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第37話 支援魔術師、虚を突く!!

 俺はレイナと共に再び走り出す。


 レイナは心配そうな顔で訊ねてくる。


「先生、無理はなさらないでくださいね」

「大丈夫だ。少し休んだら良くなった」


 まだ膝に痛みは感じるが、レイナに触発されたせいか全く気にならなくなった。もちろん【自然治癒】も効いてきてはいるのだろうが。


 これ以上、レイナにみっともないところは見せられないし……


 そんな中、レイナがこんなことを呟いた。


「先生。約束を忘れないでくださいね」

「約束?」

「あら、全部思い出したと思ったのに……」


 レイナは少し不満そうな顔で呟いた。昔……レナだったレイナと何か約束したのだろう。


 だが、ピンとこない。


「ご、ごめん。必ず守るから後で聞かせて」

「今の言葉、忘れないでくださいね」


 嬉しそうに答えるレイナ。

 もちろん俺にできることならなんだってやってあげたい。レイナにもレナにも多大な恩がある。 


「ああ。 ……ともかく、ジィルバスの場所を探さないとな」


 俺は【魔視】を使い周囲の魔力の反応を詳しく調べた。すると、進行方向の奥から膨大な魔力の反応を感じ取る。


 そこには、一際大きな黒いテントが。ジィルバスの天幕に違いない。


「この先だ──おっと」


 やがて、俺たちの前にデーモンが十数体現れる。


「通すな!! なんとしてもジィルバス様をお守りするのだ!!」


 デーモンたちはこちらへ両手を向け闇魔術を放とうとする。


 レイナが鞘から刀を抜いて言った。


「私がつゆ払いを」

「ああ。支援する」


 俺から【加速】と【軽量化】を受けたレイナは、闇魔術をすんなりと避けていきデーモンたちとも間合いを一挙に詰める。


「くっ!? こいつ!!」

「──遅い」


 レイナはそのままデーモンたちの前を刀を振りながら駆けていった。


 デーモンたちは短い悲鳴を上げながら地面へと倒れていくのだった。


 その骸を横目に、俺とレイナは走る。


「レイナ……さすがだな」

「先生の支援魔術がなければ、ここまで大胆には動けません。あっ」


 レイナは俺の後ろのほうに目を向ける。


 そこには魔物を蹴散らしながら進む者たちが。


「先生!!」

「来たわよ、おっさん!!」


 アルノとルーナが競うように魔物を倒しながら、こちらへと走ってきていた。


 その後をミアとヴェルガー、シェリカとアネアが追ってくる。


「皆……!」

「先生、後ろは任せろ!」


 アルノは魔物を倒しながら叫んだ。


 レイナが言う。


「先生、後ろは皆に任せ、ジィルバスを倒しましょう」

「ああ」


 俺たちは頷きあうと、再び黒い天幕を目指す。


 すでに抵抗する魔物はほとんどいなかった。俺とレイナを見て逃げる魔物のほうが多い。


 そんな中、ようやくテントの前へとやってきた。


 そこには、骸を重ねた玉座に座るデーモンがいた。黒い鎧を身に纏った華奢な青年──頭の二本角と翼がなければ、人間の美男子にしか見えない。


 ジィルバスは玉座に座りながらレイナを睨む。


「お前が我が軍を」

「私ではなく、こちらの私の先生がやりました」

「お前が……?」


 レイナの言葉に、ジィルバスは俺を不思議そうに睨む。やがて耐えきれなくなったのか笑い出した。


「ははは! この弱そうな人間が!? はは、人間のくせに面白い冗談を言う!!」

「見た目だけで他者を断じて破滅する……所詮はあなたもギスバールの下っ端に過ぎないということですね」


 そうレイナが呟くと、ジィルバスは途端に顔を顰める。


「何ぃ?」

「ギスバールが阿呆なら、その弟子も阿呆って言いたかっただけです」

「貴様……!! ギスバール様を愚弄にするか!!!」


 ジィルバスは立ち上がり、こちらに手を向ける。


 これはレイナなりの作戦だ。敵を怒らせ自らへと惹きつける。


 その間、俺は自由に行動を取りやすくなるわけだ。


 ジィルバスは早速、手から紫色に輝く光の槍をこちらへと無数に放ってくる。


【ダークジャベリン】か。【聖纏】をかけた【シールド】でも、受ければ三発で壊されてしまう。


 ここは……守備より攻撃だな。


「レイナ!」

「はい!!」


 俺は走り出すレイナに【加速】と【俊足】をかける。


