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僕のヒミツを教えてあげる。③

 ブラウニーは、お客様をお迎えする準備が整ってたみたいだ。小さなカップケーキがたくさん乗ったお盆を持って、ダイアン君に近づいた。

 ダイアン君はそれにびっくりすることなく、カップケーキを受け取ってブラウニーにお礼を言った。


「ブラウニーが見えてるの?」


 僕はびっくりしてダイアン君にたずねる。ブラウニーはとうめいだから、僕にも魔女さんにも見えないんだ。それなのに、ダイアン君はブラウニーにお礼を言ってたから、てっきり見えてるのかと思った。

 そしたら、ダイアン君は笑って言った。


「ちがうよ。俺ん()にもとうめいな魔法生物がいるから、似たようなヤツかなって思っただけ」


 なるほど、と思った。

 魔女さんもそうだけど、本物の魔法使いは、かしこくて想像力があるんだなぁ。僕ももっとがんばらなきゃ。


「店主さん、話って何?」


 ダイアン君は、カップケーキで口をいっぱいにしながらたずねた。ブラウニーはダイアン君の隣にいるみたい。紅茶が入ったティーカップがふわふわういてる。

 魔女さんは紅茶を飲みながら、ダイアン君にこうたずねた。


「君は、弟のアーサー君がなぜ杖を”盗んだ”のか、心当たりはあるかい?」


 僕はびっくりした。アーサー君は、杖をなくしたんじゃなかったっけ。盗んだって、どういうこと?

 ダイアン君は「やっぱり」とつぶやいて、イライラを飲み込むみたいにカップケーキにかぶりついた。あんまりかまずに丸飲みって感じに。


「あいつ、日に日に荒れてきててさ。多分俺に怒ってんだよ。最初は俺が何かやらかしたんかなって思ったけど、あいつに聞いたらそうじゃないって言うし。わけわかんねぇ」


 ダイアン君はカップケーキをバクバク食べているうちにノドをつまらせた。胸をバンバンたたくダイアン君を気づかって、僕はダイアン君の背中をポンポンたたいた。何度かそうしてから紅茶を一気飲みすると、ノドのつまりは取れたみたいだ。ハアって大きく息を吐き出してから、ダイアン君はうつむいた。


「卒業したら、世界一周に連れてってやろうと思ってたんだけど……このままケンカ別れなのかな」


 魔女さんは黙って聞いていた。腕組みして、ダイアン君の顔をじいっと見つめている。


「何があっても、あの子を許してやれるかい?」


 僕は魔女さんを見上げる。


「え、でも魔女さん。ダイアン君の杖は、ダイアン君の腕みたいなものじゃないですか」


 僕は言った。もし僕が、ニワトコの杖を盗まれたりなんかしたら、犯人を絶対に許せないと思う。そのくらい杖って大切なんだ。

 魔女さんだって自分の杖は大切にちがいないし、ダイアン君だってそう。杖を盗むなんてひどいこと。

 それを、魔女さんは許しなさいって言ってる。


 一体、どういうこと?


「アーサー君の秘密を知ろうじゃないか」


 魔女さんは、赤い目をパチリと閉じてウインクする。

 僕とダイアン君は、お互いに顔を見つめあって首をかしげた。


 魔女さんは、ティーカップをブラウニーにあずけて僕らを手まねきする。僕はダイアン君と並んで、魔女さんの後ろをついていく。


 やってきたのは、星降堂の二階。(ゆめ)(わた)りの(とびら)がある部屋だ。

 魔女さんはその部屋に入ると、竜王の杖をふった。すると(ゆめ)(わた)りの(とびら)はシュポンッと音を立てて小さくなった。ちょうど魔女さんの手のひらくらいの大きさだ。

 魔女さんは、ぼうしを脱いで逆さまにする。その中から小さい何かを取り出すと、天井に向かってそれを投げた。

 もう一度杖をふる。するとまたシュポンッと音がして、目の前に落ちてきた小さな何かは、一瞬で大きい機械に変身した。


「これは『ヒミツの上映』。魔法の映写機だよ」


 三脚に乗った四角いカメラみたいな機械に、二つ丸いものが乗ってる。レンズはカベの方を向いていた。

 これが”えいしゃき”……何に使うものなんだろう?


「空は、映画を見ないのかい?」


 魔女さんがたずねてくる。


「映写機は映画を映す道具。だけどこれは魔法具だ。

 ヒミツの上映は、他人のヒミツの一部分を共有する魔法具だよ」


 他人のヒミツを……

 つまり、アーサー君の秘密をのぞこうとしているってこと?


「そんなことしていいのかな」


 ダイアン君はぽつりとつぶやいた。


「ヒミツってことは、知られたくないことだろ。それを勝手にのぞくのってダメなことじゃん」


 確かに。僕だって、僕のヒミツをだれかにバラされたらイヤな気分になる。

 でも、でもさ。


「アーサー君だってダイアン君にイヤな思いをさせてるじゃん。おあいこだよ」


 僕は言った。

 もしアーサー君が本当に杖を盗んだのなら、おんなじくらいイヤなことをされたって文句は言えないでしょ。

 ダイアン君はちょっとだけ悩んだ。そして、一度うんとうなずいて、ヒミツの上映に片手で触れた。


「魔女の店主さん、アーサーのヒミツを見せてよ」


 魔女さんはうなずいて、杖でヒミツの上映を軽く叩いた。カチカチ音を立てながら、丸い部分がくるくる回り始める。

 部屋はじわりと暗くなり始め、すぐに真っ暗になった。光は、レンズから伸びる筋だけ。それはカベに映像を映し出す。

 僕がよく見るアニメ映画みたいなキレイさじゃない。映像はガビガビで、時々映像に黒い汚れが入る。なんだか、昔の映画みたい。

 そのガビガビ映像は、どこかの家のうら庭を映しているみたいだった。映像は家からスタートして、庭にある林の大きな木にやってくる。


「アーサーだ」


 ダイアン君は言った。

 映像に、アーサー君の後ろ姿が出てきたからだ。何かをかかえているような猫背の姿勢で、コソコソと何かを木の幹にできた穴――”うろ”って言うんだっけ――にかくしてる。

 ちらりと見えたそれは、魔法使いのための杖だった。

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