第7話 支援魔術師、近衛騎士を打ち負かす!
今回、全体にわたって三人称です!
ギベルドとヴェルガーと一定の距離を取り対峙するトールとミア。
その中間でベーダン副師団長が声を上げる。
「試験の内容は、使用する魔術と武器を問わない実戦方式。敵わぬと思えば、降伏を申し出ること!」
冒険者や兵士の試験では木製の武器を使わせたり魔力を調節させる。しかし、宮廷魔術師や近衛騎士ともなれば実戦と同じ環境で試験させられるのだろう──トールは身の引き締まる思いだった。
ただし、そんなことを思っているのはトールとミアぐらいだ。
周囲の者たちは危険な魔術の撃ち合いなどしない。武具を必要とする場合も、それはすべて木製だ。
ただ、ベーダンのトールを排除しようという目的のため。
(ふっ。支援魔術師程度ギベルドだけでも十分だが、念には念のためにな)
「近衛騎士ヴェルガー……ドラゴンを二体討伐経験あり。騎士団長を崇拝し、騎士団長からの信任も厚い。相手にとって不足なし、ですが」
「ヴェルガーに敵う者などそれこそ近衛騎士団長──うむ? お前は何故まだここにおる?」
ベーダンが顔を向けた先には涼しい顔をしたレイナがいた。
「お前にも試験相手を用意しただろう!! さっさと試験を」
「試験相手とは彼らのことですか?」
レイナは顔をトールに向けたまま、小さく手を上げ後ろに親指を向ける。
そこには、地べたに横たわる三人の宮廷魔術師がいた。
振り返ったベーダンは唖然とする。
「へ? え?」
ベーダンは再びレイナに顔を向けた。
「お、お前、何を!?」
「言われた通り、倒しただけですよ。ご丁寧にナイフに毒を塗った方々をね」
「た、倒した? い、いつ?」
「どうでもいいでしょ。それより、前を見なさい。あなたはこの試験の監督なのでしょう?」
レイナはベーダンを一瞥もせずただトールだけを見ている。
「あなただけじゃない。あの方の支援魔術は、誰もが目にすべきものなのだから」
~~~~~
まず初めに動いたのはギベルドだった。
「あの女がいなきゃお前なんて怖くねえ!! 【ヘルバーン】!!」
両手を天高く掲げるギベルド。【ヘルバーン】は高威力で知られる上級の炎魔術だ。
トールはギベルドへと手を向ける。
「させるか──【遅延】、【魔撥】!」
トールは動作を遅くする【遅延】と、魔力吸収を阻害する【魔撥】をギベルドにかけ沈黙させた。
「あ、あれ!? な、なんで!?」
魔術を撃てないギベルドは慌てふためく。
その隣を、ヴェルガーが鞘入りの両手剣を持ちながら通り過ぎる。
「やはり、只者ではないな……ここは」
ヴェルガーは鞘に納めたまま両手剣を構え、ミアに体を向ける。
「悪く思うな、ミア!!」
ヴェルガーは一気に地面を踏み込むと、ミアへと走った。
ミアもまた大盾を前に構え、迎え撃とうとする。
トールといえば、ミアとヴェルガーのどちらに手を向けるか悩んでいた。
(ヴェルガーの鎧はおそらく魔術耐性が付与されたミスリル製の鎧。ヴェルガーを弱体化させるよりも)
トールはミアに、以前と同じく動きを速くする【加速】と、その大盾に装備を頑丈にする【鉄壁】をかけた。
「ミア、支援魔術をかけた!」
「ありがとうございます──ひっ!?」
ヴェルガーはミアに瞬く間に迫ると、両手剣を一挙に振り上げる。
ミアは大盾を少し引き──振り落とされる両手剣を弾いた。
ゴンという鈍い音が響くと、それを皮切りにカンカンと金属の触れ合う音が木霊する。両手剣を目にも留まらぬ速さで振るうヴェルガーと、それを大楯でひたすら防ぐミアの攻防が続いた。
一方のトールはギベルドを最低限の魔力で抑えつつ、残りの魔力でミアを支援する。
(このままじゃミアの盾が持たない……他の手を打つ必要がある)
トールはギベルドにかけた【遅延】と【魔撥】を解く。そしてすかさず──
「お! 動けるようになった! よっしゃ──ひっ!」
喜んだのも束の間、ギベルドはトールの放った電撃に怯える。
ヴェルガーもそれに気が付いていたが、横目で見送った。
(バカ息子と知られているとはいえ、ギベルドも貴重な戦力。だが、助ける余裕はない)
ギベルドの体に微弱な電流が走る。
「いっ!!」
体を震わせその場に崩れ落ちるギベルド。トールの放った雷魔術により、体を動かせなくなってしまう。
「ぎ、ギベルド!! ちゅ、中止だ!! 試験は中止だ!」
そう叫ぶベーダンだが、誰も振り返らない。
周囲の者たちはギベルドなどには目もくれず、ヴェルガーとミアの打ち合いに釘付けだった。
「す、すごいな」
「魔術の試験を受けたつもりが、ヴェルガー殿の剣技が見られるなんて」
「あのミアって子も、新人とは思えん盾の扱い方だ」
聴衆の声を聞いて面白くないのはベーダンだ。
すぐに声を上げようとする。
「ち、ちゆう……あ、あぇ?」
喋れないベーダン。体を動かそうにも動けない。
レイナはベーダンに体を重くする【不動】と、音を消す【沈黙】をかけていた。特に口周りには念入りに。
ベーダンに顔を向けず、レイナは呆れるような顔で呟く。
「やはり皆、先生には目もくれずですか……まあそこは、いずれどうにかするとして。ここからはヴェルガーとの戦いに集中できますね、先生」
トールはヴェルガーへと手を向ける。
(ここから攻撃魔術を放てばミアに当たる可能性もある……まずはヴェルガーを少しでも弱体化できないか?)
