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おしゃまな妖精の小さな願い④

『くひゅひゅ。これは困ったねぇ』


 魔女さんの声が頭の中できこえる。困ったとか言ってるけど、魔女さんは困った顔をしてないし、楽しそうな声をしてた。

 困ってるのは僕の方だよ。


『まぁまぁ。伝達の術で指示をするから、言う通りにやってごらん』


 伝達の術っていうのは、今きこえるテレパシーのこと? まあ……指示してくれるなら、がんばってみるよ。


『何ごとも経験だよ。

 さて、ピクシーのマーヤはどんな魔法具がほしいのか。きいてごらん』


 僕は、肩に座ってるマーヤさんを見る。


「マーヤさんほ、どんな魔法具がほしいの?」


 マーヤさんは目をキラキラさせてこう言った。


「キレイなのがいいわ。私、花が好きだから、花をかざれたらもっといいわね」


「ええっと……どんな魔法がいいの?」


「それはソラにお任せするわ」


 どうしよう。僕は昨日、星降堂(ほしふりどう)に来たばかりで、魔法具のことはまだ勉強できてない。


『空、お店の真ん中にテーブルがあるだろう』


 魔女さんがテレパシーを送ってくる。僕は、売り場の真ん中の方を見た。

 テーブルの上には、アクセサリーがたくさんあった。


『そこに、ちょうどいいものがあるといいねぇ』


 魔女さんの言葉に、僕はずっこけそうになった。

 わからないのに指示を飛ばしてくるなんて!


 それでも、魔法具についてなにも分からない僕は、魔女さんの言葉を信じてテーブルに近付いた。

 

 テーブルの右側にはネックレスが並んでたけど、マーヤさんには大きすぎる。指輪もブレスレットもだめだ。

 テーブルの左側には置き物が並んでた。ガラス細工の動物や、小さいぬいぐるみ。でも花をかざれないから、これもだめ。


 テーブルの真ん中に、ワイングラスを見つけた。

 中には水が入ってて、底には赤い宝石の欠片が3つ入ってた。宝石がはね返した光が水に溶けて、ゆらゆらした影を作ってる。


『それは、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)。中に朝つゆと朝ぎりを入れて使うんだよ』


 みずかがみ……ってことは、水に映った自分の顔を見るってこと?


『ちょっとちがうね。自分のなりたい姿、つまり望みを映し出すのさ』


 ハデじゃないけど、神秘的な魔法だ。よし、これをおすすめしよう。


「マーヤさん。これ、どうかな?」


 僕はワイングラスを持ち上げてきいてみた。


「これは、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)。朝つゆと朝ぎりを中に入れてのぞきこんだら、自分のなりたい姿が見えるんだ」


 マーヤさんは、魔法の説明を「ふーん」って聞き流してる。


「宝石が沈んでて見た目もきれいだし、花もかざれるよ」


「……確かに、一輪ざしにしたらステキかも」


「でしょ?」


 お。いい感じ!


「でも私、そんなに重いもの運べないわよ」


 え? そんなに重いかな?

 と、思ったけど、マーヤさんを見て気付いた。マーヤさんは、僕の手と同じくらいの身長だから、人間用のワイングラスなんて重いにちがいない。それに気づかず、大きい魔法具をおすすめしちゃった。


「空が家まで配達してくれるんだろう?」


 その時、魔女さんが僕に向かってそう言った。テレパシーではなくて、耳にきこえる言葉で。マーヤさんにもそれがきこえて、魔女さんをふり返った。

 確かに、僕なら(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)を運べる。だから、魔女さんの言葉にうなずいた。


 マーヤさんはすごくうれしそうな顔をした。


「あら、うれしい! じゃあ、そのグラスにするわ!」


 マーヤさんはハネをパタパタさせて、でも飛ぶことはなく、僕の髪をつかんだままそう言った。


「お支払いは何がいいかしら?」


 マーヤさんは僕にそうきいた。

 普通なら、商品のお値段をそのまま伝えたらいいんだろうけど、(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)には値札が貼られていなかった。僕はあわてて魔女さんの方を向く。

 魔女さんは「くひゅひゅ」と笑って、マーヤさんにこう言った。


「ドライアドの花粉がほしいな」


 それを聞いたマーヤさんは、魔女さんにうなずいてみせた。


「わかったわ。私の家にあるから、ソラにお渡しするわね」


 ドライアドの花粉って何だろう。後で魔女さんに聞いてみよう。

 僕はカウンターに(のぞ)みの水鏡(みずかがみ)を運んで行って、中の水を捨ててきれいに拭いてから、真っ白な紙で包んだ。


「空、くれぐれも割らないようにね」


 魔女さんに言われてドキッとした。そう言われたら、ちょっとしたことで割れるんじゃないかって、逆に不安になっちゃうよ。


「じゃあ、ソラ。配達お願いね」


 マーヤさんにウインクされて、僕はうなずく。


 星降堂(ほしふりどう)を出ると、すっかり真夜中になっていた。光るキノコのおかげで足元は見えるけど、ちょっぴり怖くて足がふるえる。

 フクロウの鳴き声が遠くからきこえて、僕は息を飲んだ。


「あら、怖いの?」


 マーヤさんは、くすくす笑いながらきいてくる。僕は強がって「全然怖くないよ」って言ったけど、肩に乗ってるマーヤさんには、僕のふるえが伝わってるんだろうな。


 そういえば、マーヤさんはずっと僕の肩に座ってる。他の妖精たちは飛んでいたのに。なんでだろう。


「マーヤさんは飛ばないの?」

 

 気になった僕は、歩きながらマーヤさんにそうきいた。マーヤさんは「へ?」と、間抜けな声を出した。


「他の妖精たちは飛んでたけど、マーヤさんは僕の肩に座ってるから」


「何よ。メイワクだって言いたいの?」


「あ、いや、そうじゃないよ」


 マーヤさんの機嫌が悪くなっちゃった。僕はあわてて取りつくろう。


「ただフシギに思っただけで、メイワクだっていうんじゃないよ」


 マーヤさんはジトーっと僕を見たけれど、少ししてため息をついた。


「ならいいけど」


「うん。ごめんね」


 僕もマーヤさんも、それきり黙ってしまった。


 あれ? 僕、もしかしてはぐらかされた?

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