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第9話 支援魔術師、天才魔術師を助ける!

 再び俺はルーナと対峙する。


 俺が手に魔力を集めると、ルーナもまた杖を構えた。


「悪いけど、おっさん。本気出させてもらうから」


 真剣な表情のルーナ。その本気具合を現すかのように、杖には膨大な魔力が集まっていた。先ほどのギベルドが霞むほどの量だ。


 高威力の魔術もこれなら使い放題。うらやましい限り。


 そんな者が相手……こちらは常に相手の不利を突かなければならない。


「俺も全力で行かせてもらうよ」


 さっきかけた【遅延】と【魔撥】は目に見えて効いているようには見えなかった。先ほど戦ったヴェルガー同様、魔術耐性のある装備を身に着けているのだろう。


 相当な強敵だな……


 だが幸い、人間相手はやりやすい。口の動きと杖に光る光を見れば、どんな魔術を使うかは見当がつく。


 俺はルーナの口に目を凝らす。


 ──ウィンド。風魔術か。


 すぐにルーナの持つ杖の先に白い光が宿る。


 恐らくは俺がさっき浴びせた風魔法のお返しのつもりだ。初歩の風魔術のはずだが相当な量の魔力を感じる。


 ルーナの手から光が弾けると、高速の風魔術が迫ってきた。


 しかし、いなすのは容易。


 風向きは西から東。こちらはその風勢を借り、ルーナの風魔術を無力化するとしよう。


「ウィンド」


 西から東へ払うように風魔術を放ち、ルーナの風魔術を吹き飛ばしていく。その先にはちょっとした旋風ができてしまった。


「なっ!? 舐めるな!!」


 次は水魔術。これも返礼のつもりか。


 しかし水魔術の攻撃には他の魔術のものと異なり、明確な弱点がある。水は重く、落下する。


 だからさらにその水を重くしてやればいい。支援魔術の使い所だ。


「【不動】──」


 【不動】を受けたルーナの水魔術は即座に地面にバシャンと落ちる。


 だが今度は一発だけではない。雨のように水魔術を矢継ぎ早に放ってきた。俺はすべてに【不動】をかけ、水を撃ち落としてく。


 膨大な魔力による連続攻撃。ルーナの自信家な性格も手伝って、かつて冒険者だった頃に一緒に戦った仲間を思い出す。


 そいつは魔術を学び始めた時期は俺と同じぐらいだったのに、瞬く間に強力な魔術を扱えるようになっていった。


 内心、羨ましかったし悔しかった。


 何をやっても中途半端……魔術だけでなく俺は皆のように突出した才能がなかったのだ。


 しかし、魔王の脅威を前に塞ぎ込んでいる暇はない。


 だから──俺は皆の力を最大限引き出せるよう、支援魔術を極めることにした。


 結果、俺はいなくてもいても変わらないような存在になったんだと思う。


 そんなだから俺は……いかんいかん。今は目の前の試験に集中しないと。


「ちっ! おっさんのくせに!!」


 ルーナはキリがないと悟ったのか、新たな魔術を繰り出してくる。口の動きから今度は土魔術。土を隆起させてこちらを攻撃するつもりだ。


 どこか攻撃されるか見えなければ対処のしようがないと考えたか。だが、それにも対処法はある


「【氷纏アイスド】、【硬化】」


 足元の周囲の地面に含まれる水分を【氷纏】で凍結。そこに【不動】をかけ、地面の土を重くする。


 ルーナはすぐに異変に気がつく。


 土を隆起させようとしても土が固く不可能なのだ。


「くそ! どうして!? あっ」


 ルーナは俺が対処できている理由に気がついたようだ。口元を片手で隠す。


 洞察力も優れている。今は戦闘の経験が浅いが、かつてのあいつが俺を瞬く間に凌駕していったように、ルーナもまた凄腕の魔術師になるに違いない。


 ルーナが杖を天高く掲げる。光は黄色──雷魔術か。


 雷は高速で避け難い。それを広範囲に放ち一挙に勝負をつけるつもりだ。


 なぜか副師団長も周囲に魔法陣を展開している。おそらくは威力が強くなりすぎないようにしてくれているのだろう。


 とはいえ、効果の強い魔術は発動までに時間がかかる。ルーナは左手で口を抑えているため、視界の左下にわずかな死角が生じているはず。


「ウィンド──【隠蔽】、【加速】」


 風魔術の魔力を隠し、高速化──風はルーナの左側から命中し、ローブとスカートをハタハタと翻らせる。


「そこまで! 先生の勝利です!」

「っ!」


 レイナの声に、ルーナは唇を噛み締めながらも杖を下ろす。


 なんとか勝てた……

 いや、ルーナは試験官として手加減してくれていたのだろう。その気になれば俺の魔術など正面から打ち破る強力な魔術を放てたはずだ。


 俺はルーナより実戦経験が少しあっただけに過ぎない。宮廷魔術師として適格かは疑問が残る。


 しかし、ルーナは目に涙を浮かべていた。


 風のせいでゴミが目に入ったかな? ──うん?


