第26話 支援魔術師、廃坑ダンジョンに挑む!
顧問を依頼された翌日。
俺は帝都から馬で半日かかる山間にある、Aランクダンジョンへ来ていた。
高く聳える山の麓に、坑道の出入り口が見える。
ここは帝国有数の大鉱山の廃坑にできたダンジョン。
帝都から遠く近くに人里もないため、魔物はここをよく拠点にするようだ。人間がコアを破壊し坑道の出入り口を塞ぐも、またそれが掘り返され……といたちごっこになっている。
昔、俺も何回か来たことがあるのを覚えている。
アルノはエトムントたちへこう叫ぶ。
「では、俺と先生、そしてお前たち、どっちが早くコアを破壊できるか。それでいいな」
「ああ! 我らが勝てばお前はクビだ!! お前が勝てば騎士団を去ってやる!」
叫ぶエトムントの後ろには、三十人を越す者たちがいた。
約二十名は近衛騎士たち。残り十名ほどは助っ人の魔術師風の者たちだ。
魔術師もそれなりに強力なやつを集めたんだろうな。フードを目深に被っているやつらなんて、まさに強者感が溢れている。
アルノが答える。
「今の言葉を忘れるな! では、始める! 合図を!」
アルノが呟くと、近衛騎士の一人が角笛を吹く。
そうしてダンジョン攻略競争が始まった。
「先生!」
「ああ」
俺とアルノはそれぞれ自分に【加速】と【俊足】をかけ、一気に出入り口へと駆ける。
「な、なんだあの速さは!?」
遠くなっていくエトムントたちの声を背に、俺たちは坑道を走っていった。
中は暗いが、俺もアルノも【夜目】を使えるから問題ない。
アルノが走りながら言う。
「分かれ道は多いですが、坑道自体の地図は把握しています。あとはダンジョン部分を捜索するだけ」
「分かった。廃坑にできたダンジョンは今までの経験上、廃坑の奥地にあることが多い」
「同意見です、奥地を重点的に探します!」
元々廃坑だった場所と、ダンジョンコアで形成されたダンジョン部分は異なる。
まずは廃坑の中にあるダンジョンの出入り口を探さなければいけない。
しかし、魔物たちは廃坑部分を自らの陣地として利用するわけで……
俺たちの目の前に、岩の巨人──ゴーレムが現れる。
ゴーレムは岩でできた体を持つ、タフな魔物だ。腕を振り下ろされれば、生身の人間はひとたまりもない。
しかも、体を破壊しても岩の中にある核を破壊しなければ、また岩を集め復活する。
俺は攻撃魔術が不得手で、アルノも岩に有効なメイスなどではなく槍を手にしている。
本来なら不利な相手だが……
アルノが槍を構えて走る。
「一気に核をやります!」
「分かった──【劣化】!」
俺はゴーレムの胸の一点に、物を脆くする【劣化】をかける。
アルノはその脆くなった一点に、槍を突き出した。
ゴーレムの岩の体はバラバラと崩れるのだった。
俺が【劣化】をかけた部分は、ちょうどゴーレムの核の部分の外側に当たる。アルノはその部分を的確に槍で突いたのだ。
「お見事です、先生! 昨日の【不動】もそうでしたが、全く魔術は衰えていない」
そう言われると嬉しい。ただ、たかが一体倒しただけだ。
「まだ一体だ──次くるぞ!」
「はい!」
俺たちは坑道のゴーレムを次々と倒していくのだった。
〜〜〜〜〜
トールたちが挑むダンジョンの近くに設けられた天幕。
その中にはソファが置かれ、レイナたちが座っていた。
シェリカとアネアの声が響く。
「す、すっご!! 一撃でゴーレムを仕留めるなんて!!」
「やっぱり格好いいなあ、騎士団長!」
シェリカとアネアは、天幕の壁に映るアルノに釘付けだった。
アルノは迫るゴーレムを次々と一撃で粉砕していく。
この壁の映像は、レイナの魔道具によるもの。浮遊する球にアルノやトールを追わせ、映像を送らせているのだ。
そんな中、ミアはこう呟く。
「でも、きっとトールさんの支援魔術のおかげ」
「ああ。騎士団長とは幾度となくゴーレムと戦ったが、少なくとも二回は突く必要があった。一撃目は岩を破壊し、引いて、二発目で核を破壊する。それが、一撃か」
