表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/66

魔法のお店がやってきた!①

「魔法使いなんだろ? 飛んでみろよ!」


 ジャングルジムの下から、声が聞こえる。僕はジャングルジムのてっぺんから、声のする方を見下ろした。

 ちょっぴり太っちょの高谷(たかや)君、ずんぐりちびっ子の小山(おやま)君、背高のっぽの河田(こうだ)君。僕にいつもちょっかい出してくる三人だ。

 僕はあの三人に追いやられて、ジャングルジムのてっぺんまで逃げてきた。とはいえ、多分あの三人はこれを狙ってたんだと思う。


 僕は、お母さんゆずりの青い目をしてる。そして、いつも魔法の本を読んで、隠れて魔法の練習をしてる。それが変だって、気持ち悪いって言って、いつも僕をからかうんだ。

 今も、「魔法使いなら飛んでみろよ」って言われてる。腹が立つし、すごく嫌だけど、僕はなにも言い返せない。

 僕は、魔法使いじゃないし、空は飛べない。


「とーべ!」


「とーべ!」


「とーべ!」


 三人が、バカみたいに手を叩いて、僕をバカにする。

 くやしいけど、言い返す勇気がない僕は、態度で示すしかない。黙って竹箒にまたがって、ジャングルジムをつかんでいた手をはなした。

 ジャングルジムのてっぺんに立つ。ぐらぐらするのが怖くて、少しだけ涙が出た。

 僕は、今から飛ぶんだ。


「マジかよ!」


 高谷(たかや)君はぎょっとした顔。小山(おやま)君も河田(こうだ)君も、ほっぺたをヒクつかせて苦笑いしてる。


 見てろ!


「うおおおお!」


 僕は怖さを吹き飛ばすために、大声でさけんだ。

 ジャングルジムをけって、空に飛び出す。一瞬風にあおられて、僕は少しだけ希望を持った。

 けど、飛べるはずもなく。僕は正面から地面に激突。目の前に火花が飛び散った。


「まじでやりやがった!」


 高谷(たかや)君がそう言って、小山(おやま)君と河田(こうだ)君はゲラゲラ笑ってる。

 僕はヒリヒリ痛いひざを抱えて、顔をうつむかせていた。

 三人が笑う理由なんて、わかりきってる。僕は魔法使いじゃないし、日本には魔法使いなんていないんだ。知ってるよ、そのくらい。


「何をしてるの!」


 聞きなれた女の人の声がした。高谷(たかや)君たちは「げぇっ!」って顔をして、散り散りになって逃げていく。

 僕は、泣いていることがバレるのがイヤで、ずっとうつむいていた。グラウンドの砂に、ぽたぽた涙が落ちる。

 くやしくて、くやしくて、たまらない。


「あの子達は、もう……ほんと仕方ないな。光星(みつぼし)君、立てる?」


 女の人を見上げると、やっぱりよく知った人だった。僕ら、五年一組の担任。細井(ほそい)先生だった。


「大丈夫? 泣いてるの?」


 細井(ほそい)先生は、僕に手を差し出して言う。僕は確かに泣いていたけど、首をふって先生の手をつかんだ。

 ムリヤリ引っ張られて立たされる。僕は、ジャングルジムから落ちたっていうのに、運よく軽いケガで済んだみたい。手のひらとひざがすりむけて、ヒリヒリ痛い。あと、ほっぺたも痛いから、ほっぺたもすりむいているのかも。


