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僕のヒミツを教えてあげる。⑥

 僕と魔女さんは、アーサー君とダイアン君を連れて、ヒミツの上映を置いた部屋にやってきた。なんでも、ダイアン君はアーサー君に、自分のヒミツを見せてあげたいんだって。

 部屋の真ん中に置いた二つのイスに、兄弟は並んで座る。アーサー君は、さっきブラウニーからもらったホットミルクを一口飲む。


「俺は、ただ学校に行くんじゃない。飛行術とか、瞬間移動術とか、そういうのをしっかり勉強したいんだ」


 ダイアン君は言う。アーサー君は、ホットミルクから顔を上げて、ダイアン君の顔を見つめた。


「なんで?」


 アーサー君の問いかけが合図だったかのように、魔女さんはヒミツの上映を杖でたたいた。

 本体の上にある、二つの円盤(えんばん)。それがカラカラ音を立てて回る。部屋がじわりと暗くなって、カベに映像が映し出される。


 映像には、一本の箒にまたがる二人の人がいた。前側にはダイアン君、後ろ側にはアーサー君。

 映像の中の二人は楽しそうに笑い合いながら、色んな国へと飛び回っていた。


 江戸時代の日本みたいな和風の国。

 頭にターバンを巻いた人がいるエキゾチックな国。

 いかつい魔法生物がたくさんいるサバンナ。

 フシギなツル植物がたくさん生えてるアマゾン。

 そして、魔法学校。


 映像の中の二人は、どの国でもおいしそうなものを食べて、楽しそうなところに行って、うれしそうに笑ってる。


「俺は、お前と一緒に世界一周がしたいんだ」


 実物のダイアン君は、アーサー君にそう言った。


「お前さ、俺が魔法学校に行くって言った時、言ってただろ。魔法学校を卒業したら、兄ちゃんの魔法で世界一周に連れて行ってって。

 俺は、そのために勉強がんばる。だから、待っててくれるか?」


 アーサー君は、笑顔をかがやかせてうなずいた。


 ⋆꙳


 ダイアン君とアーサー君は、星降堂(ほしふりどう)を後にする。夜に子供たちだけで出歩くのは危ないからって、魔女さんが二人を送って行った。

 僕はその間に部屋の片付け。さっき魔女さんに教わった通りに、ヒミツの上映を手のひらサイズに小さくして、小さくなっていた(ゆめ)(わた)りの(とびら)を大きくする。

 呪文はむずかしかったし何回か失敗したけど、何とか元の通りに戻すことができた。


「はなればなれ、かぁ……」


 僕はつぶやく。

 兄弟がはなればなれになるのって、きっとさびしい。だって、お父さんとはなればなれになってる僕も、すっごくさびしいもん。同じくらいさびしいに決まってる。

 きっとお父さんも、僕がいなくてさびしいだろうな。大好きだったお母さんもいなくて、お父さんは本当にひとりぼっちだ。

 僕には魔女さんがついてくれてるけど、お父さんはそうじゃない。


 僕は……お父さんのためにも帰らなくちゃ。


「想像力が、きたえられているようだね」


 魔女さんの声がして、僕は振り返った。


「おかえりなさい」


「ただいま」


 魔女さんが帰ってきていた。

 部屋のドアを開けて、カベに寄りかかった姿勢で僕を見ている。

 僕は、口元に笑顔をうかべた。きっとぎこちなかっただろうけど、他にいい表情が思いうかばなかったんだ。


「僕、世界のカギを作ります。お母さんをあきらめるのはさびしいけど、僕までいなくなっちゃったら、お父さんはもっとさびしいだろうから」


 お母さんをあきらめるのは、イヤだけど、さびしいけど。

 お父さんにさびしい思いをさせちゃうのは、同じくらいイヤだ。

 だから、僕はガマンしなくちゃ。


「……そうか」


 魔女さんはそれだけ言ってほほえんだ。

 ほめてくれるわけでも、なぐさめてくれるわけでもない。

 でも、魔女さんは僕の考えを否定しなかった。きっと尊重してくれているんだ。

 沈黙は重かったけど、イヤな重さじゃなかった。


「そうだ。さっき、星降堂(ほしふりどう)の店先で拾ったんだ。寛容(かんよう)の宝石だよ」


 魔女さんは僕に、白い宝石を見せてくれた。

 すっかり見なれた意思の宝石。白い光をまわりにピカピカ散らして、すごくきれいだ。


「かんよう、って、なんですか?」


 僕はたずねる。むずかしい言葉だったからだ。

 魔女さんは優しく教えてくれた。


「人を許す、大きな心のことさ。だからこれは、ダイアンの寛容(かんよう)が転がり出たんだろうね」


 耳を近づける。寛容(かんよう)の宝石からは、ダイアン君の声で優しい歌が聞こえてきた。

 僕はきっと、杖を盗まれたりなんかしたら、相手が誰でも許せないと思う。

 でも、ダイアン君は許してあげてた。ダイアン君がアーサー君を大切に思っていたことも理由だろうけど、アーサー君がちゃんと謝ってたことも、理由の一つなんだろうなって思う。


 ふと思い出す。魔女さんは、アーサー君を引っぱたいていた。そして、アーサー君に謝ることの大切さを語っていた。

 魔女さんは、なんであんなに怒っていたんだろう。


「魔女さんは……」


 僕は、魔女さんにたずねようと口を開く。でも魔女さんは首をふった。

 

 だから僕は聞けなかった。魔女さんが、あの時泣きそうになっていたのはなぜなのかを……


「これは空のものだよ」


 魔女さんは、僕の手に寛容(かんよう)の宝石をにぎらせた。

 僕は首をふる。今回は、魔女さんが解決したようなものだったから。「受け取れません」って言おうとしたけど、魔女さんは僕の言葉をさえぎった。


「空がアーサーを気にかけなければ、もしかしたら二人はケンカ別れだったかもしれない。だから、これは空の功績(こうせき)だよ」


 魔女さんのきっぱりとした言葉に、僕は何も言えなくなった。

 黙って、寛容(かんよう)の宝石を受け取った。


 ✩ .*˚


『僕のヒミツを教えてあげる。』

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