腕を組みながらヴェルガーは呟いた。
「岩ごと核を破壊させる……さすがトールさんですね」
ミアが感心するように言うと、シェリカとアネアはニヤリと笑う。
「ミア、トールさん好きだねえ」
「ベタ惚れじゃん」
「そ、そういうことじゃなくて!」
慌てて答えるミアの隣で、ヴェルガーが真剣な表情で呟く。
「私も惚れた……」
一瞬、顔を赤らめるシェリカとアネア。
「ヴェ、ヴェルガーさん、トールさんのことが」
「……ぜひ、トール殿に顧問となって魔術を教えて欲しいものだ」
ヴェルガーの言葉に、シェリカとアネアはホッと息を吐く。
一方のルーナは難しそうな顔で違う映像を見ていた。
トールの力量に今更驚くルーナではない。ゴーレムごとき一発で倒させることに何の驚きもなかった。
「なんか臭うなあ」
ルーナが見ていたのはエトムントたちの映像だった。
エトムントは舌打ちを響かせる。
「ちっ……入り口付近で仕留めるつもりが……おい! 四人ずつ分かれて捜索するぞ! お前たち……魔術師殿たちは自由に動いていい!」
ルーナは首を傾げる。
「近衛騎士と組まずに、魔術師を自由に動かせる?」
各チームに分かれるエトムントたち。
一方の魔術師たちはスッと姿を消してしまった。
「あいつら、ただの魔術師とは思えない……」
「おそらくは暗殺者ギルドの者でしょう」
淡々と答えるレイナに、ルーナは唖然とする。
「あ、暗殺者ギルド!?」
「エトムントは騎士団長を殺すつもりです。連れてきた魔術師のほとんどは暗殺者でしょう」
ヴェルガーが深刻そうな顔で訊ねる。
「レ、レイナ殿。それは本当か?」
「誰だって勝てる勝負しかしたくない。今まで団長に敵わなかったのに勝負を受けたのは何故?」
「確かに……こうしてはいられない」
ヴェルガーは鞘を握り、天幕を出ようとする。
しかしレイナがその肩を掴んだ。
「待って。何もする必要はないわ。先生とアルノなら、何も心配いらない」
「そ、そうは思うが」
「大丈夫よ。私たちは入口から逃げ出す謀反人どもを捕まえればいい」
レイナはそう言って、サイドテーブルに置かれていた茶を口にする。
ヴェルガーはしばらく悩むような顔をしていたが、やがてこくりと頷いた。
「私たちはゆっくり、先生とアルノの戦いを拝見しましょう」
(アルノは帝国一の槍使い。単純な戦力としては、勇者アレンにも引けを取らない……)
「ふふ、面白いものが見られそうですね」
〜〜〜〜〜
「先生、ゴーレムの種類が!」
「ああ。より頑丈なアイアンゴーレムが出てきたな」
アイアンゴーレムは鉄でできた体を持つ。
ゴーレムよりも頑丈で、中には腕が刃物になった個体もいる。
ダンジョンではコアの近くになるほど強力な魔物になる傾向がある。つまり、ダンジョンの出入り口に近づいている証拠。
「きっと近くだ──まずは、アイアンゴーレムをやるぞ」
俺はそう言って、アイアンゴーレムの胸の部分に【劣化】と【炎纏】をかける。
ゴーレムの胸の一部が赤く溶けると──
「【炎纏】!!」
アルノも自身の槍の穂先に【炎纏】をかけ、溶けた胸を突き刺した。
ビリビリとアイアンゴーレムの体に亀裂が走り、やがてガシャガシャと残骸が崩れ落ちる。
「次!」
「はい!」
俺たちはアイアンゴーレムを倒して進んでいく。
やがてアルノが呟いた。
「あの横穴は地図にはない場所! あそこでしょう!」
「よし、突入するぞ!」
そうして俺たちはダンジョンへと入っていく。
ダンジョン自体は坑道とあまり変わらない構造。
出てくるアイアンゴーレムを蹴散らし進んでいく。
やがて数分もしないうちにダンジョンコアのある部屋に着く。
そこには七色に輝く金属の体を持つ、巨大なゴーレムがいるのだった。
次回、ボス戦──しかし!
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