第6話 支援魔術師、試験を受ける!
俺はレイナと共に、宮廷魔術師の試験を受けるため宮廷の敷地内にある訓練場へと来ていた。
「すごいなあ。鐘を鳴らしてまだ一時間も経っていないのに」
一面空き地の訓練場には、すでに多くの者たちが集まっていた。
レイナは頷いて答える。
「宮廷魔術師に志願するのは、そもそも貴族の子弟など帝都に暮らす者がほとんどですので」
「すぐに集まれるってことか。しかし、エリートばっかなんだろうな……」
魔術大学の万年ヒラ教員。しかも支援魔術しか碌に使えない俺が通用する世界なのだろうか。
不安に思っていると、レイナがこんなことを呟く。
「肩書と態度だけは立派なね」
「え?」
「あっ、副師団長がやってきましたよ」
レイナの視線の先には、太鼓腹を揺らしてやってくる副師団長がいた。
その隣には体格のしっかりとした男が歩いている。周囲をひとしきり睨みつけると、ふっと笑いをこぼす。
「けっ、どいつもこいつも弱そうなツラしてんな、親父」
「実際、どいつも魔術大学で飛び級卒業したお前の足元にも及ばんだろう」
男にそう答えガハハと笑う副師団長。
「あれ? 彼は」
男は見覚えのある顔だった。つい一週間前、魔術大学でレイナに絡んでいた──ギベルドだ。
副師団長はギベルドの親だったか。子のギベルドの魔術の才を見れば、ますます副師団長という身分にも納得だ。
「ヒャハハハ! 間違いねえ! おう、雑魚ども、俺は未来の師団長だ! よく覚え……え?」
こちらに気づいたギベルド。
俺は笑顔で手を振った。
「ギベルド君! 君も帝都に来ていたのか!」
「な、なんでお前が……というか、隣は──ひいっ!!」
先程まで威勢が良かったギベルドは急に体を震わせ、副師団長の後ろに隠れた。
まるで子犬のようになってしまったギベルド。後ろに何か怖い物でもいるのだろうか──いや、笑顔のレイナがいるだけだ。
「ギベルド? 一体どうしたと言うのだ!?」
「パパぁ……俺やっぱ宮廷魔術師ならない……」
「バカを申すな! いきなり魔術大学をやめて帰ってきたと思えば、今度は宮廷魔術師にならんだと!?」
「おしまいだぁ……」
人が変わったようなギベルドを見て、副師団長は俺をぎいっと睨んだ。
「お前……我が息子に何をした!?」
「な、何も。魔術大学で少し、試合をしただけというか……ギベルド君、俺何か悪いことしたか?」
俺が訊ねると、ギベルドはブンブンと首を横に振る。
「と、とんでもない! パパ、やめてくれ!!」
「チッ……ギベルド、ともかく試験が始まる。お前のために今日実施してやるのだ。駄々を捏ねてないで、さっさと準備しろ!」
副師団長は自らの足に縋るギベルドを蹴り飛ばし、高らかに宣言する。
「これより宮廷魔術師選抜試験を行う!! 各試験官が名を読み上げるから、応答の上、試験官の指示に従うように」
その言葉に宮廷魔術師らしき者たちが、各々志願者の名を呼び始める。
俺の名を呼んだのは、副師団長だった。
「トールよ! お主はワシが直々に試験してやる!!」
「はい! よろしくお願いします!」
「ふっ。お前のような奴が雇われるなど、宮廷魔術師も随分と舐められたものだ」
嫌悪の表情を向けてくる副師団長。
やはり宮廷魔術師は過酷な仕事なのだろう。それゆえ副師団長は厳しく接してくれているのだ。
「宮廷魔術師は各々の得意とする魔術を以て職務に当たる。お前は支援魔術が得意と聞いた……そこで」
副師団長はそう言ってパンパンと手を叩く。
すると、重装の鎧を着こんだ二人がやってくる。
二人の鎧には、各所に帝冠と盾の刻印が刻まれていた。一人は大剣だけを手にした細身の若い男で、もう一方はメイスと巨大な盾を持った華奢な若い女性。
あれ。あの盾、どこかで見覚えがあるぞ。
盾だけじゃない。メイスもだ。ブラウンのショートヘアーの下に見える顔には見覚えはないが、女性も俺を見てあっと口を開けている。
どこかで会ったか訊ねようとしたが、副師団長が若い男に言う。
「来たか。ヴェルガー」
「仰せの通り、近衛騎士団で一番の新参を呼んでまいりました。その中でも、昨日の戦力評価で成績が悪……」
副師団長がううんと咳払いすると、ヴェルガーと呼ばれた男は発言をやめ首を傾げる。
