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第31話 支援魔術師、近衛騎士たちと山岳要塞に挑む!

 俺は近衛騎士団の魔術顧問という仕事も得られた。

 週に一、二回。午前中に近衛騎士たちに魔術を教える仕事だ。


 なんだか一周回って大学に戻った気分。


 しかし気分は違う。

 廃坑ダンジョン含め、大量の戦利品を得た。給料ももらっているし、好きな食事が食べられる。


 何より今は教え子がこんなに──


 今は近衛騎士団の練兵場で、ミアをはじめとする近衛騎士たちに魔術を教えていた。


「むむ……トール殿、申し訳ない」


 手からボスっと小火を出したヴェルガーは、俺に咄嗟に頭を下げた。


「気にするな。魔力の量は練習次第で伸びる」

「しかし」


 ヴェルガーは同じく魔術の鍛錬をするミアを横目で見る。ミアは掌に収まりきらないほどの炎を生み出せていた。


 自分にはやはり魔術の才はない──ヴェルガー以外の近衛騎士たちにも同じ思いを抱いていそうな者がいた。


 残酷な話だが、特にどれだけ魔力を扱えるようになるかは、個人で差が出てくる。


 俺も冒険者だった時代は、仲間との魔力の差を悔しく感じたものだ。だから強みを作るため、支援魔術を学び始めた。


 そして、ヴェルガーや他の近衛騎士たちにも既に強みはある。


「最初から支援魔術をかけて自分の能力を上げる……というやり方は今は難しいかもしれない。でも、ヴェルガーには、卓越した剣の腕がある。例えば剣で膠着したとき、ここぞという時に使うことはできる」

「ふむ、なるほど……いきなり魔術を使うことで、奇襲のような効果も期待できると」

「ああ。例えば【加速】なら全身だけじゃなく、腕だけにかけることだってできる。一秒の差が、戦況を打開するかも知れない。少ない魔力でも十分戦える。」

「ありがとうございます、トール殿。弱音は吐かず、もう少し鍛錬に励んでみます」

「ああ。ヴェルガーならできる」


 頭を下げるヴェルガー。


 他の近衛騎士たちも魔術の鍛錬に励む。


 今俺の魔術を学んでいるのは全員で十名ほど。


 だが、ヴェルガーのように魔術への苦手意識を持つ者も多いようで、未だ悩んでいる者も多い。


 実際にヴェルガーやミアが支援魔術を使っているところを見れば、もっと増える……はず。


「それに十人も学びたいなんて、大学の時は考えられなかった……」

「何、ニヤニヤしてんの……」


 振り返ると、そこには同じく近衛騎士に魔術を教えるルーナがいた。


「お、ルーナ。悪いな、付き合わせて」

「べ、別にいいわよ。どうせ、最近はやることもそんなないんだから」


 そんな中、後ろから「トール先生、ルーナ先生、また明日!」と指導を受けていた近衛騎士が手を振る。


 ルーナは得意げな顔をしながら無言で手を振った。俺も手を振りかえす。


 大人扱いされるから嬉しいのかな……


「しかし、午後は本当にやることがないな」


 近衛騎士たちに魔術を教えるのは午前中だけ。もう終わる。

 午後は自分で仕事を探さなけばいけない。


 ルーナが呟く。


「冒険者たちが頑張っているしね。それにおそらく切り札だった地下水道のダンジョン建設も、あんたが阻止したわけだし」

「俺はほとんど何もしてないけど……そういえばレイナは」


 先ほどまでは俺と一緒に魔術を教えてくれていた。それがいつの間にかいなくなっている。


「エレナ殿下と仕事に行くって」

「殿下と?」

「買い物だかなんだかだって。夜には終わるってよ」

「そうか……」


 レイナはいつも何かあれば一言告げてくれた。


 いや、本来は俺に何かを言う必要なんてない……俺の世話なんかしているのがおかしいんだ。


 それでも気になるのは、多分この前の出来事でレイナが愛想を尽かしたと思うからだ。


 思いっきり酔っ払っちゃったあの日……不甲斐ないだけでなく、酔っ払う。印象としては最悪だ。


 なんとか名誉挽回しなければ……


 そんなことを考えていると、アルノが俺の元にやってくる。少し思い詰めたような顔をしていた。


「先生」

「おお、アルノ。どうした?」

「そろそろ、指導終わりですよね?」

「ああ」

「この後、お時間ありますか?」


 俺とルーナは顔を合わせる。


「ちょうど、昼の仕事どうしようか二人で話してたんだ。なんかあった?」

「はい……実は大事な仕事が二つ、同時に入ってしまって」

「そのうちの一つを、ってことか。いいよ」

「ありがとうございます……一つは陛下からの正式な命令で、隠れたダンジョンの捜索。これは遠いので俺が行きます。もう一つは密命で、あの山が見えるでしょうか?


