誕生日の最高なプレゼント①
僕が星降堂に来て、多分一年が経とうとしてた。
そういえば、魔女さんのお師匠様が世界のカギを作った時は、一年かかったって言ってたなぁ。
僕は、僕の部屋で木箱を開けて、意思の宝石を数える。
努力、意志、夢、勇気、寛容……
まだ五個しかない。
別になまけてたわけじゃないんだ。だけど、お客様から意思の宝石をもらうっていうのは、思った以上に大変だ。
世界のカギを作るには、八個必要らしい。まだまだ時間がかかりそう。
「空、起きてるかい?」
ドアの向こうから魔女さんの声が聞こえて、僕は顔を上げた。
夕方の四時になっても起きない僕を心配してくれたのかな。僕はすっかり着替えを済ましていたから、すぐに魔女さんの方に近付いた。ドアを開けて「おはようございます」ってあいさつする。
「おはよう。さっそくで悪いんだけど、常連客が来ててね、空を紹介したいんだ」
常連客? 星降堂に?
「長く店をやっているとね、とんでもなく長生きなお客様と出会うことがある。くり返し同じ世界に訪れていると、常連客になってくれることがあるのさ」
とんでもなく長生き……百年とか、二百年とか? そしたらおじいちゃん、おばあちゃんみたいな見た目なんだろうか。いや、そもそも異世界の人なんだ。人間じゃないかもしれない。
「どんなお客様なんですか?」
「会ってみればわかるよ」
魔女さんは僕に魔法をかけて寝グセを直してくれた。
連れて行かれるまま、僕は星降堂の売り場に行く。
するとそこに、一人の男の人が立っていた。
「こんばんは。君が空だね」
「こんばんは」
男の人にあいさつされて、僕はあいさつを返しながらぺこりと頭をさげた。
男の人は若いように見えた。銀色の髪はおかっぱで、目は青色。とんがり耳はとても長い。まるで女の人みたいにキレイで、すらっとしていた。
服装は魔法使いって感じ。ピシッとした白いシャツの上から、紺色のマントをはおってる。チラチラ見える裏地は銀色で、キラリと光ってた。まるで、この人自身が宝石みたいな、なんだかフシギな見た目の人だ。
「彼は、エルフのグリムニル。私のお師匠様の、古くからの友人さ」
「古くから?」
魔女さんのお師匠様を僕は知らないけど、きっとうんと大人の人なんだろう。僕のおばあちゃんくらいの年かもしれない。だけど、グリムニルさんは魔女さんと同じくらい若く見えたから、僕は思わず聞いてみた。
「あの、僕のお母さんよりも若く見えますけど……」
僕が言うと、グリムニルさんは声に出して笑う。
「あはは。そうか、君はエルフがいない世界から来たのかぁ。
私たちエルフはね、すごく寿命が長いんだ。だから、そこの魔女よりずっと年上だよ」
魔女さんよりも?
「具体的には、私は六百歳。これでも、エルフとしてはまだまだヒヨっ子さ」
ええっ!
「ろっ、ぴゃく…………?」
僕は頭がぐるぐるしてしまった。グリムニルさんは、見た目はお兄さんって感じだったから、そんなに長生きには見えなかった。それに六百歳なんて、想像がつかないくらいに長い時間だ。途方もないって、このことを言うんだなぁ……
「しかし、シュヴァルツが弟子をとるとはねぇ」
グリムニルさんは、魔女さんを見てニヤニヤと笑ってる。
シュヴァルツっていうのは……?
「ニール、そう茶化すのはやめて。そもそも空に私の名前教えてないんだけど」
魔女さんはゲンナリした顔でグリムニルさんにそう言った。
……え? ていうことは……
「魔女さん、名前あったんですね」
「失礼だね。空が聞いてこなかったから言わなかっただけだよ」
魔女さんは僕をジトーっと見下ろして、子供みたいにほっぺたをふくらませてる。いや、確かに僕も聞かなかったけどさ、言わなかった魔女さんも悪くない?
「悪くない」
「頭、のぞかないでくださいよ……」
僕らのそんなやり取りを見ていたグリムニルさんは、カラカラっていう感じに笑ってた。
「それより、ニール。今日は何を買いに来たんだい」
魔女さんはせき払いしてたずねる。グリムニルさんは、売り場をぐるっと見回してこう言った。
「もうすぐ母の二千歳の誕生日だからね。プレゼントを買いに来たんだ」
「ああ、この世界ではそんな季節なんだね」
「毎年、食べ物なんかを贈っていたけど、母は二千歳だからね、たいがいのものは知り尽くしてしまっているから、たまには魔法具を贈ろうかと思ったんだ」
な、なんだかすごい話だぞ。
グリムニルさんのお母さん、二千歳だって? グリムニルさんが六百歳というのもびっくりだけど、二千なんていう数字、もう想像がつかない。
エルフってすっごく長生きなんだなぁ。そんな長生きのお母さんだと、プレゼント選び、すごく大変そう……
「しかし、魔法使いの君のお母様だろう。たいがいの魔法は使えるだろうし、今さら魔法具というのも……」
「うーん……異世界を渡る星降堂なら、面白い魔法があるかなと思ったけどね」
「ないない。私のあさい魔法使い歴じゃ君のお母様をおどろかせるようなことはできないよ」
大人二人は、僕のことが目に入らないみたいな感じで話を進めている。そりゃ、二千歳のおばあちゃんに贈るプレゼントなんてむずかしい仕事、子供の僕に任せても仕方ないって感じだけど、だからといって僕のこと忘れるのは、なんだか面白くないよ。
話に夢中になってる二人を置いて、僕は星降堂ほしふりどう)の外に出た。立て看板を出すためだ。