 レイナは【ダークジャベリン】を避けると、ジィルバスへと瞬く間に肉迫した。


「小癪な!!」


 ジィルバスは地面へと手を向けると、周囲に黒い紫色の魔法陣を展開する。すると、魔法陣から紫色の光線が四方に放たれた。


 それを見たレイナが距離を取ると、ジィルバスは再び【ダークジャベリン】を放ち始める。


「私に傷をつけようなど、百年早いわ!! 私の魔術は、ギスバール様に教わったものなのだぞ!!」


 そう叫びひたすら【ダークジャベリン】を撃つジィルバス。


 牽制のつもりか俺にも数発放ってきている。こちらもジィルバスへ【聖光】を放ち、レイナを支援した。


 その甲斐あってか、レイナはジィルバスへと再び接近し目にも留まらぬ速さで刀を振るっていく。


 だがレイナでさえもジィルバスを斬ることは叶わなかった。斬撃自体はジィルバスの鎧を何度か斬りつけているのだが、傷を与えるには至っていない。


 あの黒い鎧にも様々な防御系の魔術がかけられているのだろう。これ以上接近すれば、先ほどのように周囲への攻撃に巻き込まれてしまう。


 とはいえ、それが原因でジィルバスも攻撃にあまり力を入れられていない。


 少数で一万の大軍をかき乱した。しかもレイナの動きは超人的……レイナを相当警戒しているようだ。


 だからこそ、この戦いは俺にかかっている──俺が仕掛けよう。


 俺が目配せすると、レイナはジィルバスの後方へと回り込む。ジィルバスはそれを追って、俺に背を向けた。


 こちらには恐ろしいほど気を配らない。まるで背中を撃てとでも言わんばかりだ。俺の【聖光】程度では効かない──そんな自信があるのだろう。


 あるいは俺にあえて接近させようとも考えているのかもしれない。接近させ仕留めようと。


 いずれにせよ、俺を軽視していることの表れ。


 俺は自らに【影纏】をかけ剣を抜くと、ジィルバスへと走った。


 後ろから迫る俺に気が付かない──フリをするジィルバス。その腕に魔力を宿すのに俺は気がつく。周囲への攻撃の準備だ。


 しかし、こちらも剣で攻撃するフリをしているに過ぎない。


 ……少々負担は大きいが、ジィルバスを倒すためだ。


 俺はある魔術を自らにかける。


「──【不動】!!」


 高速で走っていた俺の足は突然に止まる。


 すかさず俺は剣を持っていない手をジィルバスへ向けた。


「【魔増】、【猛魔】──【聖光】!!」


 ジィルバスへ向け、聖魔術【聖光】を放つ。さらにその【聖光】に【加速】をかけた。


「──っ!? 剣は囮か!!」


 ジィルバスは慌てて【シールド】を展開しようとする──が間に合わず、俺の【聖光】を胸に食らってしまう。


「ぐうっ!!」


 胸を抑えるジィルバス。鎧の胸甲部分からは大きな亀裂が走り、鎧がボロボロと崩れていく。


「今度はこっちです!!」


 そこへ容赦なくレイナが刀を振りかぶり迫る。


 ジィルバスは咄嗟に腕を前にし手甲で防ぐが、レイナの斬撃の衝撃を受け止めきれず体ごと吹き飛ばされてしまう。


 地面を転がっていくジィルバス。

 鎧も手甲も破壊され、中に着込んでいたローブもボロボロとなる。


 ジィルバスはうつ伏せのまま顔を上げると、悔しそうに地面を叩いた。


「……やはり私は……私は!! ……ギスバール様、申し訳ございません!!」


 だがレイナはすかさずジィルバスへと走っていく。俺も【加速】をかけた【聖光】を放った。


 ……おそらくは【大魔召喚】を使うつもり。さっさと仕留めなければ。


 しかし、俺たちの前に他のデーモンたちが割って入る。


「ジィルバス様!!」

「我々が時間を!!」


 身を挺して【聖光】からジィルバスを守る魔物たち。レイナによってバサバサと斬られていく。


「皆、すまぬ……私は無能だ……だが、臆病ではない! あの日逃げたのは、全て今日のため!!」


 味方のデーモンが犠牲になる中、ジィルバスは手を掲げる。


 くっ……間に合わなかったか。


「……ギスバール様。今、お側に参ります」


 満たされたような顔で呟くジィルバス。その体はたちまち黒い瘴気へと変わり、天へと上がっていった。


 その後を追うように、周囲のデーモンたちも黒い瘴気へと姿を変え、ジィルバスの瘴気へと集まっていく。


 やがて黒い瘴気が一つとなると、俺たちの前には巨大なデーモン──ルキフェルが現れるのだった。

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