閑話 宮廷魔術師団長の帰還
あとがきにお知らせがありますのでご覧いただけると嬉しいです。
月光が差す謁見の間。皇帝は、大窓から祝賀ムードに包まれる帝都の街を満足そうに眺めていた。
夜空に上がる花火の音、各地から響いてくる歓声と音楽。そこに扉の叩く音が加わった。
「陛下。宮廷魔術師団長、ただいま帰還いたしました」
「入れ」
「はっ」
衛兵が扉を開き、宮廷魔術師団長を名乗る男が皇帝のもとへと歩み寄る。男はそのまま皇帝の背に向かって片膝を突いた。
「陛下。この度の失態、誠に申し訳ございません」
「失態? そなたはよくやった。計画通りであれば、ワシとそなたでジィルバスに勝利できたであろう」
皇帝は男に振り返る。男は頭を下げたままで顔を見せない。
しかしと皇帝は続ける。
「そうなっていれば、こうして勝利を祝える民はずっと少なかったであろうな。あの、男──そなたの戦友の働きがなければ」
「私も遠目から、彼の戦うのを見ました。昔と変わらない戦いぶり……しかし、彼が宮廷魔術師になっていたことに驚きました。陛下の人たらしの才は存じておりましたが」
「人たらし? 残念ながら余が呼んだわけではない。たまたま、エレナが呼びよせておったのだ」
「殿下が……エレナ殿下の言葉であっても、正直彼が動くとは思えませんでした」
「そこはうまくやったのじゃろう。レイナ、レナ……あやつは、いくつも名を持ち合わせておるからのう。そのようなことより、会いにいかなくてよいのか? ギスバールとの戦いの後で別れてから、一度も会っておらぬのであろう?」
男は一瞬の間沈黙すると、口を開く。
「私は……私に、あの男の隣に立つ資格はありません」
「ふむ。それはやはりアレンの……いや、詮索はよそう。そなたたちのことだ」
「お心遣い痛みいります……ともかく、此度のジィルバス討伐、もっとうまく対処すべきでございました。私にやはり宮廷魔術師の資格は」
皇帝は呆れるような顔で言う。
「そなたもトール殿も人物じゃが、似た者同士じゃな……謙遜が過ぎるというよりは、どうにも自信がなさすぎる」
「自信もなくしますよ……私はすでに死んでいるも同じ。アレンも……あいつも守れなかった。人間としても、父親としても最悪な男です」
「そなたが最悪な父親なら、余はエレナにとってどうなるのであろうなあ……」
皇帝は苦笑いを浮かべる。やがて男のもとに歩み寄り肩を叩いた。
「半月ほど休暇を与える。その後もしばらくは帝都で任に就いてもらう。父親の務めを果たせ」
「しかし」
「ジィルバスは破った。残党もたいした問題ではない。それに懸念の国境には、すでに諸侯を送っておる」
「ですが」
「くどいぞ。そなたの考えはお見通しじゃ。トール殿と顔を合わせたくないのであろう?」
皇帝の言葉に男は黙り込んでしまう。
「図星のようじゃな。先も言ったように詮索はせぬが、そなたもトール殿も、今や帝国の宮廷魔術師。そなたは上司で、トール殿は部下だ。協力しなければならぬ」
それにと皇帝は続ける。
「そなたの娘のルーナ、いたくトール殿を気に入っていると聞いてお──っ!?」
「──ルーナが、トールと!? あいつ、ルーナに何をしたんです!?」
男はいつの間にか皇帝の眼前に迫っていた。顔に焦燥の色を浮かべ、さっきまでの悲しげな声はどこへやら訴えるような声だった。
「陛下、もう一度お聞かせ願います! ルーナがトールと何を!?」
「お、落ち着け!! そなたらしくもない! ただ、そなたの娘がトール殿のもとに足繁く通っておると聞いてな」
「ルーナから!? もっと有り得ない! 私のルーナが、あんな……お調子者と!! 絶対に、あの男が何かしたんだ!!」
「よ、余も何度か見ただけだが、トール殿はとてもそんな男には見えなかったぞ……」
「エレナ殿下を誑かすようなやつですよ!」
「余はトール殿であれば、いやむしろトール殿こそ、エレナと結ばれるにふさわしい男と考えておる。それほどの男と見ておるが」
「陛下はただ強いお世継ぎが欲しいだけでしょう!! ……こうしてはいられません! ルーナにあいつだけはやめるよう言い聞かさなければ!」
男はそう言い残すと、皇帝に背を向けて謁見の間を足早に去っていった。
皇帝は男の背中を見てふうと息を吐く。
「……娘のこととなると、ずいぶんと感情的になるのだな。初めて知ったぞ……あとで余の人物事典に書き留めておこう。宮廷魔術師団長……ルイスよ」
しかしと皇帝は続ける。
「いやはや、心底驚いた。いつも暗い顔をしていたあの男が、あのような顔を見せるとは……いや、むしろあれがアレンやトールに見せていた素顔だったのかもしれんな」
皇帝はふたたび城下に目を向ける。そして大きな広場に立つ勇者アレン像に目を向けるのだった。
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本作『万年ヒラ教師の支援魔術師、最強の賢者になる』、フルカラーの縦読みマンガになりました!
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(教師という語が加わり、微妙にタイトルが変わっております!)
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