「保健室で消毒してもらおっか」


 細井(ほそい)先生は、僕を引っ張って小学校の中に連れて入った。

 下足場でくつを脱ぎながらグラウンドを見ると、あの三人組が僕を見て指さしてる。僕がまたがっていた竹箒をふり回して、僕が落ちたところをマネしてた。

 僕の顔がカッと熱くなる。はずかしくてたまらないし、怒りもあった。だけど僕は、高谷(たかや)君に何も言えない、弱虫だ。


 水道で傷口を洗った後、僕は細井(ほそい)先生に連れられて、保健室にやってきた。保健室の中には誰もいない。保険室の先生はどこだろう。今はいないのかな。


「あら、安西(あんざい)先生お留守かしら。仕方ないわね」


 細井(ほそい)先生はそう言って、保険室の奥にある棚に向かって行った。そこに、色んな薬が並べて置かれているんだ。


 僕は何となく、保健室のすみに置かれた大きな鏡を見た。姿見って言うんだっけ。

 そこに映る、薄い茶色のボサボサ髪と、ぼんやりした青い目。ほっぺたにできた擦り傷は、じんわり血がにじんでいた。今の僕の顔はとても気弱で、世界中のみんなを敵だと思ってるみたいな感じ。知ってる。こういうの、心気くさいって言うんだ。


「ちょっとしみるけど、ガマンしてね」


 消毒液でしめらせた綿を、傷口に押し当てられる。この消毒液、すっごくしみてすごく痛い。でも痛いなんて言ったらかっこ悪いから、くちびるをかんでガマンすることにした。

 ひざ、手のひら、ほっぺたの消毒が終わって、顔には大きなバンソウコウが貼られた。もう一度鏡を見る。すごくダサい。


光星(みつぼし)君」


 細井(ほそい)先生の声かけに気づかなくて、僕は少しだけぼんやりしてた。


光星(みつぼし)(そら)君」


 下の名前まで呼ばれて、僕はハッとして先生を見る。

 細井(ほそい)先生はすっかり呆れ顔だった。


「ジャングルジムから飛び降りるなんて……打ちどころが悪かったら大ケガしてたわよ」


 細井(ほそい)先生の声はキツい。目はキッとつり上がって、僕をじぃっと見つめてる。怒ってる。

 でも、僕だって飛び降りたくて飛び降りたんじゃない。


高谷(たかや)君達が悪いんだ」


 僕は抗議ってやつをした。僕ばっかり怒られるのはくやしいし、一番悪いのは高谷(たかや)君たちだ。高谷(たかや)君に追いかけられなきゃジャングルジムに登らなかった。

 高谷(たかや)君は、僕が魔法の勉強してるのをおかしいって言って、嫌がらせして笑ってる。イヤな奴だ。

 

 細井(ほそい)先生はため息をついた。

 なんでため息なんてつくの? 僕、悪いこと言った?


「友達に優しくしない高谷(たかや)君も悪いわ。でもね、イヤなことはイヤだって言わないとダメよ」


 なにそれ!


「じゃあ、僕が悪いってこと?」


 そう言ったら、先生は慌てて。


「違うわ。高谷(たかや)君も悪気はないのよ。だから、イヤならイヤって言わないと、高谷(たかや)君はわからないのよ」


「そんなことない!」


 そんなことありえない。高谷(たかや)君は、僕がいやるとわかって、いやがらせしてる。


「この前、僕の本に落書きして、学校裏の花壇に隠してたんだよ! 昨日なんか、お母さんのペンダントを取って、なかなか返してくれなかったんだよ!」


 僕は、首から下げてるお母さんのペンダントを、服の上から握りしめた。

 赤い宝石がついた、金色の鎖のペンダント。ガンっていう病気で、去年死んじゃったお母さんの形見。学校の先生たちからは「見せびらかさないなら持って来ていい」ってお許しをもらってるけど、高谷(たかや)君は僕をナマイキだって言って、ペンダントを取りあげた。

 僕は三十分ずっと泣いて頼んで、ようやく返してもらった。それを「悪気がない」って言えるわけない!


「それは……」


「先生たちはいっつもそうだ! 僕がガマンすれば、イジメなんてないって思ってる!」


 僕は思わず保健室を飛び出した。細井(ほそい)先生が僕を呼んだけど、僕はふり返らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