第27話 支援魔術師、教え子と巨大ゴーレムを倒す!
坑道を抜けた先は、広大な洞窟だった。
目の前には、二階建の家の高さはあろう、巨大なゴーレムが立っていた。
誰もが圧倒されるような大きさのゴーレム──しかし、アルノは余裕の表情で呟く。
「もう、ボスか。短いダンジョンでしたね」
「廃坑自体がダンジョンだからな。ダンジョンの構造物より魔物に力を入れているんだろう」
「その魔物も大したことはない……ただでかいだけ」
「ただでかいか、大きく出たな」
こいつはアーマードゴーレム。
岩の巨体の上に、分厚い鎧を身に纏った強力な魔物だ。
鎧はこの前俺が倒したデスイーターの鎌と同じ魔王鋼が使われており、近接武器の攻撃に強く、魔力を宿し、魔術耐性がある。しかもその強さは大きさに比例する。
先ほどのゴーレムたちみたいに、一撃で葬れる相手ではない。
しかしアルノは言う。
「先生、弱気になった……なりましたね」
「それはそうだろう。こいつは──おっと、来るぞ」
アーマードゴーレムは顔の部分に光を宿し始めた。
それからすぐに光線が放たれる。一発だけでなく、まるで雨のように放ってきた。
「アルノ、後ろへ!」
俺はシールドを展開し、その光線を防いでいく。
アーマードゴーレムの体は膨大な魔力を宿せる。その魔力を使い、アーマードゴーレムは攻撃魔術を放てるのだ。
「アルノ。どうしたい」
「俺一人ならチマチマ【炎纏】を纏った槍を胸に突き続ける。十分以上はかかるかな」
「なるほど。じゃあ、五分は短縮できるかもな……アルノ、やつを引きつけられるか?」
「余裕! ……です!」
アルノはそう答えると、アーマードゴーレムへと走った。
アーマードゴーレムは俺を光線で牽制しつつ、腕をアルノに振るった。アルノはひたすら回避する。
やがてアルノが背を見せ後退しようとすると、アーマードゴーレムが片足を上げた。
「今だ──【不動】!」
俺はアーマードゴーレムの上がった片足に【不動】かける。そのままアーマードゴーレムはバランスを崩し、うつ伏せに倒れてしまった。
これならしばらく反撃の心配はない。
「【劣化】、【炎纏】!」
俺はアーマードゴーレムの背に【炎纏】をかける。
「今だ、アルノ!!」
「了解!!」
アルノは高く跳ぶと、槍に炎を纏わせる。
「うぉおおおおお!!」
そのまま槍をアーマードゴーレムの背に突き刺した。すると、ビキビキと鎧にヒビが入る。
慌てて立ち上がるアーマードゴーレムと、距離を取るアルノ。
「うん? 一撃で鎧を……」
アルノは自分でも驚くような顔をする。
アーマードゴーレムの鎧が音を立てて崩れていったからだ。
「よし、アルノ。今がチャンスだ!」
もはやそこには丸裸となったゴーレムしかいない。こうなれば敵ではない。
「了解! やります!」
アルノが再び走り出すのに合わせ、俺はゴーレムの胸に【炎纏】と【劣化】をかける。
ゴーレムの胸へと跳ぶアルノ。そのまま炎を纏わせた槍を突き出し、ゴーレムに胸に風穴を開けた。
それからアルノがゴーレムの胸を蹴ると、そのままゴーレムはバタンと倒れるのだった。
ガシャガシャと岩が崩れ落ちていく中、着地するアルノ。こちらに振り返り、グッと親指を立てる。
「先生、やった……やりました!」
昔、アルノは俺を馬鹿にした生徒によく決闘を挑んで勝利していた。あの時と変わらない笑顔を俺に見せてくれる。
昔のアルノは俺に敬語を使わなかった。先ほどから少しずつ砕けた口調になっているのは、やはり無理をしているのだろう。
五分どころじゃなかったな……三分もかからなかった。アルノは昔よりもはるかに成長している。
「先生、お見事でした! まさか、あの大きさのゴーレムの足を掬うなんて」
「いやいや……お前の成長には驚かされた。まさか、こいつをここまで速く倒すなんて」
かつての仲間アレンたちに匹敵するほどだ。
アルノは恥ずかしそうに頭を掻く。
「いつも先生には怒られていたのに……なんだか変な気分だ」
「それだけ大人になったってことだ」
「そっか。俺もう、先生と酒飲める年なんだ」
「俺は酒飲まないって言っただろ……ともかく、まずはコアをやるぞ」
「了解!」
アルノは急ぎダンジョンコアを破壊する。
すると俺たちの体は、ダンジョンの外にある空洞へと転移させられた。目の前には、ダンジョンコアの中に入っていた宝石と、アーマードゴーレムの残骸が見える。
「アーマードゴーレムの鎧は確か魔王鋼でできているんだったな。ミスリルほどじゃないが頑丈だし、魔術耐性があるし魔力も宿せる。部下たちの鎧や武具にするといい」
「はい! もちろん先生も」
「あ、いや。俺はもう魔王鋼で剣を作ったんだ」
「おお。ってそれ……凱旋式のとき一緒にいた女性と同じ剣! 先生……まさかついに彼女できたんですか!? メチャクチャ美人じゃん!」
「ち、違う! レイナはお前と同じ、俺の元教え子だ! とても綺麗で優しくて、しかも強くて格好いい……俺なんかのために色々やってくれているし」
「へえ……色々」
アルノが不敵な笑みを浮かべる。
「と、ともかく俺に見合う子じゃない! ──って、うん?」
後方から魔力の動きが迫ってくるような気がした。
アルノも気配を察知したようだ。
二人で【魔視】を使ってみる。
人型か……オークとかの魔物か? あるいは近衛騎士たちか。
だが、味方に対する動きではない。こちらを窺うような動き。顔を向けた瞬間、動きが慎重になった。
「気味が悪い奴らだ──【魔光】」
俺は魔力の反応に、魔力を可視化させる魔術を放つ。
すると、人型は姿を露わにした。
現れたのは魔術師風のローブの者──しかしローブを脱ぎ捨てる。
「ふむ……なかなかやるようだ」
目の前には、体に密着するような服を着る男が現れるのだった。
〜〜〜〜〜
「やっぱり暗殺者!」
「だ、大丈夫かな、二人とも?」
天幕の中で、ルーナとミアは心配そうに映像を見ていた。
シェリカとアネアも同様に固唾を呑んで見守る。
ヴェルガーももしもの時は自分もいつでも駆けつけようと、鞘を握っていた。
その後ろでは、レイナが恍惚とした表情でブツブツと呟いている。
「綺麗で、優しくて、強くて、格好いい……綺麗で、優しくて……皆さん、少し映像を巻き戻しても」
暗殺者など気にも留めないレイナであった。