 俺は異変に気が付く。副師団長の魔法陣は消えておらず、空には黒い雲が発生していた。


「ルーナ!」

「え? あっ」


 ルーナは空を見上げるが、雲は消えない。


 それもそのはずだ。この魔術は副師団長が放った魔法陣のものなのだから。


 しかし、副師団長と言えばのんきな顔で明後日の方向を見ている。こちらの異変には気が付かない。


「くっ!」


 ルーナは慌てて杖を天に掲げた。


 もう魔術の発動は止められない。だから、魔術を自分へと引き寄せようとしているのだ。


 しかしそれは雷撃がルーナに直撃することになる。広範囲に広がった雷撃なら威力は低いだろうが、収束している。しかも、ルーナの魔力量は膨大だった。


 とても防げるわけがない──


「ルーナ、杖を空へ投げろ」

「え?」


 ルーナは走り出す俺を見て、目を丸くする。

 俺は自らの体、そしてルーナの体と杖に【浮遊】という重量を軽くする支援魔術をかける。


 さらに自身を【加速】で高速化、【跳躍】で跳躍力を向上させた。


 ルーナは俺の意図に気が付いたのか、杖を天高く放り投げる。【浮遊】の効果で空高く上がっていった。


 そのままルーナのもとへとジャンプし、ルーナを抱きかかえ走り去る。


 刹那、眩い閃光が周囲を照らし、轟音が響いた。


 振り返ると、そこには高く舞う砂埃と大きな窪みがあった。


「間に合った……大丈夫?」


 胸元に目を落とすと、そこには顔を真っ赤にしたルーナがいた。


「あ……あ」

「ルーナ?」


 ルーナの衣服は温かい水でびしょびしょに濡れていた。俺の水魔術のせいだろう。


 すぐに【蒸発】という物を乾燥させる支援魔術で服を乾かす。


 先程思い出した仲間の子供がよく漏らしていたので、服を乾かしていたな。懐かしい。名前は確か……


 思い出そうとしていると、ルーナはぽかぽかと俺の胸を叩く。赤面したまま俺を睨んで怒鳴った。


「ば、馬鹿!! あんたが何もしなくても、あんな魔術どっかへ飛ばせたわ! 何余計なことしてんの!?」

「そ、そうだったの? ご、ごめん!」

「そうよ! と、ともかく早く降ろして!」


 慌ててルーナを降ろしてあげる。


 ルーナは腕を組みながら顔を背けた。


「か、か、勝ったなんて思わないことね! 次はあんたなんかギッタンギッタンにしてやる!」


 ルーナはもう一度俺を睨むと、急いで走り去ってしまった。


 やらかした……

 あれほどの魔術の使い手なら飛ばせてもおかしくないよな。


 消沈していると、副師団長もこんなことを呟く。


「そ、そうだ、お前は勝ったわけではない! インチキばかりの魔術を使いおって! お主は不合格だ!!」


 やはり俺には務まらない仕事なんだろう。


 潔く宣告を受け入れようと思っていると、レイナが口を挟む。


「先生は試験の合格条件を満たしました。まだ何か?」

「み、認めん! ワシは認めんぞ!」


 はあとため息をつくレイナ。


「先生の実力は確かです。それにさっきあなた──」


 レイナの言葉は嬉しいが、やはり俺は力不足だ。


「レイナ、悪いんだが」

「ザクスべルグ伯爵」


 突如、音色の違う声が響く。


 振り向くとそこには煌びやかな鎧に身を包んだ者たちがいた。ミアとヴェルガーと同じ雰囲気の鎧。きっと近衛騎士だ。


 副師団長は目を丸くする。


「近衛騎士たちが何の用じゃ?」

「勅命によりお前を逮捕する」

「わ、ワシを逮捕じゃと!?」

「公金横領、魔術大学への賄賂及び干渉、宮廷魔術師団内での職権濫用。全て証拠も上がっている」

「ま、待て! ワシは知らん!」

「引っ立てろ。陛下が直々に裁かれる」


 近衛騎士たちは副師団長を取り囲むと、魔術が施された手枷と足枷を嵌める。


「ワシは無実だ! 知らんったら知らん!!」


 副師団長はそのまま近衛騎士たちに連行されていった。ついでにギベルドも引き立てられる。


「あらあら。まさか、副師団長があんなことをするなんて」


 冷淡な口調で呟くレイナ。


 周囲の宮廷魔術師や志願者たちもそこまで驚いていないようだ。やはり捕まったかという声も聞こえる。


 学長の話からすれば本当だろうな……というか、学長もやばいんじゃない?


「しかし、副師団長になるほどの技量があるのに、汚職なんて勿体無い」

「どうなんでしょうね? どうでもいいですけど。そんなことより、試験合格おめでとうございます!」


 レイナはそう言って小さく拍手してくれた。


「あ、ありがとう。いいのかな?」

「もともと殿下の命なのです。試験だってしっかりこなしました。先生には宮廷魔術師としての資格が十分にあります。やっぱり先生の支援魔術は世界一です!」

「れ、レイナ……」


 年のせいか、レイナの言葉が胸に染みる……


 こうして俺は、宮廷魔術師の試験に合格するのだった。

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