表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/66

おしゃまな妖精の小さな願い⑤

 しばらく歩いていると、開けた場所に出てきた。

 丸い広場みたいな空間。夜空は葉っぱにかくされてなくて、丸い月とたくさんの星が見えて、すっごくキレイ。

 広場には小さな長机とイスがいくつか並べられてて、まるで妖精用のキャンプ場だ。


「あそこの一階が私の家よ」


 マーヤさんが指さす先を、僕は見る。

 キャンプ場の奥に、すっごく大きな木が生えてた。僕が両手を広げたよりも、木の幹の方がずーっと太い。多分、どんぐりの木だ。クヌギとか、コナラとかいうやつ。

 木にはいくつも穴が空いてて、穴の中からふんわりと光がもれてる。そのうち二つの穴から、男の子の妖精と女の子の妖精が顔を出した。


「なまけ者マーヤが帰ってきたぞ」


「大きい人の肩の上だなんて、まるで魔法使いの使い魔だわ」


 くすくす。くすくす。木の中から数人の笑い声が聞こえてくる。


「うるさいわよ! ちょっとハネが大きいからってえらそうに!」


 マーヤさんはプンスカって感じで怒ってる。でもマーヤさん、なんだかムリをしてるみたいに見えた。ほんとは悲しいけど、ムリして怒ってる、みたいな。


「ソラ、おろしてちょうだいな」


 僕はマーヤさんから言われるまま、しゃがんでマーヤさんを肩からおろした。ハネを広げてバランスを取りながら、腕を伝っていくマーヤさん。そのまま地面に降りると、木の一階に向かった。

 僕は包装紙を破って、中から(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)を取り出した。


「この部屋に置いてちょうだい」


 マーヤさんは木の穴を指さす。中をのぞいたら、ドールハウスみたいなかわいい部屋があった。

 テーブルがあって、イスがあって、ベッドがある。飲み物を入れておくやつ――ピッチャーっていう名前だったと思う――の中には、赤い色のジュースが入ってた。

 僕は、その部屋の隅に(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)を置く。入るかどうか心配だったけど、すんなり入った。見かけよりも部屋は広いみたいだ。


 マーヤさんは、青いバラを持ってきて、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)のそばにイスを引っ張ってきた。


「飛ばないの?」


 なんの気なしに、僕はきいた。マーヤさんは「まあね」って言いながら、イスの上に立ってバラを持ち上げた。


「飛ばないんじゃなくて、飛べないんだよ」


 男の子の妖精が、僕の耳元でそう言った。僕はびっくりしてマーヤさんを見る。マーヤさんは青い顔をしてた。


 マーヤさんは他の妖精よりハネが小さい。そして、星降堂(ほしふりどう)に来た時から、僕の肩に座りっぱなしだった。

 マーヤさんは飛べないから、僕の肩に座ってたんだ。


「飛べないくせに、飛ぶ練習しないんだもん。なおさら飛べるわけないよ」


 男の子の妖精はそう言って、見せつけるように僕の周りをクルクル飛んだ。そうして僕の頭の上まで飛んでいって、木の穴の六階部分に入っていった。


「みんなして、いつも私をからかうの。ほんっと腹が立つわ」


 マーヤさんはそう言って、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)にバラをさした。


「さあ、水を入れてちょうだいな」


 僕は空を見る。

 まだ暗い。朝つゆと朝ぎりを入れるには、時間が早すぎる。


「マーヤさん、ごめんなさい。まだ朝じゃないから、朝つゆ入れられないんだ」


 するとマーヤさんは、ぷくっとほっぺたをふくらませて怒り出した。


「私は飛べないのよ。朝つゆの回収だって大変だし、回収できたとしても、入れるのだって大変だわ。

 何でもいいから水を入れてちょうだいな」


「え、でも……」


 ちゃんとした使い方じゃないと、魔法具の効果は出ないんじゃないの? 僕はそう思ったけど、マーヤさんに怒られてタジタジになっちゃって、なんにも言えなくなった。


『空、マーヤの希望通りにしてあげるといい』


 魔女さんからテレパシーが飛んできた。

 でも、それだと魔法が……


『マーヤは、魔法の効果を重要視していない。だから、とりあえず納得してもらえるように、ポケットの中にある水を入れてあげなさい』


 ポケットだって?

 僕はズボンのポケットをさぐる。するとびっくり。そこには入りそうもないのに、水の入ったガラスビンがポケットの中から出てきた。魔女さんが魔法で送ってくれたんだろうか。


「じゃあ、入れるね」


 僕は、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)の中に水を入れた。変なものは混ざってない、ただの水。マーヤさんは、注がれる水を見て満足したみたいだった。


『しかし、青いバラとは……マーヤの気持ちを表してるみたいだねぇ』


 魔女さんは言う。マーヤさんの気持ちって、どういうこと?


『花言葉って、知ってるかい? 人間が花に込めた言葉のこと。

 青バラの花言葉はね、「不可能」なんだよ』


 不可能……


 マーヤさんは飛ぶことができない。妖精の中で誰よりもハネが小さいから。

 飛ぶことは不可能だって、だからからかわれるんだって、あきらめてる……?


「ここまでありがとう。

 えっと、ドライアドの花粉だったわね。これでいいかしら?」


 マーヤさんは、僕にカゴを差し出した。僕の親指と同じくらいの大きさの、木の皮でできたカゴ。その中には山盛りの黄色い粉が入ってた。


「これでいいと思うよ。ありがとう」


 僕はマーヤさんにお礼を言う。


「ありがとう。じゃあね、星降堂(ほしふりどう)の店員さん」


 マーヤさんは僕に手をふる。

 僕はマーヤさんに手をふり返しながら、妖精たちの村を出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