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オバケなんか怖くない!④

「僕のパパはすごいんだ」


 ロイド君は話し始めた。


「この前ね、同じクラスのアレン君が、いじめっ子のイアンにいじめられててね。僕、イアンに言ったんだ。ダメだよって。そしたら、アレン君と一緒にいじめられちゃって」


 ロイド君は、いじめられた時のことを話しているのに、全然辛そうじゃない。それどころか笑顔だった。


「僕、パパに何も言わなかったのに、僕がイヤな思いしてるって気付いてくれて。いじめられたこと話したら、イアンの家に行ったんだ。

 そしたら、イアンをおこるんじゃなくて、悪いことだってことをきちんと説明して、イアンのイジメをやめさせたんだよ」

 

 ロイド君は、腕を体の横で大きくふって、石だたみを歩く。カツンカツンという足音をかき消すくらいの大きな声で、ロイド君は語る。

 

「その後僕のことほめてくれたんだ。勇気を出してイジメをやめさせようとしたのはえらいって」


 僕は、ロイド君にほほえんでみせた。


「ロイド君のお父さんに会ってみたいな」


「会ってよ。僕も、ソラ君にパパを会わせたいな」


 僕は、またお父さんを思い出してさびしくなった。


 お母さんが亡くなってしばらくして、四十九日(しじゅうくにち)ってやつをやった後。お坊さんがお寺に帰った後に、僕は泣いちゃったんだ。お通夜もお葬式も泣いたんだけど、また泣いた。

 お父さんは何も言わずに僕をファミレスに連れてってくれて、「食べ放題だ! 好きなだけ頼め!」って言われた。

 僕、ほんと何も考えずに、ケーキとジュースとアイスとポテトを頼んで、全部食べたらお腹が痛くなっちゃった。

 お父さんも、ハンバーグとグラタンとピザとアイスを食べて、お腹が痛くなっちゃってた。

 その時はさびしいって気持ちを少しだけ忘れて、お父さんとゲラゲラ笑ったっけ。

 一年と半年前のことなのに、なんだかなつかしいな。


「ソラ君のパパは、どんな人?」


 ロイド君が僕にたずねてくる。僕は、今思い出したファミレスの話をしようとして……


「……ん?」


 僕は気付いた。

 さっきまで大きな声で話していたから気づかなかったけど、後ろから小さな足音がしてる。

 僕らはクツをはいてるから、カツカツっていう足音だ。だけど、後ろからしてる足音は、ペタペタて感じの音。

 まるで、はだしの何かが石の上を歩いてるみたいな……


「ねぇ、足音聞こえない?」


 僕の質問を聞いたロイド君は、黙って耳をすませる。犬みたいな耳は、音を探すために横や後ろにぴくりと動く。

 

 ペタペタ……ペタペタ……

 

 気付いたみたいだ。ロイド君の顔が青ざめた。


「走ろう!」


 僕は片手でロイド君の手を握って、もう片手でカンテラを高く持ち上げる。最初はかけ足だったけど、ロイド君が走れると分かったら、思い切りスピードを出して走り始めた。

 ロイド君の走る速さはすごく速い。すぐに僕が引っ張られるようになって、僕は追いつくので精一杯だ。


 橋を渡って商店街に向かっていく。そこもやっぱり真っ暗。食べ物屋さんや服屋さんだけじゃなく、宿屋さんも明かりを消してドアを閉めていた。


「何でこんなに暗いの!」


 逃げるとこがなくて、僕は息をつまらせながら叫んだ。

 ロイド君もゼーハー言いながら、僕に向かって叫び返す。


「流れ星のお祭りは、星の神様のために町の明かりを全部消すんだよ!」


「何それ!」


 意味がわかんないよ。町の明かりを全部消すだなんて、日本じゃありえない!

 僕らはすぐに足が疲れてきて、息も続かなくなってきた。商店街を曲がって細い道に入って、地面に座り込んで息を整えようとした。

 ペタペタっていう足音は、僕らがかくれる細い道に近付いてくる。

 月明かりが、ペタペタの影を映し出す。頭に三角が二つついた人の姿。もしかして、オバケ……?

 音を立てないようにしないとと思って、僕は両手で口をおさえた。

 ロイド君も口を隠すようにして、少しでも息する音を小さくしようとしてる。でも、クタクタになるまで走った体には空気が必要で、僕らはゼイゼイ言いながら呼吸していた。


 お願い、いなくなって。そうお祈りしたんだけど、神様には届かなかったみたいだ。


「グルルル……」


 僕らがかくれる細い道に、そいつは姿を表した。

 大人くらいの高さがある、大きな犬。耳はピンと立っていて、黄色い目が鋭く僕らをにらんでいる。

 ……いや、あれは狼だ。昔、動物ずかんでみたことがある。


 狼は肉食で、自分よりも力が弱い生き物を狩って食べる。

 つまりは、この狼は…………


「ワオーン!」


「ひぃっ!」


 狼がほえる。僕はあんまりこわくて足がふるえて、すっかり立ち上がれなくなってた。ズリズリお尻を引きずりながら、ニワトコの杖をふり回す。杖の先から火の玉が出て、狼に向かって飛んでいく。

 でも、それで狼がこわがってくれるわけがない。狼は体をブルブルさせて火の玉をふり払ってから、目を細めて舌なめずりした。


「どどど、どうしよう……!」


 ロイド君が僕にしがみつく。声がすっごくふるえてた。ロイド君もこわくて仕方ないんだ。

 でも僕だって、あまりにこわくて何も考えられない。


 狼は、一歩、また一歩。僕にゆっくり近付いてくる。

 どうしたらいい……どうしたら……


「星くずの結晶!」


 ロイド君が急にさけんだ。僕のショルダーバッグに飛び付いて中に手を入れた。取り出したのはオレンジの石。魔女さんからもらった、星くずの結晶だ。


「ソラ君、これに火をつけて!」


 そうだ。ロイド君が魔女さんに話してた。星くずの結晶に火をつけたらバクハツするって!

 ロイド君は、星くずの結晶を狼に向かって投げる。僕は狙いを外さないよう集中して、星くずの結晶が燃えるところを想像した。


穿(うが)て! 爆炎(ばくえん)!」


 呪文を唱えると、星くずの結晶が赤い炎に包まれた。

 次の瞬間!

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