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第29話 支援魔術師、酒で微睡む

 アルノとエトムントらのダンジョン攻略競争は、エトムントらの造反失敗という意外な結末を迎えた。


 エトムントらは皆、貴族階級の家の者たちだったため皇帝に厳罰を言い渡された。具体的には家督や遺産の継承権を奪われ、公職に就くことが禁じられたのである。


 しかし……アルノにしては優しくなったと思う。


 皇帝は当初自らが任じた近衛騎士団長への叛逆は、自らへの反逆と同じだと死刑を命じたが、アルノは自分の至らなさだと死刑を免じさせた。


 アルノとしては、皇帝が死刑を命じることでエトムントたちの一族が皇帝を恨むことを心配したのだろう。


 皇帝もその意を汲み取ったのか、アルノに感心した様子だった。


 暗殺者も死刑は免れた。取り調べの後も命は取らないつもりらしい。


 ともかく、近衛騎士団の不穏分子を一掃でき、さらに暗殺者ギルドの壊滅にも道筋をつけられた──


 俺も少しは貢献できたかな……


「先生、何落ち込んでんの?」


 俯いていると、アルノが右の席からそう声をかけてきた。振り返ると、そこには酒ぐさいアルノが。相当酔っているらしい。


 ダンジョンでの一件の翌日の夜、俺たちは皆で飲み屋に来ていた。酒が飲めない俺やレイナたちも楽しめるよう、飯が美味しいお店だ。


 アルノの隣には、心配そうにアルノを見るヴェルガーがいる。


「騎士団長! それぐらいにしてください! トール殿は恩師なのでしょう? 失礼ですよ!」

「ああ!? 俺に逆らうのか、ヴェルガー!?」


 威嚇するアルノと一歩も引かないヴェルガー。俺はアルノの体を引き寄せて言う。


「まあまあ! ヴェルガー。そんなことは気にしないから大丈夫だ。アルノは俺に元々敬語は使わないんだよ」

「んだんだ」


 変な声を発するアルノ。ヴェルガーは唖然としている。


 アルノは今まで酒を飲まなかったのかもしれない。ヴェルガーはアルノの豹変ぶりに驚いているのだ。


「酒のせいだ。あとでよく叱っておくから、どうか見放さないでやってくれ、ヴェルガー」

「も、もちろん。騎士団長は何もかも完璧すぎました……むしろ人間的な一面を見れて、少し安心したかもしれません」


 小さく笑うヴェルガー。


「……いい部下を持ったな、アルノ……おい。今日はそれぐらいにしておきなさい」

「ういー」


 俺が酒杯を奪うと、アルノは体をフラフラ揺らし俺に寄りかかってきた。酒臭い。


 シェリカとアネアはそんなアルノを見て目を丸くしている。


「昨日はあんなに格好良かったのに……」

「なんだか今はそこら辺の男と変わらないわね」


 ミアはこう呟いた。


「きっと疲れちゃったんじゃないかな。Sランクダンジョン攻略もあったし、今回のこともあったし……それが先生だったトールさんに会えて何か安心したのかも」

「トールさん、頼りなさそうだけど安心する顔してんもんね」


 俺を見て言うシェリカ。

 安心する顔ってどういう顔か分からないが、褒め言葉として受け取っておこう。


 アネアがうんうんと頷く。


「でも、昨日はトールさんも頑張りましたね。あの暗殺者のおっさん、割と強そうだったけど」


 ルーナがおもむろに口を開く。


「私から見たら、暗殺者の中であの男が一番強そうだったわ。アーマードゴーレムだってあれだけ速く倒せたのはおっさんの支援魔術のおかげ……」

「お。ルーナもミアみたいにトールさん派?」


 シェリカがニヤリとした顔で呟くと、ルーナは顔を背ける。


「ち、違うわよ!! ただ、おっさんにしては頑張ったなって思っただけ!」


 おっさんにしては頑張った……俺確かに頑張ったよ……おっさん一人倒しただけだけど。


 ルーナの励ましが胸に沁みる。


 そんな中、レイナが俺の顔を覗き込むようにして言った。


「先生、お疲れですか?」

「いや……やっぱり俺が魔術顧問だなんていいのかなって。そもそも宮廷魔術師としても」

「先生……」


 レイナは俺を見て顔を暗くした。


「ご、ごめん。つい後ろ向きなことを」

「先生。私は今まで先生から魔術を教わってきました。だから私にはわかります。先生の魔術の教え方は世界一です!」

「レイナ……」


 ミアも答えてくれる。


「あたしも先生のおかげで、もう魔術が使えるようになりました! 顧問なんて楽勝ですよ!」


 その声にシェリカとアネアもうんうんと頷きながら言う。


「馬鹿な私たちでもスラスラ理解できるしね」

「もっと自信を持ったほうが男はモテますよ、トールさん」


 ヴェルガーはこう答えた。


「のみならず、戦術も大したもの。私もぜひトール殿から教えを乞いたい」

「……んだ! トール先生は世界一なんだ! トール、最強! 馬鹿にするやつは俺が許さねえ!!」


 酔っ払っているのか大声を発するアルノ。


 周囲の視線が痛い。小っ恥ずかしいからやめてくれ。


 無理やり手でアルノの口を押さえるも、皆の励ましは嬉しい。


「皆……」


 飲めない酒に思わず手が伸びる。ゴクゴクと一気に飲み干してしまった。


「俺……顧問頑張るよ」

「おっしゃ!! 良く言った! 今日は先生の顧問就任祝いだ!! 先生が全部奢るからもっと皆食べろ! 俺ももっと飲むぞ!」


 アルノは酒杯を掲げて言う。


「お前はそれぐらいにしろ!!」


 と、そう言った俺も結局アルノに無理やり飲まされてしまった。ヴェルガーも結局潰された。


 レイナたち酒を飲めない女性陣も食事が美味いのか会話が弾んでいるようだ。


 喧騒の中、夜が更けていく。


 ああ、なんだか昔を思い出すなあ……


 懐かしさの後になぜか寂しさが胸に去来する。


 俺は──微睡の中に落ちていった。

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