【遅延】をヴェルガーへと放つトール。
しかしヴェルガーは鞘から両手剣を抜くと、迫る【遅延】の光を斬り捨てた。その後もトールの魔術を巧みに斬り捨てていく。
奴には通用しない──トールはヴェルガーの弱体化を諦めた。
(魔術を斬るか。あのヴェルガーという男、相当な強者だ)
ヴェルガーの両手剣と鎧には魔力を集める性質を持つミスリルが使われている。特にその両手剣には魔術を斬れる支援魔術が付与されていた。
(ミアを負けさせていいなら、他に手はある。だが、ミアを近衛騎士団から辞めさせるわけにはいかない)
全力でミアを支援して攻撃の機会を作る──トールはミアへと【加速】をかける。
「ミア! メイスを上から振り下ろしてくれ!」
トールの言葉を聞いたミアは腑に落ちないといった顔をするが、すぐに小さく頷いた。
ミアは言葉通りメイスを振り上げると、ヴェルガーは両手剣で防ごうと構える。
(今だ──)
トールは振り下ろされたミアのメイスに、【不動】をかけた。今まさに、ヴェルガーの両手剣に触れるというところで。
金属と金属が触れ合う音が鳴り響く。
重いメイスの一撃を受けたヴェルガーの両手剣は、大きくしなるように揺れていた。
「──くっ! そう来るか!!」
初めて焦るような顔を見せるヴェルガー。しかしミアの盾へと突進すると、そのままミアの盾を掴みトールへと肉薄する。やがて接近したところで盾ごとミアを地面へ投げ飛ばし──両手剣を振り上げた。
「ヴェルガーの負けね。もう、あの剣は」
レイナがそう呟く中、両手剣を振り下ろそうとするヴェルガー。
「うぉおおおお! ──っ!」
しかし、ヴェルガーの両手剣はボロボロと崩れてしまった。
「私の負けか……」
柄だけとなった両手剣に視線を落としヴェルガーは呟いた。
ヴェルガーは尻餅をついたミアに言う。
「ご苦労だった……明日よりも更に鍛錬に励め。我々は騎士団の本部へ戻るぞ」
「は、はい!」
ミアは立ち上がるとトールに深くお辞儀をして、スタスタと立ち去るヴェルガーを追った。
ざわめく周囲の者たち。
「な、何が起きたんだ」
「ヴェルガー殿の剣技を、あの娘が防ぎ切ったのだろう」
「魔術の試験だったんじゃないのか?」
「というか、なんでギベルドは倒れてんだ……? 漏らしてるし……」
レイナがトールへと駆け寄る。
「先生の勝利です! 先生、合格おめでとうございます! やっぱり先生の支援魔術は世界一です!」
「ありがとう……すごい強い人だったな。ミアも本当によく頑張った」
「先生の支援魔術で勝てたんですよ。さあ、今日はもう行きましょう」
トールの手を引き、去ろうとするレイナ。
しかしベーダンが声を上げる。
「ま、待てい! 試験はまだ終わっとらん!! トールよ、次の試験に合格せねば、お前は宮廷魔術師にはなれん!!」
「ちっ、しつこ……いですね。ああ、まだ来ないのかしら」
レイナは不機嫌そうな顔でぶつぶつと呟く。
しかし、今のはミアの実力のようなもの。ヴェルガーもあえて俺を狙わず、支援魔術を使わせてくれた──トールはハンデを感じていた。
「分かりました、副師団長。最終試験もよろしくお願いします」
レイナは目を丸くする。
「先生……」
「レイナ。やっぱり、自分の力量を見極めたいんだ。本当に宮廷魔術師が務まるかどうか」
「先生が仰るなら私はもう何も言いません」
一方のベーダンは苦笑いを浮かべる。
「よ、よくぞ言った! 少し待っておれ!」
ベーダンはそう言って走り去っていくのだった。
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訓練場を後にする途中、ヴェルガーは先ほどまでの戦いを振り返っていた。
(魔術師とは幾度も手合わせをしてきた。賊にも強力な魔術の使い手もいた。その中でもあのトールという男は……)
別格だと、ヴェルガーはトールを評していた。
(奴を最初から狙うべきだった──もちろん、できるならそうしていただろう)
しかし、とヴェルガーは述懐する。
(ミアに接近しなければ、たちまち奴の魔術の餌食になっていた。ギベルドとミアに放った魔力を以てすれば、俺の動きなど容易く止めていた)
ヴェルガーは振り返り、遠くに立つトールを見る。
(メイスに重量を加えた攻撃……剣の無力化を狙うという戦術と、それを可能にする魔術の正確さ。まるで、騎士団長殿と手合わせをしているかのようだった)
難しい顔をするヴェルガーに、ついてきたミアが首を傾げる。
「ヴェルガー様。何か?」
「いや……まだまだ鍛錬が足りぬと思っただけだ」
自分のことだと思い「精進します」と口にするミア。
しかしヴェルガーが感じたのは自分の至らなさだった。
(これではいつまで経っても団長の足を引っ張るだけ。不得意だからと魔術を避けるのはもうやめよう)
ヴェルガーはトールから深い感銘を受けると、訓練場を後にするのだった。