副師団長は俺に顔を向けて言う。
「お前の試験はそこの盾を持った女と組み、我が息子ギベルドとこの近衛騎士ヴェルガーのチームと実戦形式で試合をしてもらうことだ」
「ヴェルガー殿は二十歳にして、近衛騎士団でも一、二を争う豪傑と聞いてます。新人の方とでは実力の差がありすぎると思いますが」
レイナがすかさずそう指摘した。
副師団長は忌々しそうな顔でレイナを睨む。
「誰が勝つのが合格条件だと言った。そこは甘めに見てやる」
「では、先生が勝てば先生は確実に合格ですね。もっとも総合的な戦力を見れば先生側が有利なわけですが」
「貴様! お前にも対戦相手を用意してやった! 倒せなければクビだからな!」
副師団長はそう吐き捨てると、ギベルドとヴェルガーと共に少し離れた場所へと向かう。
俺は盾を持つ女性に顔を向ける。
「えっと」
街道で俺は彼女に加勢した。しかし言葉を交わしたわけでもない。なんだコイツと思われてしまうかもしれない。
が、女性のほうから俺に頭を下げてきた。
「い、以前はありがとうございました!!」
「あ、覚えていたんだね」
「もちろんです! あなたが来なければあたしは今頃──あっ」
女性は、俺との間に割って入るレイナに驚く。
「ミア・ヴァルスブルク。ヴァルスブルク男爵家の長女。半年前、地方での近衛騎士団選抜試験に合格。昨日に帝都に赴任するも、同日行われた戦力評価ではEランク。評価担当者曰く大盾の扱いには長けているが、一人で任務を遂行できる人材ではない。解雇候補の一人、だそうです」
だそうですって……
レイナの言葉を聞いてがくりと肩を落とす女性。名前はミアというらしい。
「レイナ君……ここはもう大学じゃないが、言っていいことと悪いことが」
「い、いいんです。全部本当のことですから……それよりもあたしなんかが一緒でごめんなさい。大事な試験なんですよね?」
レイナが淡々と答える。
「先生の合格がかかった試験です。あなたも負ければ解雇でしょうね」
ミアは落ち込んだ様子で答えた。
「ヴェルガーさんは近衛騎士団でも、騎士団長の次に最強と呼ばれる方なのに……あたしだけクビならまだしも、命の恩人まで巻き込んでしまうなんて……」
「何を言っているんですか? 先生が一緒なのですから負けるわけありません。ね、先生?」
レイナは平然とした様子で言った。
近衛騎士団の強者に、宮廷魔術師の副師団長の息子。
正直言って相手を打ち負かす自信はない。
でも戦う前から落ち込んでいては勝てる戦も勝てない。レイナは元気づけてくれているんだ。
俺は深く頷く。
「大丈夫だ、ミア。俺が必ず勝たせる。だから頑張ろう」
ミアは顔を上げる。
「……はい。なんとか足を引っ張らないよう、頑張ります」
俺とミアは互いに頷きあうのだった。
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副師団長はギベルドの肩に手を置いて怒鳴る。
「ギベルド、ギベルド!! いつまで震えておる!!」
「や、やだ……あいつと戦ったら……あの女怖いよお」
「一体どうしたというのだ? いずれにせよ、あの女はお前とは戦わん! ワシが消してやる! お前の対戦相手は支援魔術しか使えない雑魚と、近衛騎士団最弱の新参だ!」
「へ?」
「二人ともお前の敵ではない。それに、凄腕の近衛騎士ヴェルガーも呼んでおるのだ。負ける要素がどこにある?」
「な、なんだ、そうか……そ、そうだ! 俺があんなやつらに負けるわけがねえ!!」
「その通りだ!! 行け、ギベルド! 全力でやるのだ! 殺してしまっても一向に構わん!」
「おっしゃ! 任せろ、親父! 消し炭にしてやんよ!!」
ギベルドはすっかりと調子を取り戻す。
ヴェルガーはそれを呆れるような顔で聞いていた。
(お偉いさんにいいように使われてしまうようだな……しかし、ミアにも光る物はある。それにあの男、どこか油断ならない)
トールを凝視するヴェルガー。その肩に副師団長がポンと手を乗せた。
「お願いするぞ、ヴェルガー! 男のほうは殺してもいい!」
ヴェルガーはその言葉には何も答えず、両手剣を強く握るのだった。