一瞬でヒビは消えちゃって、つるんとした球体になった。
「あの小ささでも、ヒトが見つけたら大変だ。悪いやつなら忍び込まれるからね。お手柄だよ、ソラ」
グリムニルさんにほめられて、僕はほこらしい気分になった。僕がヒビを見つけたおかげで、この国は守られるんだと思ったら、なんだかうれしい。
ところで、この結界ってどういうものなんだろう。人が入れなくなるようなやつなのかな。
そう考えていたら、グリムニルさんが結界の説明をしてくれた。
「この結界はね、招かれずに入ったヒトを追い返すものなんだ。入ると、家に忘れ物をしたような気分になって、帰りたくてたまらなくなってしまう」
「へえ、すごい! 僕にも使えるようになりますか?」
「うーん……あの魔女は、そういう術が苦手だからねぇ。星降堂では教えてもらえないだろう。
けど、私なら教えてあげられるよ。どう? 私の弟子にならないかい?」
これは……”かんゆう”ってやつだ……
グリムニルさんのとこで勉強すれば、こういうかっこいい魔法が使えるようになるかもしれない。
いや、でも……違う。僕は、星降堂の魔女の弟子だし、魔女さんに弟子入りしたいと決めたのは僕だし。何より、魔女さんがさびしがっちゃうかも。いや、さびしがらないかもだけど。
「あはは。冗談だよ」
グリムニルさんは、僕の頭をポンポンとなでた。
ジョーダンなわけがない。グリムニルさんの目は真剣だった。王国を守る魔導師として、弟子に魔法を教えて引きつがせたいっていうのが、きっと本音だと思う。
だけど、僕が悩んで断ろうとしたことに気づいて、僕が申し訳なさを感じなくていいように、ジョーダンってことにしたんじゃないかな。
そういえば……馬車に乗っていた時。乗る前から僕に気づいていたはずなのに、追い出すことはしなかった。それどころか、見学したいっていう僕の望みをかなえてくれた。
さっき王子様と話していた時もそう。王子様が、国民と同じものを食べれば、国民がどんな暮らしをしているか想像できるようになる。そしたら、国民を思いやれる優しい王様になれる。そこまで考えてポテトチップスを用意したなら、グリムニルさんは、先を見通せる優しい人なんだ。
グリムニルさんは、僕から顔をそらして結界を直す作業に戻る。
その時、キラリと何かが光って、僕は思わずそれをつかんだ。
青くてすき通って、とてもキレイな意思の宝石。
グリムニルさんの、優しさの宝石。
この優しさが、グリムニルさんのお母さんに届けばどんなにいいだろう。
誰にでも優しいグリムニルさんを、お母さんにも見て欲しい。そう思った。
「グリムニルさん。プレゼント、決まりました」
僕は、意思の宝石をポケットにしまいながら言った。グリムニルさんは僕をふり返って首をかしげる。
「アルバムって、どうですか?」
「……? アルバムって、なんだい?」
グリムニルさんには、アルバムが何かわからないみたい。もしかしたら、写真ってこの世界じゃめずらしいのかも。
なら、なおさら打ってつけだよ!
「作りましょう、グリムニルさんのアルバム!」




