表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/41

第3話 支援魔術師、支援する!

 吹きすさぶ北風に逆らい、帝都へと続く石畳の街道を歩いていく。


 ヴェレン魔術大学を出て一週間。

 あと五日ほどで帝都に到着というところまで来ている。


 毎日宿に泊まるお金はないので、なるべく野宿をしながら帝都を目指している。そのせいか、体中あちこち違和感だらけだ。


「【疲労軽減アリヴィエイト】使ってきたけど、年かな……」


 昔は一週間野宿なんてざらだった。十年という時間は残酷だ。


「体動かしてなかったしな……だけど」


 冒険者だった時代を思い出す。男五人で世界中を旅したことを。


「仕事が決まらなかったら、ダメもとで冒険者ギルドを覗いてみるかな……うん?」


 前方から何やら騒がしい声が響いてきた。


 街道沿いでの騒動となれば相場は決まっている。賊や魔物に襲われているのだろう。


「まずいかもな──【軽量化レウィス】、【加速】、【俊足ファスト】」


 体を軽くする【軽量化】、体の動きを速くする【加速】、さらに走りを速くする【俊足】を自らにかける。これで馬の速さと同じぐらいで走れる。


 体への負担は大だが、致し方ない。騒動の場所へと走っていく。


 すると、前方から若い男が二人走ってきた。


「あんな数、勝てっこねえ!」

「あいつが囮になっている! 逃げるんだ!」


 男たちは薄着だった。おそらくは鎧や武器を装備していたのだろうが、脱ぐなり捨てるなりしてきたのだろう。


「魔物から逃げている──」


 脇を走り去っていく男たちを尻目に、街道を走る。


 やがて前方に、車輪が外れた馬車を囲う無数の人影が見えてきた。


 いや、人は少ない。巨大な盾を持って戦う鎧の者が一人、あとは非武装の老若男女の人間が五名、一ヶ所に集まって怯えている。


 その周囲を十数以上の緑肌の小人──ゴブリンが取り囲んでいた。


 鎧の者が振り返って叫ぶ。


「逃げてください! ここはあたしが抑えます!!」


 どうやらゴブリンたちに馬車が襲われているらしい。


 全部で十五体、多いな……さっき逃げた者たちは多勢に無勢と逃げたのだろう。


 腕力が貧弱なゴブリンだが、人間より俊敏に動ける。


 対する鎧の者は全身を覆う板金鎧と兜を身に付け、人の背丈ほどもある大盾を手にしている。メイスを持っているものも動きが遅く、ゴブリンの攻撃を防ぐので手一杯だ。


 急いで支援しよう。


「加勢する!」


 そう叫んだ後、鎧の者に支援魔術を施す。


「【加速】!」


 まずは動きを速める。


「──っ!?」


 鎧の者はすぐに体の状態の変化に気づいたらしい。


 早速飛びかかるゴブリンを盾で薙ぎ払うと、メイスを他のゴブリンへと振りかぶる。


「俺も攻撃といきたいところだが」


 ゴブリンの何体かが非武装の者たちへと迫っている。


「【遅延】!」


 非武装の者に迫るゴブリンの動きを遅くする。


 鎧の者は俺の意図に気がついたのか、動きの遅くなったゴブリンを倒してくれた。


 しかし、そんな鎧の者の後ろからゴブリンが飛びかかる。


「──【不動スタンド】!」


 【不動】を喰らったゴブリンは、地面へと落ちてしまった。


 本来【不動】は衝撃や突風などに耐えるため体や装備を重くする魔術だが、こんなふうにも使える。【遅延】と併せてかければ、敵によってはほぼ動けない状態にできるのだ。


 鎧の者はその隙を逃さず、ゴブリンを倒した。


 そのまま鎧の者は、盾でメイスで、次々とゴブリンを屠っていく。


 狼狽えるゴブリンたち。


「もう、【遅延】は必要ないな。俺も」


 攻撃に加わろうと思っていると、遠くから馬蹄の音が響いた。


 非武装の者たちが歓喜の声を上げる。


「衛兵が来た!」


 騎乗した衛兵たちを見て、ゴブリンたちは近くの森へと大慌てで撤退していく。


「やった! 逃げていくぞ!」

「まだ若いのにすごいじゃないか、あんた!」

 

 周囲の者たちは鎧の者を称える。

 衛兵たちもその活躍を見ていたのか、賞賛の声を送った。


 倒れている者もいないし、怪我人もいない。衛兵も来たし、あとは大丈夫そうだな。


 もう俺は必要ない。帝都を目指すとしよう。


「あと、もう少しで帝都だ──って、足つった」


 悲鳴を上げる足を労わりながら、俺は再び街道を征くのだった。


〜〜〜〜〜


 ゴブリンを倒した後、鎧の者──ミアは自分を囲み称える声に困惑していた。


「いや、あたしは普通はあんなに速く動けないんです! ……あ! あの、待ってください!!」


 ミアが発したトールへの呼びかけは、周囲の者たちにうち消されてしまう。


 トールは満足そうな顔をすると、街道をスタスタと行ってしまった。


 男性がミアへと声をかける。


「いやあ、さすが近衛騎士に選ばれただけある。閃剣のレナみたいで格好よかったよ」


 隣の女性が男性を小突いて答える。


「見たこともないくせに。しっかし衛兵さんもすぐ駆けつけてくれるし、本当助かったわ」


 衛兵は剣を鞘に納めと、街道の先に見える石造りの塔を指差し答える。


「エレナ殿下のおかげだ。帝国全土の街道や町村に多数の見張塔を立ててくださったからな」

「帝国に入る前はもっと賊や魔物に襲われたからのう。帝国は上から下まで人材に恵まれて羨ましい。あ、いや失礼」


 老人の声に衛兵が笑う。


「ははは。自慢じゃないが、帝国人は皆思っているよ、ご老人」


 衛兵はミアの鎧に刻まれた帝冠と盾の紋様を見て言う。


「君は近衛騎士見習いなんだろう? いやはや将来が楽しみだ」

「わ、私は本当に……」


(自分の実力ではない。あの男のおかげだ──あの男が来なければ今頃死んでいた)


 ミアの視線は遠くなっていくトールに向けられているのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