 アルノが指差したのは、帝都の南に見える高い山だった。


 俺もかつて行ったから知っている。


「エルド山か……」

「はい……かつてギスバールの手勢が魔導兵器を置いた場所」


 あそこに魔術を用いた兵器を置かれ、帝都とその城壁は多大な損害を受けた。市街は炎上し多くの人が亡くなった。


「あのエルド山には戦後、帝国軍が要塞を築いて駐留していたのですが……それが本日未明に落とされたのです」

「なんだって……」

「ダンジョンコアを持ち込まれていてもおかしくない……つまり、魔物たちの拠点がエルド山に築かれることになる」


 過去にあのエルド山のせいで、帝都は大損害を受けている。


「帝都の人々が知れば大混乱は必至だな……」

「故に陛下は、秘密裏に少数の精鋭で要塞を奪還することにしました」

「それで、アルノに」

「はい、ですが、もう一方もギスバール関係の可能性が高く……お願いできないでしょうか?」

「俺でどうにかなりそうなら」

「ヴェルガーとミアを連れていってもらって構いません。それに、既に帝国の最高戦力を派遣している、と陛下は仰せです。どうか、お願いできないでしょうか?」

「なるほど」


 そう呟くと、隣のルーナが呟く。


「私も一緒に行ってやるから大丈夫よ」

「き、君も行くの?」


 アルノが不安そうに呟くと、ルーナが怒る。


「馬鹿にすんじゃないわよ! 私は間違いなく帝国一の魔術師なんだから!」


 俺はルーナを宥めるように言う。


「ル、ルーナが来てくれるなら嬉しいよ。アルノ、ルーナは強い。ヴェルガーたちも一緒なら、俺も不安はない」

「そうですか……ありがとうございます、先生! それじゃあ、俺は行ってきます」

「ああ。そっちも頑張れ」


 俺はミア、ヴェルガー、シェリカ、アネアたちに顔を向ける。


「悪いが、ついてきてくれるか?」

「団長の依頼なのです。むしろ、我々がお願いしたいぐらいです」


 ヴェルガーがそう答えると、ミアも元気よく答えてくれた。


「私も同じく! それに、支援魔術も実戦で試したいですし」


 シェリカとアネアもうんうんと頷く。


「私たちも、【加速】使えるようになったしね」

「私は【鉄壁】も少し使えるようになったわ」


 ヴェルガーは呆れた顔で言う。


「お前たち、これは密命なのだぞ」

「まあまあ。結局、戦いの中で使ってみないと有用性も分からないだろう……もちろん、気を引き締めていかないとだが」


 そうして俺たちは、帝都の南にあるエルド山へ向かうことにした。


 高速馬車で街道を三時間。


 俺たちがエルド山近くの農村に到着すると、麓は物々しい雰囲気に包まれていた。


 山の麓の周囲は演習という名目で帝国軍によって封鎖されていた。当然、情報統制のためだ。


 俺たちは兵士のもとへと進んでいく。


「宮廷魔術師、トールです。勅命により、山の中へ通していただきたい」

「はっ。どうぞお入りください」


 兵士たちに中に入れてもらい、俺たちはまず山道を目指す。


 頂上の要塞には、南北に麓から山道が伸びている。

 俺たちは北から、そして南からは皇帝が派遣した戦力が攻めるわけだ。


 しかし攻めると言っても簡単ではない。山の中腹などには土塁などが築かれ、既に魔物たちが防衛線を敷いているのが分かる。


「常に高所から攻撃を受ける形になる……厄介な」


 ヴェルガーは山の上を見て行った。


 加えて、やはり要塞を落としただけあって強力な魔物が多数確認されているらしい。


 昔ここを落とした時も、多くの兵士や冒険者が死んだな……


 あのようなことにならないよう、迅速に要塞を奪還しなければ。


 しかしミアが盾を構えて言う。


「こういうときこそ、私の出番です。シェリカとアネアも盾を使えます。私たちが先頭になって進みます。皆、先日のアーマードゴーレムの魔王鋼で鎧も武器も新調したばっかりですし!」


 廃坑ダンジョンの戦利品はほとんどミアたちの装備の強化に使ってもらった。暗殺者たちを捕縛してくれたお礼だ。


 しかし、シェリカとアネアは不安そうだ。


「二人とも、大丈夫だ。俺が三人の盾に【鉄壁】をかける。後、【シールド】も皆にかけるから。ゆっくり進んでくれ」

「分かった……不安だけど頑張る」

「大事な任務ですからね」


 二人とも首を縦に振ってくれた。


「あとは皆に【疲労軽減】もかける。山での戦いは損耗が激しいから、【加速】とか体に負荷をかける魔術はここぞという時以外、使わないようにね」

「はい!」


 皆、俺の言葉に頷いてくれた。


「それじゃあ、行こうか」


 そうして俺たちは、エルド山の登頂を始めた。


 一方その頃──南からも、一人の剣士が走り出しているのだった。

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