僕のヒミツを教えてあげる。①
僕は、相変わらず悩んでる。
ホームシックを意識してからは、家に帰りたいっていう気持ちがどんどん強くなっていった。
魔女さんとは何度か話し合ってみたけれど、結局僕の気持ちはぐるぐる回って、僕がどうしたいのか決めることができなかった。
堂々巡りってやつだ。家に帰ることを考えると、お母さんのことが頭にうかんでくる。
お父さんもお母さんも、どっちも選べたらいいのに。
「空、こがしてるよ」
後ろから魔女さんに言われて、僕はハッとする。そうだ、僕はキッチンで夜ご飯を作っているところだったんだ。
フライパンに目を向けると、五本のソーセージが黒コゲになっていた。ヤバいと思ってガスコンロの火を止める。
やっちゃった。あー、なんだか色々うまくいかないなぁ。
「ちょうどいいじゃないか。空、魔法の練習だよ」
魔女さんは僕の後ろに立って、竜の杖をふった。
「この前できなかった、味の調節の魔法さ。皮がちょっとこげたくらいなら、味を変えてしまえば美味しく食べれるよ」
「本当ですか?」
僕はニワトコの杖をポケットから取り出す。
ソーセージの皮はベリベリに破れてるし、なんなら皮は真っ黒だけど。あ、でも中身はまだ無事かも?
「コゲの苦味だけを消そう。ソーセージの味を思い出して」
ソーセージの味……
皮はパリッとしてて、中から肉汁があふれ出して、お肉の旨みと、ちょっと感じるしょっぱさと。
「さあ、唱えよう。
日々の糧よ、喜びの糧とならんことを」
かて? かてって、何だっけ?
「えっと……日々のか、カテよ、よろこびのカテとならんことを」
ぼふん! と音がした。フライパンからモクモクと白いけむりが出てきて、ソーセージを焼いてたはずなのにホイップクリームみたいな甘いニオイがしてくる。
「ゲホッゲホッ」
「あー、久しぶりに失敗したねぇ」
魔女さんが、けむりを杖でかき混ぜて消してくれる。
けむりがなくなって、フライパンが現れる。ソーセージは五本きちんと残っていた。けど、何かおかしい。
茶色い皮はつるんとしてて、コゲた部分はなくなっていた。僕はフシギに思って、菜ばしでソーセージをつつく。
ソーセージは風船みたいにプクーッとふくれて、限界になるとパチンと割れた。中からはキャラメルが出てくる。お肉はなくなっていた。
「何これ?」
僕は首をかしげる。
魔女さんは「くひゅひゅ」と笑ってみせて、キャラメルをつまむと僕に差し出した。
「食べてみるといい」
「え……イヤです」
失敗から生まれたキャラメルなんて、絶対おいしくないに決まってるもん。
でも魔女さんは、僕が口を開けた瞬間にキャラメルを放り込んできた。
うげ、まずい!
「どんな味だい?」
「……ソーセージ味……」
キャラメルの柔らかい食感に、お肉の味としょっぱさ、後から来る砂糖の甘さ。合わない。まずい。
食べ物を粗末にしちゃいけないって、お父さんから言われたことがある。だから僕はキャラメルを吐き出さなかったけど、すぐにでも吐き出したいくらいにまずい……キャラメルが溶けきらないうちに、僕はそれをゴクンと飲み込んだ。
魔女さんはケラケラ笑いながら、残りのソーセージキャラメルに魔法をかけていた。元の黒コゲソーセージに戻したんだ。
「これは私が食べるから、空は新しいソーセージを焼くといいよ」
そう言って魔女さんは、黒コゲソーセージが乗ったお皿を持って椅子に座る。
元に戻せるなら、キャラメルを僕に食べさせなくてもよかったじゃんか。そう思って魔女さんをジトーっと見たけど、魔女さんはどこ吹く風。黒コゲソーセージをフォークで食べていた。
まあでも、黒コゲソーセージを食べてくれるのは魔女さんの優しさだ。ありがたく受け取っておくことにして、僕は新しくソーセージを焼き始めた。
✧*
寝起きの夜ご飯を食べて掃除をしたら、星降堂の開店時間。僕は、新しい世界に胸をワクワクさせて、お店の外に顔を出した。
そこはとってもにぎやかな街。有名な魔法使いの映画に出てきたような、ちょっと古びた街だった。西洋風? ヨーロッパ風? って感じ。
今までの世界では、魔法具を売る星降堂はめずらしいお店だったけど、この世界ではちがうみたいだ。
星降堂の右どなりには魔導書屋さん、左どなりには大鍋屋さん、向かい側には使い魔ショップ。そのどれもが昔からありそうな雰囲気。貫禄ってやつを感じで、僕はついビビってしまった……多分あれは、老舗ってやつだ……
「あー……今日はここか……」
魔女さんは、僕の後ろに立って残念そうな声を出す。
「この世界には魔法使いなんて掃いて捨てるほどいるからね。魔法具屋なんてめずらしくないから、見向きもされない」
僕としては、そういう世界の方が見ていて楽しい。けど、魔女さんにとっては困るんだろうな。同じお店がいっぱいあるってことは競走がはげしいってことだと、魔女さんから聞いたことがある。
「なげいたって仕方ないね。いつも通りやろう」
「はい、がんばります!」
お店の奥へと向かう魔女さんを追って、僕はかけ足した。




